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4:霊脈

「……一体何をしているのですか」

「傍から見れば分からないと思うが、今俺はこの地の霊脈と接続しているところだ」

「霊脈に接続……?」


 ヴェルナーさんは分からないと言った表情をする。

 確かに魔導士でもない彼には霊脈なんてピンとこない話だったかもしれない。

 しかも俺は長い詠唱もなしで魔法を発動させたのだから。

 それこそドミニク団長の言う通り、ただ土いじりしているだけにしか見えないのだろう。


「大地には魔力の流れである霊脈(レイライン)が通っている。この霊脈は言わば、この星の血管といっていいものだ。魔導士はこの霊脈に魔法を使って接続ができる」


「じゃあ、今は魔法を使っているのですか?」


「あぁ、詠唱なしだったから分かりにくかっただろうけど」


「詠唱もなしに魔法を発動したと……そんなまさか」


 ヴェルナーさんが俺を驚くように見ていた。

 確かに魔導士が魔法を行使するには長ったらしい呪文を詠唱するのが一般的だ。


 この霊脈に繋がる魔法だって、本来なら『偉大なる不動の大地よ。幾千の時を経ても変わらぬものよ。その身に脈打つ星の力を我に貸し与え給え』という呪文を言わないとダメなんだ。


 それを俺は『接続開始(アクセス)』の一言で済ませていた。


「この手袋に術式を刺繍している。この術式のお陰で詠唱を省略させているんだ」


 手にはめた黒の手袋はただの手袋じゃない。俺お手製の魔導具でスペルグローブと読んでいる。

 詠唱を行うことで魔法を行使できるが、チョークで書いたような魔法陣でも魔法を扱うことができる。

 それは魔法陣に書かれた術式が詠唱の代わりをするからだ。

 そして、この手袋は魔法陣と同じ力を持つ。

 

 いちいち長い詠唱をするのも面倒だし、魔法陣を書くのも面倒だから、もうあらかじめ術式を手に書いちゃってもよくないか?

 というズボラな発想の元、俺が開発した時短グッズだ。

 直で手に書くといちいち消したりするのも面倒だし、刺青にすると変えがきかない。


 だから手袋の布地に刺繍することにしたのだ。

 金糸の幾何学模様が土魔法の汎用術式である。


 これがまためちゃくちゃ面倒い作業だった。

 楽をするための道具だったはずなのに、この刺繍作業がぜんぜん楽じゃなかったんだ。

 あと魔法陣の縮小化の技術も。

 おかげで俺の裁縫スキルが上がったのは言うまでもない。


 そして出来上がった俺の便利グッズだったが、すぐに使用禁止の命令が下った。

 詠唱を短縮させる便利な物なのになんで? と思うかもしれないがこれは現代魔導士の価値観の問題だった。


『詠唱をしなくていいだと? ロシュ君、君は我々宮廷魔導士を侮辱しているのかね? 詠唱してこそ魔導士たるものだ! 長い詠唱をきちんと覚え、素早く噛むことなく淀みなくするのが一流の魔導士なのだぞ! 詠唱をしないようにするなど怠慢もいいところだ。三流の魔導士が考える浅ましい方法ではないか!』


 これは筆頭魔導士ドミニク団長のありがたいお言葉だ。

 宮廷魔導士(エリート)の間じゃ、詠唱しない魔導士というのは詠唱呪文もまともに覚えられない落ちこぼれという認識が一般的なのだ。

 実際、俺がこれを開発したきっかけはそういう理由だったしな。

 そういう発想に至ってしまった俺は宮廷魔導士失格だったのだろう。


 当然、その魔導具は宮廷魔導士が使うには相応しくないとして、使用禁止の命令が下ったのだった。

 ……まぁちょっとこっそり使ったりとかしたことがあったが、今更バレてももう退職してるから問題ないだろう。

 それに今の俺は宮廷魔導士じゃなくて、閣下の魔導士だ。


 さて、手袋のことを考えている内に霊脈との接続が完了した。

 思ったより時間がかかってしまった……。それも乱れがすごいからだろうか?

 人の手も加えられていない自然な霊脈だからだろうか、糸が絡まったようにめちゃくちゃな霊脈をしている。

 これが本当の宮廷魔導士のようなエリートなら、すぐ終わらせられたのかもしれないな。


 それにしても整備されていない霊脈なんて、初めて触れたかもしれない。

 いつもは整備済みの王国の霊脈ばかり触っていたからな。


 デモニアは確かに王国領だが、今まで人が住んでいたことはなかった辺境の地だった。

 だから霊脈を整える必要もなかったのだろう。俺もこの地に来たことはなかった。


「――《調査(スキャン)》」


 大地の霊脈がこんがらがっているが、情報を得るのには問題ない。

 霊脈は大地を通っている。だからその霊脈を通して、大地の情報を知ることができるんだ。


 ふむ、なるほど。あのあたりだな。


「――《術式構築(コントラクション)》」


 指定の場所を見つけたら、脳内に魔法術式を思い浮かべ、それをそっくり書き写すように操作する。


「閣下! ゴブリンたちを右のあの場所に誘導してくれ!」

「承知した!」


 俺の言うことなんて聞いてくれるだろうか、といった心配も杞憂だった。

 閣下は言う通りに他の騎士たちに指示を出しながら、ゴブリンたちを俺が示した場所まで誘導していく。

 劣勢に見せかけて、逃げるように騎士たちが走れば、ゴブリンたちが追い立てるように付いていった。


 地響きが大地を通る霊脈を通して、俺の体の中に響く。

 その地点を馬が通り過ぎ、次に来るのは狼たちの群れ。


 ――よし、今だ!


「ゴガ?」

「ゴガガっ!」


 ゴブリンたちが通りずぎようとしたその時、その足元の大地が割れ、陥没が起こった。


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