第42話 やるべきこと
魔国アンゲルスにて獣人コウとの訓練が始まった。
内容はコウとの対人戦が基本となる。
狼の獣人コウは職業が武闘家とクロスセイバーでゴリゴリの近距離戦闘タイプだった。
「さぁ、空さん、リルさん、始めますよ。」
ひとときの休憩を挟んでコウが言った
「始める前に聞きたいんだけど。訓練とか鍛錬をするとレベルって上がるの?」
空が質問をした
「はい。一応レベルは上がります。ただ実戦と違い、あくまでも訓練なのでレベルの上がり幅としては少ないですね。例えば、魔物を10体倒してレベルが1上がるとすると、訓練では内容にもよりますが1週間でレベルが1上がると思っていただければと。」
コウが丁寧に教えてくれた。
「なら、魔物を倒してレベルを上げた方が早くないかしら?訓練で1週間使ってる間にランクの低い魔物なら50体は倒せるわよ。」
リルが言った
「たしかにそうですね。ただそれだとレベルだけが上がり、自分の戦闘経験値としては何も得ることはないでしょう。雑な言い方をすると今の空さん達がその例でしょうね。他人に教わった戦い方とセンスだけでここまでレベルが上がったのでしょう。ルシファー様も言ってた通り、あなた方はレベルと自分の戦闘力が見合っていません。はっきり言いますと、先程の戦い、ライオンとネズミが戦っているようにしか見えませんでした。両方とも最後の技は自分を犠牲にして出す技、つまり諸刃の剣でしたし。ランクがBとはギルドも甘くなりましたね。」
リルは少し頭に血が上った
「なら、コウさんは私たちに勝てると?」
「容易いかと。2体1でもいいですよ?始めますか。」
リルと空は剣を構えた。
コウは拳を握り、剣は抜かない様子だ。
「なめられてるわね。空。気を抜かないでね」
「わかってるよ。いくぞ!」
戦闘が始まるとコウの雰囲気が一気に変わった
後ろまで伸びていた毛は逆立ち、そして目がぎらついたのだ。
狼の獣人の戦闘スキルに空達は圧倒された。
コウのスピードは付与魔法付きのリルのスピードを上回っていた
リルの剣技は悉くかいくぐられ、空の魔法はコウの近距離による戦闘とスピードで封じられていた。
「…はぁ、はぁ。なんて素早いの。」
リルが息を切らしながら言った
「…いや、それだけじゃないよ。あんなに身軽なのに、1発の重さはかなりのものだ。これが獣人族か。」
空は言った
「こんなものですか?もっと戦闘を楽しみましょう!!」
コウは言った。
「どうやら獣人族は戦闘になると前衛的な性格になるようね!空!行くわよ!」
空達は剣を構えてコウに向かっていった
そして訓練が始まり2週間が経とうとしていた。
空達はコウには1勝もすることができないまま時間だけが過ぎていった。
だが、先に成長を見せていたのはリルの方だった。
対人戦ではコウは武器を持って戦っていた。
リルはスピードと剣術を上げ常に相手の先を読むことを意識して戦い、先見眼を使用するとコウとは同格、もしくはそれ以上の速さを手に入れた。
問題は空の方だ
コウとの対人戦はまだ武器持たせることができていない。
コウの攻撃は、剣で受け流すのが精一杯で魔法を発動することが出来なかった。
そして発動するために後ろに後退するが、コウはすぐに距離を詰めてその隙を与えてはくれなかった。
そして、対人戦はコウだけではなく、リルとも行われた。
しかし、空の剣術はリルの剣術には手も足も出ず、魔法の発動もコウと同じくさせてはもらえなかった。
空は壁にぶつかっていた。
自分の才能の無さ、そしてこれまで勝てたのは親の剣術と魔術があったからだと自分の無力さを知った。
自分がどう闘えば相手に勝てるのか、まるでゴールの見えない迷路に迷っているようだった。
「空さんは魔法剣士についてどう思っていますか?」
コウが言った
「…剣術、魔術両方を扱える職業で、良く言えば状況に合わせて前衛、後衛ができる職業。悪く言えば、器用貧乏でどっちつかずの職業だと思う。」
空が答えた
「そうですね。たしかに魔法剣士は万能型と言えますね。ですが魔術師の上級職【賢者】と、剣士の上級職【聖騎士】にはどうしても劣ります。それに今の時代の剣士達は魔法で剣や自身の強化魔法ができるのは当たり前です。今までの戦いを見てると、空さんはリルさんが剣術で勝てない相手には魔法で勝ってきたんじゃないですか?」
「…たしかに。振り返ってみると剣術では倒してはいないような…。」
