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12:魔法陣


「相変わらず、君の魔法は規格外だな……」


 閣下はというと、地面に書かれた魔法陣のほうに興味があるようだった。


「この規模の魔方陣なら、本来ならこの部屋いっぱい使うだろう? なぜここまで縮小できるんだ?」


「それは……なんというか、いつの間にか出来ていた感じだからなぁ。このスペルグローブを作るために魔法陣の縮小化を繰り返していて……そこで技術が付いた感じだな」


 魔法陣は詠唱をしなくてもいいのだが、その分描くためのスペースを取る。

 それが魔法の種類が二種類、三種類と増えてくると大きさもそれに比例していく。

 魔導士が魔法陣を使わずに、詠唱のほうを好むのはこの理由もあったりするんだよな。

 大きく場所を取るくらいなら、詠唱をしたほうが楽だろう。それに書くの大変だし。


 俺はその詠唱が面倒だと感じたから、なんとかして魔法陣の縮小化をしたほうだが。


「それにしても懐かしいな。戦争時も前線から送られてくる剣や鎧を直しまくってたよ……修理できるのが俺しかいないから大変だったなぁ」


 しみじみと過去のことを思い出してしまった。

 あの時は本当に大変だった。

 前線から送られてくる大量の修理品をなんとか捌いていたっけ。

 今では農村のクワやカマとかをたまに修理するときくらいしか使わなかったなぁ。


「やっぱり、あれも影の英雄、ロシュさまがやっていてくださったのですね!」


「どうやらそのようだな」


「え、何? 今度はなんだって言うんだ?」


「前線に届けられた修理済みの武器や防具、そのどれもは修理が完璧どころか、性能がよかったんだよ」


「敵の魔法を受けても耐えてくれましたからね。そのおかげで私たちも怪我をすることが減りましたし、あの装備のおかげで命を拾った人はたくさんいると思います!」


「そうだったのか……」


 確かに修理ついでに改修も行っていたが、そこまで効果が出ていたとは。

 俺自身は前線に出ることはなかったから、そういった変化を知ることはできなかったんだよな。

 できる限り、この武具を使う人が生き残ってくれるようにと思って改修していたが、ちゃんと効果があったようだ。


「あの武具があったからこそ、戦争に勝てたようなものだな」


「それは大袈裟だと思うが……」


「全然大袈裟ではありません! 性能の良い武具、そしてポーションがあったからこそ、前線の兵士たちの被害は格段に減ったことで、兵士の数も減ることがなかったんです! やはりロシュさまは影の英雄と呼ばれるに相応しい活躍をしていますよ!」


「リタの言う通りだ。ロシュが居てくれたからこそ、我が国はあの戦争で勝つことができた。本当に感謝する」


「いやそんな! 俺はただ当たり前のことをしていただけだから! それに実際に前線に出ていた兵士たちや閣下やリタがいたからこそ、勝利できたものだろ。俺はその手伝いを少しした程度のものだって」


 前線に出る人がいなければ、勝てる戦も勝てない。

 使ってくれる人がいなければ、武具だって意味がないだろう。

 俺は結局、前線に立つことはなかったんだ。

 だから、前線に立ち、実際に戦った人たちこそが賛称されるべきなんだ。


「ロシュさま、なんて謙虚な人なんですか……!」

「全くだな。だがロシュ、確かに前線にいた兵士たちもそうだが、君の働きも勝利に貢献していたことは確かだ。それを忘れないでくれ」

「閣下……」


 閣下の言葉は不思議と俺の心に染み込んでくる。

 改めて、俺がやってきたことはけして無駄ではなく、ちゃんと意味があったのだと思えた。

 なんだか報われた気分だった。


 俺がやっていたことは普通だと思う。

 でも、その当たり前なことでも、ちゃんと評価してくれるのはやはり嬉しいものだな。

 前の職場みたいに不当に全否定されるのも、それはそれで嫌だからな。

 ……ただやっぱり、大袈裟な気もするが。


「嬉しい言葉をありがとう。まぁなんであれ、俺は俺にできることをするまでだな。さて、修理を始めるが……他にも修理が必要な武器や防具があったら俺のところに持ってくるように他の人たちにも言ってくれ」


「わっかりましたー! 私が言ってきますね!」


 元気な返事をしてリタが部屋を飛び出していった。


「どれくらいの数を修理すればいいだろうか……閣下?」

「ん? あぁ、すまない」


 何やら考え込むように、閣下は先ほど俺が直した剣を見つめていた。


「君は武器を作り出すこともできるんだな?」

「まぁ、本職ではないが、できなくはないな」

「なら、私の武器も作れないだろうか?」

「それは……確かに閣下の今の武器は合ってないんだろうとは思っていたが」


 だけどこれは簡単な話ではない。

 なにせ閣下は普通の騎士ではなく、魔導士だ。


「閣下ほどの力を持つ魔導士に合う武器となると、それ相応の魔晶石を使った魔導具でないと無理だな。だから魔晶石がないと作れるものも作れない」


「やはり、そうなるか……」


 閣下は残念そうに肩を落とした。

 その気持ちは痛いほど分かる。

 魔導士にとって魔導具は大事なものだ。

 魔導具がないと魔法すら使えない。

 そして魔導具も、きちんと自分に合った物でないと満足に魔法を発動することができない。


 近年はその魔晶石は希少性が高くなっていて、入手が難しくなっている。

 採掘される鉱脈や魔晶石を持つ魔物を生み出す迷宮を巡って戦争するほどには貴重なものだ。


 ちなみに魔法陣を使えば、魔晶石は必要なかったりする。

 魔導具が出力機で、詠唱が魔法の種類などを設定するもの。

 魔法陣はその二つの機能を兼ね備えている。


 最初は確かに長い詠唱をしなくて済むようにしたかったのだが、まともな魔晶石を持つことが難しい魔導士だったのもあって、スペルグローブの開発や魔法陣の研究を進めていたんだよな。


 それでも魔法陣が流行らないのは散々言っているように、スペースの問題とか図式を描いたりするのが難しいからだな。


「分かった。魔晶石は方法を考えておく。もし手に入れた時は君に頼んでいいな?」

「もちろんだ」


 全力で魔法が使えないのはもどかしいだろうからな。

 閣下のためにも、魔晶石が手に入った時にすぐに作れるように設計図を考えておこう。


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