屋上4
左手から、腕が、身体が、離れていく。小さくなっていく彼が、スローモーションのように見えた。
彼は、少年が視認できる最後まで笑顔だった。
遥か下には、赤い血溜まり。
親友の姿など、もうわからない。
自身の右手には、彼の左手。
その先にあるはずのすました顔も、細い体も、足も、何一つない。
ただ、赤だけが見える視界。
突如、吐き気に襲われフェンスから転げる様に下りる。
四つん這いになって、嘔吐いている間に無意識に離してしまった左手が、ころりと目に映った。
涙が頬を伝っていた。
どうしてっ!何で!!ふざけるな!!!
わかんねえ、わかんねえよ!!!
悲しくて、悔しくて、情けなくて、不甲斐なくて.........
様々な感情が渦巻き、次いで激しい喪失感と自己嫌悪に、また吐いた。
もう吐くものなど何もなくて、それでも吐き気は止まらなくて、吐いて、吐いて、吐いて、吐きまくった。
そのうちに疲れてしまい、仰向けに寝転がる。
目に入ってくる青空に、再び吐きそうになるが、ぐっと堪える。
もう、あいつはここにはいない。
もう、どこにもいないんだ.....
そういえば、あいつと初めて会った場所.....屋上だったな。
その日もこんな真っ青な青空だったっけ。
徐に立ち上がり、彼の左手を手を繋ぐように右手で握りしめると、手を離さないようにフェンスを登る。
器用にフェンスの上に立ち、もう一度空を見つめ、昔を思い出すように目を閉じる。
そして、
彼がそうしたように、
なんの躊躇いもなく、
これからどこかへ向かうような軽さで、
足を踏み出した。
いつの間にか、一人称になってしまった...