「空さんは魔法剣士の中でも魔術特化型ですね。たしかに魔法の組み合わせ、それにスキルも組み合わせられるとなると魔術のランクだけならA~Sだと言ってもいいでしょう。ですが剣術の方は良く言ってもCランクですね。なので近距離では相手に圧倒されるんです。」
「でも、そこまで魔術のランクが高ければ空は十分強いはずよ。」
リルが言った
「…いや。そうか。いくら魔術のランクが高くても、魔術を発動するまでの過程がダメなんだ。」
空が言った
「そうです。相手が遠距離戦闘タイプなら魔術で圧倒するでしょう。ですが近距離ならまず勝てない。すると一旦後退して魔術に入るのが空さんの戦闘スタイルです。ですが近距離で勝てない相手に後退したところですぐに距離は詰められるでしょう。つまり今のパーティーは高ランクの近距離戦闘タイプと対峙した時、あなた方2人は負けが確定してるんです。」
「なら、やるべきことは…」
空が言うと
「そうです。剣術のレベルアップです。空さんの場合は今の状態で剣術と魔術を組み合わせて近距離の欠点を補っている状態です。なら元々の剣術をもっと鍛えれば、それは足し算ではなく掛け算のように強くなれるはずですよ。」
とコウが言った
空の中で靄が消え自分のやるべきことが定まり、ゴールの見えない迷路から脱出する術が見えたのだ。
そして、空の顔は今までで1番のいい顔をしていた。
「よし。リル!コウ!もう少し付き合ってくれ。」
空が剣を構えて言った
そして訓練は再開され、2ヶ月が経過した。
空とリルは見違えるほど成長を遂げていた。
リルはコウとの戦闘では一進一退を繰り返し、剣術のキレとスピードはコウを超えていた。
火の付与魔法で身体強化をしたリルと先見眼の組み合わせは手に余る強さを誇っていた。
そして空は、この2ヶ月でコウとリルに剣術では勝つことは出来なかった。
だが、剣術は2ヶ月前とは比べ物にならないほどに上がり、対人戦では相手の隙をついて魔法の発動を可能にできるようになった。
剣に付与魔法を施した空の攻撃をリルとコウは止めることはできなかったのだ。
しかし、空は少し自分の剣術に違和感を感じていた。
リルの剣技エブリス流は1つ1つの技に入る過程が鮮麗されていて、相手に休息の間を与えることはない。
だが、空の剣術は独特な間があり、まるでそこにもう一太刀入るような隙間があった。
訓練でその間に緩急をつけることで相手のタイミングを狂わせ攻撃を多彩に仕掛けることにしたが、空は少し父親の剣術に疑問を感じていた。
すると突如眩い光が3人の前に現れた
空達は光で目が霞んだ。
パチパチと拍手が聞こえ、3人が目を凝らして見るとそこにはルシフェルがいた
「良くやったね!本当に見違えるほど成長した。コウも彼らの面倒ありがとね。」
「もったいなきお言葉。」
コウは膝をついて言った
「ルシフェル。僕たちがダンジョンに行くのを許可してくれるかい?」
空が自信満々の顔で言った
「…そーだな。アンジュ大陸の魔物を2人で倒せたらダンジョン攻略を許可しよう。」
ルシフェルは笑いながら言った
空とリルは顔を見合わせて笑った
そして4人は東の洞窟から抜け魔国アンゲルスの外まで歩いた。
魔国アンゲルスを抜けてアンジュ大陸の山脈を歩いていると2匹の魔物が目の前に現れた。
その魔物は蛇の姿で、上半身はコブラのように広がり、女性の形をしていて、下半身は完全に蛇になっていた。
(スキル 鑑定)
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アンジュサーペントLv.115 ランクB
スキル 蛇の皮脂
防御力+20%上昇
魔力耐性+40%上昇
毒液
口から毒液を吐く
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空は鑑定の結果をリルに伝えた
「この魔物は物理も魔法も効きづらい。前の空達なら苦戦する相手だ。訓練の成果見せてもらうよ。」
ルシフェルが空達に言った
「…はい!」
空とリルは返事をし、剣を構えて魔物に向かっていったのだ。
ご愛読ありがとうございます。
コウの強さはさすが魔王の側近というところですね。
獣人族は戦闘種族で、戦争ではいつも最前線に立つ種族です。
空とリルのこれからの成長とても気になりますね。
次回は空とリルの訓練の成果を執筆いたします。
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