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【4本目】運び屋(2018年・米)

【感想】


 クリント・イーストウッドがハリウッド映画界を代表する俳優であり、映画監督であるというということは疑いようのない事実と言えますが、彼の俳優活動は2008年に彼が監督した映画【グラン・トリノ】の時点で終了する予定でした。ほかならぬ彼自身が、同映画の公開時に「今作で俳優業は引退する」と宣言していたからです。


 結局2012年の【人生の特等席】と、本作【運び屋】でその発言は撤回されることになりますが、彼が自身の監督作で俳優に復帰してまで描こうとしたものに、【家族との和解】があると僕は考えています。


 クリント・イーストウッドが主演を務めた映画、あるいは主演兼監督を務めた映画、その多くで彼演じる主人公は、孤独で家族と疎遠で男性として描かれていました。


 彼の出世作であるセルジオ・レオーネ監督の【ドル箱三部作】では彼は【名無し】という役名で出演しています(【モンコ】や【ブロンディ】などは、あくまで他人のつけたあだ名)。また彼の70年代の代表作である【ダーティ・ハリー】シリーズでも、主人公ハリー・キャラハンが家族について言及することはほとんどありません。同じく彼が主演兼監督作を務めた【荒野のストレンジャー】や【ペイルライダー】などの西部劇でも、彼はあくまでよそからやってきた用心棒であり、家族などの個人的な情報に関して言及されることは滅多にありません。(一応【許されざる者】のような例外もあるにはあり)


 そして彼が老年期に入ってからのヒット作【ミリオンダラー・ベイビー】でも、クリント演じる老年の男性は家族と全くまともなコミュニケーションのとれなかった人物でしたし、当時彼の映画主演最終作と謳われ、劇中でも(他映画のネタバレにつき自粛)という展開によって、彼なりの生前葬の側面が強い作品となった【グラン・トリノ】では、孫に自分が死ぬのを待たれる始末でした。


 それらの作品では、家族とまともなコミュニケーションが取れなかった代わりに、同僚や隣人たちと疑似家族のような絆を結んでいくことが物語の肝だったわけですが、そんな彼が(日本では)平成最後の春にスクリーンに戻ってきたのが、この映画だったわけです。


 本作でも、序盤からして家族(特に娘)との最悪な関係性が描写されており、そのシーンを見て僕も(うわー、イーストウッド映画見てるわ、俺……)と思いながら見てました。


 しかし中盤の、運び屋仕事で稼いだお金を孫の教育費の工面に使ったことがわかるシーンで「あれ、いつもと違うな……?」と違和感を感じ始めました。その後、後半での早朝に捜査官との会話で「俺は家庭より仕事を優先してしまった。俺の轍を踏んじゃだめだ」と語るアール老人を見て、今までのイーストウッドが演じたキャラとはある側面で決定的に違う、と理解しました。


 そしてクライマックス付近の、アール老人が組織の命令に逆らってまで元妻の死を見届ける場面で、この映画はイーストウッドがスクリーン上でやり残したことをやろうとしている映画だ、という解釈に至りました。


 【グラン・トリノ】で生前葬を果たした彼がスクリーン上でやり残していたこと、それは、西部劇やアクション映画やドラマ映画、様々な映画の中で他人のために活躍しつつも、身近な人びとを蔑ろにしてきた彼なりの、【家族との和解】だったのかもしれません。




【好きなシーン】


 終盤でアール老人が警察に連行される場面で、彼を逮捕した捜査官相手に懺悔のように


「間違ってばっかりの人生だった……」


と呟くシーンが一つ目でした。今までイーストウッドが演じてきたキャラクターたちの魂が、アール老人に乗り移っているようにすら見えました。


 そしてその言葉を発した老人に対して、捜査官が


「でもあなたは、家族と和解できたじゃないか」


というセリフを吐いたシーンが二つ目です。その捜査官を演じたブラッドリー・クーパーは、2014年のイーストウッド監督作品【アメリカン・スナイパー】でPTSDへの苦しみが原因で家族との関係にトラブルを生みつつも、最終的に家族との絆を取り戻すことができたアメリカ人兵士・クリス・カイルを演じていたんです。そこを踏まえると、老人が家族と和解できたことを祝ってあげる人物にブラッドリー・クーパー、というのはこれ以上ない名配役だと思っています。




 ところであんまり関係ないですけど、アール老人が組織のチンピラ相手にすごまれて反抗できないシーンは、当然と言えば当然なんですけど寂しさが少し募りましたかね……今の彼には西部劇演ってた頃のような、チンピラ相手にバッタバッタとなぎ倒せるような説得力は持ち合わせてないんだよな、って思えて。

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