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1:クビになった

「貴様はクビだ、ロシュ・エイダン!」

「……えっ?」


 今言われた言葉に対して、俺は理解できずにいた。

 クビ? えっクビですか? 俺は明日から無職ってことですか?


「陛下の言葉が聞こえなかったのかね、ロシュ君。君は宮廷魔導士をクビになったのだよ」


 ポカンとする俺にありがたくも実に嫌味ったらしく、再度説明してくれたのはドミニク団長だった。


 ドミニク団長は宮廷魔導士団を纏める筆頭魔導士だ。

 禿頭の壮年の魔導士で、俺の上司にあたる人でもある。


「陛下、申し訳ないのですがクビになった理由を教えていただけますか?」


 俺はドミニク団長の隣に立つ陛下を見る。

 たった今俺にクビを言い渡した、我がリーラ王国の王、ユリアン陛下を。


 十六歳の彼は今年国王に戴冠したばかりだ。

 王族の血筋を示す真っ白な髪の下から覗く顔立ちはまだ幼さがある。

 ……ボブカットの髪型もあって、ついマッシュルームを思い出してしまったのは黙っておく。


 隣国との戦争中に先王が病死し、第二王子だったユリアンが継いで王になったのだ。


 そんな新しき王は戦争終了後、荒れた国内を正すために内政に目を向けた。

 その一歩として宮廷改革と表して、王宮内の様々な部署の見直しをしており、今日は宮廷魔導士団の番だったわけだ。


 魔導士団が所有する研究棟に現れた陛下は、手元の資料に目を通しつつ、ドミニク団長の説明を聞いていた。

 同僚たちはちょっと浮ついていたが、俺はいつも通り仕事をしようとデスクを立った時に、先程のクビを言い渡されたのだ。


「ほう、自分がなぜクビにされるか分からないと?」


 どこかバカにしたような目線を俺に向けながら殿下は話し始める。


「ロシュ・エイダン。エイダン孤児院出身。適正属性は土。王立魔導学院を首席で卒業後、宮廷魔導士となる」


 陛下が手にした資料にはここにいる魔導士全員のプロフィールがあるのだろう。

 そこに書かれている俺の短い履歴を読み上げていく。


「戦争時は後方拠点の兵站業務に携わっていたそうだな?」

「はい、その通りです」

「なぜ前線に出なかった。魔導士というものは前線で戦ってこそだろう?」

「それは前線に配備されなかったので」


 魔導士というものはその力はどれも偉大だ。

 そのため戦争時は兵器のように運用され、前線に投入されるのが殆どである。


 だが俺が配備されたのは後方の拠点だった。

 前線に物資を届けるための兵站部隊だ。

 後方にも魔導士が必要なのだろうと、当時の俺は特に疑問に思わずそこで従軍していた。


 さっきも言ったが魔導士というのは前線に求められるものである。

 昔から戦場の花形と言ったら魔導士なぐらいだ。有名な英雄だってそうだ。


 国からも重宝される存在のため、魔導士の多くもそのように振る舞うものが多い。

 その中で後方支援だけをしていた俺はどうやら自分の希望で後方にいったものだと思われていた。

 そのせいで未だに同僚たちからは腰抜けだと、魔導士としての責務をしていないと言われることがある。

 俺としては与えられた職務を真面目にこなしていただけだというのに。


「ならば抗議してでも前線に出ればよかっただろう」

「ええ、まったくその通りですなぁ。しかし彼は一度だって私に抗議をしませんでした」


 ドミニク団長が皺がれた顔に皺を増やすように、ニヤニヤと笑っている。

 ……俺を後方に配備したのはドミニク団長だろうと後で気付いた。


 見て分かると思うが、ドミニク団長は俺のことを毛嫌いしている。


 魔導士の多くは貴族が多い。しかもこの宮廷魔導士というのはさらにエリートが就くべき職業だろう。

 そこに孤児院出身の俺は放り込まれたわけだ。どうなるかなんて、分かりきっている。


 主席で卒業した孤児院出身の宮廷魔導士。

 傍から見ればどん底から這い上がった成功者だが、貴族魔導士からは不愉快極まりない存在でしかない。


 俺の後方配備もその嫌がらせの一環だったのだろう。

 魔導士なのに前線に出られないなら、さぞ悔しがるだろうと思っての行動だ。


「むしろ彼が死なないように後方に配置してあげたのですよ、陛下。何せ彼は土属性ですからね」


 ここぞとばかりに陛下に向かって言うドミニク団長。

 土属性というのは正直言って魔導士の間では人気がない。

 地味だなんだと言われているし、戦闘面では役に立たないとされている。

 現代においては積極的に研究されることもない。

 土属性の適性が出た日にはすぐに別の属性が適性になるように矯正されるものだがら、土属性持ちは限りなく少ないほどだ。


「しかし陛下、確かに俺は他の魔導士に比べたら戦果はなかったかもしれません。ですが土属性の力は日常生活のほうで役に立つものだと思います」


「ほう? ならばロシュ君、君は戦争が終わってから何をしていたかね? 新たな魔法を発明したかい? それとも便利な魔導具を作ったかね? 君はいつもいつも畑へ行って土をいじるばかりではなかったか!」


