俺も桃太郎を現代版にアレンジしてやるぜと豪語していたのは一体何だったのか
むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。
ある日、おじいさんは山に芝刈りに、
おばあさんは川に洗濯に出かけました。
おばあさんが洗濯をしていると、
川上から、大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。
しかし。
おばあさんは洗濯に集中していて、その桃には全く気が付きませんでした。
そのまま、桃は流れて行ってしまいました。
桃の中に入っていた桃太郎はこう思いました。
「台本と違うぞ!?おい、どうなってるんだ?」
と。
しかし、台本とかそんなものは関係なく、
このままこの話はあらぬ方向へ進んでいきます。
―●―●―●―
下流の川沿いには工場が立ち並んでいました。
工場の煙突からは黒い煙が上がり、空を覆い尽くしていました。
そこでは多くの労働者が働いており、安い賃金でこき使われていました。
「こんな生活・・・もう耐えられん!」
桃太郎はそう思っていました。
5か月前、桃太郎は生まれました。
生まれたといっても、既に大人になった状態で生まれるという、
昔話とは似ても似つかぬ生まれ方をしました。
その後、工場で雇われ、肉体労働を強いられることとなりました。
「こんなつらい仕事はもうたくさんだ・・・!」
こんな工場、出ていってやる!と思うものの、他に行く先もありません。
ジレンマに陥っていました。
仕事が終わり、アパートに帰ってもすぐに寝るだけ。
これといった趣味もなく、家と工場の間の往復生活・・・
桃太郎は悩んでいました。
しかし、ある日出会ったのです。仲間に。
その仲間とは、浦島太郎、金太郎でした。
二人も同じ工場で働いていたのです。
この「三大太郎」ならきっと、この生活を打破できる。
そう感じた桃太郎は、二人にこんな話を持ちかけました。
「いっそのこと、工場で大暴動を起こさないかい?」
しかし、浦島太郎の答えはこうでした。
「いやいや、そんな野蛮なこと、私にはできません。
桃太郎さん、落ち着いてください。」
金太郎も、
「僕も、賛成できないね。」と。
桃太郎は落胆しました。
「あいつらは、こんな生活に満足しているというのか!?
考えられぬ!かくなる上は・・・」
―●―●―●―
また別の日のこと。
「浦島さん、金さん。どうしてそんな落ち着いていられるのですか?」
桃太郎は二人に満足できる生活について尋ねることにしたのです。
「浦島さん、金さん、僕はこんな生活をしてても、ちっとも楽しくないんです。」
「桃太郎さん、何か趣味を持ってみてはいかがですか?」
「趣味・・・ですか・・・、例えば?」
「そうですね、『カメをいじめっ子から助ける』とか?」
「それはあなたの本来の仕事でしょう・・・って ああ!」
「どうしたんですか?」
「鬼退治だ!」
「鬼退治、良い趣味じゃないですか。始めてみたらどうです?」
「やっぱりそう思います?今度やってみます!」
―●―●―●―
数日後・・・
おじいさんとおばあさんが住んでいるところの近くの川におばあさんが洗濯に出かけたところ、
川上から、大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。
一回目の桃は逃してしまったので、
二回目こそはと思っていたおばあさんはその鋭い眼光で桃を捉えると、
あらかじめ用意してあった網を桃に向かってぶん投げたのです!
その網にかかった桃はあっけなく捕まりました。
その桃には人間が入っていると思っていたら、
それは普通に果実の詰まった桃でした。
しかし実は、それはとてもとても貴重な「黄金の巨大桃」だったのです。
その桃を拾ったことでおじいさんおばあさんはメディアの取材を受け、
一躍有名になりました。
そのままおじいさんおばあさんはそこで茶店を開き、
自然が綺麗なことも相まって、辺り一帯はそこそこの観光地となりました。
・・・そうじゃなくて、桃太郎の話。
桃太郎は、鬼退治を趣味とすることにし、まずは鬼が島へ出かけました。
もともと対鬼用人造器械兵器だった桃太郎は、
いとも簡単に鬼をやっつけ金銀財宝を手に入れました。
その財宝は現代では貨幣として利用できるものではなかったので、質に入れて現金と交換し、
まずは労働者時代に作った借金を返しました。
その後は残ったお金で家を買い、そこで暮らし始めました。
最初は大量にあったお金も、あっという間に使い果たしてしまったので、
鬼が島Ver.2 に出かけて金銀財宝を譲り受けてきました。
何でも「どうせ闘って負けるのなら最初から渡した方がましだ」とのこと。
こんなに楽に稼げるのなら働かなくてもいいや、と思った桃太郎は、
工場を辞め、鬼退治を本職としました。
(鬼が島Ver.3に行けば、また稼げる・・・)と桃太郎は考えていたので、
お金を湯水のように使い始めました。
しかし、桃太郎は知らなかったのです。
鬼が島はVer.8までしかないことを。
次の日は悪天候でした。空は真っ黒でした。
まるで桃太郎の行く末を暗示するかのように・・・
―●―●―●―
その頃、おじいさんとおばあさんは、
茶店の収入で以前とは比べ物にならないほど豪華な暮らしをしていました。
まさに、桃さまさまでした。
昔書いたものを改稿したものです。
「三大太郎」とか書いていますが、決して某携帯キャリアのCMとは関係ありません。