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2:首切り騎士に拾われた

「もらうってどういうことですか?」

「そのままの意味だよ。私は君が欲しいんだ」


 俺が欲しいだって? 何かの冗談だろうか。

 それに、そんな女が言われたら一発で落ちそうな台詞を俺に言わないで欲しいんだが。


 ほら、そこの女子とかなんだがうっとりした目で閣下を見てますよ。

 ……おいやめろ、そこ変な妄想をしようとするんじゃない。俺を巻き込まないでくれ。


「……女遊びに飽き足らず、ついに男に手を出そうと言うのですか、兄上」


 呆れた目線を送るのはユリアン陛下だ。


 ――レイナルド・フォン・エーデルハイト。


 この国の第一王子にして王位継承権第一位だった人(、、、、)

 知っての通り、現在のリーラ国王はユリアン陛下だ。


 ユリアン陛下は第二王子であり王位継承権第二位だった。

 そんな彼がなんで王の座についたのかと言うと理由は簡単だ。


 レイナルドというのは遊び人のうつけ者だったからである。


 女遊びは激しく、日夜王宮を抜け出しては遊び歩いていた。

 しかも、レイナルド閣下は第一王子ではあるが母親は第二王妃。

 それもかなり強引な手で王妃の座を得たようで、血統の低さからしても貴族側からは評判が良くなかった。


 その点ユリアン陛下は第一王妃の子であり、血統も申し分ない。

 性格にはちょっと問題がありそうだが勤勉で真面目そうだし、兄のような奔放性はないだろう。


 それにレイナルド閣下も王位には興味がないと公言し、殆ど継承を放棄していた。

 なので特に継承争いもなく、平和的にユリアン陛下が王となったのだ。


「……俺、愛人とか死んでもしませんよ」


 ……で、その弟に王位を譲ったうつけ者が今、俺の隣りにいるわけなんだが。

 このレイナルド閣下は見かけた女の子は大体口説いているプレイボーイだ。

 俺も宮廷内でメイドを口説いている姿を何度か見ていた。


 そんな女の子大好きだったはずの閣下が、何故か俺を欲しいと言った。

 ユリアン陛下のようにその線を疑ってしまうのは仕方ないことだろう。

 ……俺は本当に何か悪いことでもしたんだろうか。


「安心してくれ、そんなつもりじゃないから。――ロシュは我が公爵家専属の、お抱えの魔導士として欲しいんだよ」


 レイナルド閣下の言葉に、その場に居た全員が驚く。

 ……俺も驚いた。なんで俺? 俺は貴方とはまともに会話もしたことがありませんよ。


 レイナルド閣下は組んでいた肩をさらに引き寄せる。

 ちょっとばかり俺の背が高いから、俺は必然的にかがむこととなった。

 その状態でレイナルド閣下が俺に耳打ちをする。


「ロシュにとっても悪い話じゃないはずだよ? 君は今、職をクビになった。再就職はまず難しいはず。なにせ陛下から直々にクビを言い渡されたんだ、どこも雇ってはくれないだろうね」


 悔しいがレイナルドの言う通りだ。

 魔導士というのは数少なく、どこへ行っても歓迎される職だが、国王からクビを言われた俺を雇ってくれるところなんて他にはないだろう。


 国の外ならまだ希望はありそうだが……どこもかしこも戦争をしているこのご時世だ。

 休戦協定が結ばれているとはいえ、他国に入れるかも怪しい。


「俺を拾ってくれるんですか?」

「最初からそう言っているよ。そもそも私がここに来たのは君を引き抜くためだ」


 ……最初から俺目当て?

 どうして俺をそんなにお抱えの魔導士にしたいのか分からない。


「君が必要なんだ、ロシュ。どうか私の元に来てくれ」


 分からないが……レイナルド閣下の顔は真面目なものだった。


 そこには世間で言われているような、うつけ者の顔ではなかった。

 心の中にまっすぐとした信念を持って突き進む――覚悟を持った人の顔だ。


 この人について行ってもいいかもしれないと俺の直感が告げる。


「分かりました。俺は今日から貴方の専属魔導士です」

「その言葉が聞けて嬉しいよ。これからよろしく頼む、ロシュ」


 レイナルド閣下が嬉しそうに俺の肩を叩く。

 ちょっと肩が痛いほど叩かれてしまった。

 まぁレイナルド閣下って戦争でも活躍した生粋の騎士だしな。

 力が強いのも仕方ないし……あれっ騎士?


 ――しまった。そういえばレイナルド閣下って言えば、あの人じゃないか!


「デモニア公爵閣下、その者をお抱えの魔導士になさるのは正直おすすめしかねます。必要であるならば、今からでも他の優秀な魔導士を手配しますが――」


「遠慮するよ、ドミニク。私は彼一人でいい。それ以外の魔導士も寄越さないでくれ」


 ドミニク団長の申し出をばっさりと切り捨てる。

 立場的にはユリアン陛下の次に偉い人だ。

 そんな相手の機嫌を損ねたくはないようでドミニクは黙り込んだ。


 それ以上にレイナルド閣下というのは国一番の怒らせたくない相手でもある。

 遊び人にうつけ者と散々な呼び名があるが、彼にはまだ呼び名があった。


 ――“首切り騎士”。


 大国同士の戦争に追従するように隣国が攻めてきた時、その最前線で指揮をとっていたのはレイナルド閣下である。


 レイナルド閣下はどうやら戦いの才があったようだ。

 その戦場で活躍し、数多の兵士の首をはねたという。

 そんな彼に付けられた呼び名が、首切り騎士だった。

 この国を守った英雄とも呼ばれ、感謝されもするが同時に恐れられる人物だ。


「どうしたんだい、ロシュ?」

「いえ、なんでもありません……」


 職場をクビになったかと思えば、首切り騎士にスカウトされてしまった。


 俺は大丈夫だろうか……。明日から色んな意味で不安だ。

 心なしか元同僚たちからの視線にも哀れなものを見る視線が混じっている。

 首切り騎士に付いていくなんてしたくないのだろうし、いい生贄ができたと思ってもいそうだ。


「そういうことで彼はもらって行きますが、よろしいですね、ユリアン陛下?」

「クビにした魔導士だ。好きにしろ。……むしろお似合いだな?」

「おや、陛下にはそのように見えますか」


 ユリアン陛下が見下したような視線を俺たちに送る。

 この二人の兄弟仲は見ての通り、あまりよろしくない。

 お似合いという言葉がどういう意味かわからないが、絶対いい意味ではないだろうな。

 自分で言うのもなんだが、孤児院出身の俺と並べられてお似合いだと王族が言われるなんて、罵倒以外にはない。

 だけど、レイナルド閣下は特に気にした様子もなく、笑顔で受け流していた。


「ではロシュ、今から荷物をまとめてくれ。ヴェルナー、彼を手伝いなさい」

「はっ!」

「えっ、荷物をまとめるって……」

「決まっているじゃないか。私はデモニア領を統治する君主。つまり君の勤務地もデモニアとなる。これから出発するよ」


 近くにいたおっさんの兵士が敬礼で応え、数人の兵士と共に俺のデスクの物を運び出し始めた。


 王都から離れた北西にあるデモニア。

 戦争で活躍したレイナルドへ、公爵という地位と共に褒賞として与えられた場所。


 はっきり言えば、辺境の地。

 しかも悪魔の地なんて言われている場所だった。



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