 ビシッと俺を指差してドミニク団長が言う。


「それは……俺はいつも作物が育ちやすいように土壌の中の霊脈(レイライン)の調整をしていたので――」

「作物など水さえ撒けば育つものだろう? そんなことのために魔導士の力を使っていたのか?」

「実にその通りです、陛下。私も再三と言ったのですが彼は聞き入れてくれなくて……」


 呆れる陛下にうんうんと頷くドミニク団長。

 おいおい、まじかよ……。水だけ撒けば育つなんてそんな簡単じゃないって。


「この国で作物が育つのは霊脈をしっかりと整えていたからですよ。そうでなければ不毛の大地になります」


 霊脈というのは大地に流れる魔力の流れだ。

 この世界において人間もそうだが、様々な動物はもちろん、植物も必要としている。

 酸素の次に重要と言っていいだろう。

 その魔力の流れがない場所だと大地はやせ細り、作物の育たない土地となる。


 霊脈を整えるのが古来より魔導士の仕事だ。

 なのだが……戦争続きの近年の流れから、魔導士の役目とは戦闘能力のほうがメインとされつつある。


 国中の霊脈を整える作業だって複数の魔導士で行うのが一般的だが、現代の魔導士らしいプライドを持つ同僚たちはそんな地味な雑用仕事はしたくないとやりたがらなかった。

 むしろ俺に押し付けてくる始末だ。


 段々とやってくれる魔導士が減り、上司に相談したがドミニク団長はそんなに気になるならお前がやればいいという態度だった。


 なので仕方なく俺が全部やっていた。

 おかげでここのところは国中を飛び回っていた。戦争で荒れていたせいで余計に難しかったよ。

 そのせいで他の業務ができなかったわけだが……それで土いじりばかりしているだけと言われるとは。


「彼はそう言っているが、どうなんだドミニク」

「それくらいのことご心配には及びませんよ、陛下。土属性の適性がなくても、霊脈の調整など容易いことです。そして彼よりも優秀な魔導士が他にいる。ロシュ君にできて他の魔導士ができないことはありません!」


 確かに土属性は大地と調和性があるから調整がやりやすいだけなので、他の属性の魔導士でもできないこともない。

 宮廷魔導士になれるほどの魔導士ならそれくらい簡単だろう。


「ならば、貴様がいなくても問題ないな」

「そうですが俺は――」

「まだ分からないか、ロシュ・エイダン」


 俺の側にユリアン陛下が近づいていくる。

 身長が小さいから俺を見上げているが、その目は人を見下した目線だ。


「これから私が治めるこの国において必要な魔導士とは優秀で勇敢な人物だ。貴様のような地味でダサい土属性の腰抜け魔導士は必要ないと言ったのだ。これ以上ごねるようならば、貴様を追放する!」


 ……俺は何か間違っていただろうか。

 魔法の才があると気付いた時、この力があればきっと人の役に立てると思ったのだ。

 その一心で、いじめを受けながらも必死で勉強し、主席で卒業したのだ。

 そして晴れて宮廷魔導士となったその年に戦争は起こった。


 この力の出番だと思えば配属されたのは後方だった。

 だが、これも俺の仕事だとし、前線に送る物資を疎かにしてはいけないと職務を全うしていた。

 霊脈の管理だって、もしも作物が育たなくなったら飢饉が起こるから、そうならないようにしていただけだ。


 それなのに、この国のトップのユリアン陛下は俺にクビを言い渡すし、上司のドミニク団長はにたにたと勝ち誇った気持ち悪い笑みを浮かべている。


「やっとあの給料泥棒がいなくなる」

「主席で卒業したのもきっとズルしたからだろ。薄汚い孤児がこの一流魔導士しか入れない宮廷魔導士団に今までいたことがおかしかったんだ」


 周りの魔導士たちの反応も同じだった。

 まるで間違っているのは俺だと言わんばかりで。

 ――ここに俺の味方は誰一人いなかった。


「いいよ……そんなに言うならやめてやる」


 こんな職場、やめてやる。

 ちょうど奨学金も払い終わったところだ。

 割の良い給料じゃなくなっても構わないだろう。


 それに職を失ったところで、魔導士を名乗れないわけじゃない。


「では、彼は私がもらいましょう」

「……えっ?」


 気づいたら俺の腕は後ろに引かれ、肩に手が回った。

 驚いて目線を横に向ければ、息を呑むほどに美しい人間の横顔があった。

 ユリアン陛下と同じ真っ白な髪。銀糸みたいにきらきらとしたそれを後ろでまとめている。

 俺を見つめるその瞳は吸い込まれそうなくらいに綺麗な菫色だった。


「ご無沙汰しております、ユリアン陛下」

「兄上……いや、デモニア公だったな」


 ――その人はユリアン陛下の腹違いの兄、デモニア公爵であるレイナルド閣下だった。



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