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■24.朝日の下に骸を晒す。

 東の空に浮かび上がった太陽によって夜闇が欠片も残さず取り払われた頃、数十機の戦闘機・戦闘攻撃機が、逆光でその身を輝かせながら戦場へ飛来した。

 近接航空支援を担当するのは、二式複座戦闘機屠龍8機と、敵の規模に対して襲撃機が不足しているということで急遽爆装が施された数機の一式戦闘機隼だ。当然、敵迎撃機による妨害が予想されたため、護衛機もつけられた。こちらは長い航続距離・滞空時間を買われた零式艦上戦闘機が務めている。


「おいでなすった!」


 先行する零戦隊の宮中は、その優れた視力で太陽を背に飛翔する遠方の機影を捉えた。続けて視線をずらし、頭を巡らせて周囲を見回す。雲はない。奇襲を受ける可能性は皆無であった。きょうは真正面から双方が激突する馬上槍試合めいた空戦になるだろう、と彼は思ったし、事実そうなった。


 夜明けと共に飛び立った民主共和国連邦側の戦闘機隊、その主力はやはりYak-3であった。ソビエト連邦にはその他の優秀なレシプロ戦闘機が多数配備されている上、ジェット戦闘機のMiG-9も初飛行に成功しているため、Yak-3がごとき戦闘機は一度供与が決まれば、それこそ山のように送られてくるのであろう。

 勿論、機体がいくら揃おうが、パイロットの腕が伴わなければ脅威には成り得ない。ところが今回の空戦において、零戦を駆る宮中ら元・帝国軍人らは苦戦を強いられた。敵戦闘機はその優速を活かし、襲いかかる零戦隊を可能な限り無視した。そうして零戦を相手にせず、屠龍・隼への攻撃を優先したのである。意図したものかは不明だが、攻撃機を叩くために格闘戦を脱却したYak-3を相手にするのは、宮中ら熟練の操縦士でも骨が折れた。


「俺らの出番か」


 250㎏爆弾と増槽を抱えていた隼はやむなくその双方を捨て、零戦隊が取りこぼしたYak-3を迎え撃った。航空爆弾は惜しいが、仕方がない。

 結果的に言えば、この一瞬の判断が空戦の勝敗を分けたと言える。

 護衛機を出し抜いたはずの連邦軍パイロットは隼に近接戦を挑まれる格好になり、射弾を回避すべく旋回運動に気を取られている間に、追いついてきた零戦隊から攻撃を受ける形になってしまった。


(やはり弱敵ジャクか)


 宮中は1機のYak-3を追跡し、執拗に射撃を浴びせた。

 この敵は直前に隼からの攻撃を受け、一直線に逃げれば良かったものの、慌てて急旋回を繰り返したものだから速度が死んでいた。やはり練度が低い。宮中は敵を哀れにさえ思ったが、徹底的にやった。数秒の内に敵機はズタズタに引き裂かれた。零戦の切り札である20㎜機関砲弾で尾翼が吹き飛ばされた上に、続けざまの射撃で左翼が切断されると、もう飛んでいられずにきりもみ回転しながら墜落していった。

 その傍らを火だるまになりながらまた別のYak-3が緩降下していく。炎が操縦席まで回ったか、操縦士も火を曳きながら脱出した。


 その死闘が続く空から、8機の屠龍が脱した。そのまま前線へ殴り掛かる。砲兵陣地目掛けて航空爆弾が投下され、最前線から一歩退いていたT-34が37㎜機関砲弾の餌食となった。

 無論、8機の屠龍で以て敵に致命的な打撃を与えられるわけではない。だがしかし、確実に第13狙撃兵師団の攻撃は鈍った。

 轟、と砲兵陣地の一角が火焔を噴いた。引火した弾薬の一部が誘爆したのであろう。10メートル以上の火柱が立ち上がり、宙に舞い上がった装薬が、バチバチと音を立ててぜる。


「味方は何をしている……」


 第13狙撃兵師団の士官や参謀らは歯噛みした。1、2時間前に聞いた話では、味方戦闘機が敵航空攻撃を防ぐため、白昼も攻撃を継続するということになっていた。が、現実はどうだ。味方は東の空へ向かったまま帰ってくることなく、その代わりに少数とはいえ敵機が頭上を舞っている。歩兵部隊にさしたる被害はないが、目立つT-34やその他の車輛はさんざんに射撃を受け、砲兵陣地も爆撃によって全損する榴弾砲が出た。


「敵機が退いていきます」


「だからどうしたというのだ……また新手が来るに決まっている」


 第13狙撃兵師団司令部の参謀達は頭に血が上っていた。軍司令部が責任を以て制空権を奪取してくれなければ、損害は出る一方である。にもかかわらず、攻撃中止の命令は下りてこない。来るのは、まだ敵の前進・警戒陣地も抜けないのか、という催促ばかりである。

 最前線の将兵は、最善を尽くしていた。T-34の死骸の合間を駆け、匍匐し、射撃を継続している。陣地の一部に飛び込むことに成功する小隊も現れた。が、砲火力による支援が滞ったため、そこから先に進めない。それどころか教導歩兵の支援射撃の下で、ジッキンゲン公爵軍の精兵が、手榴弾と白刃を以て反撃してくるため、被害が続出した。


 屠龍が手持ちの弾丸を使い果たして撤退してから、1時間もしない内に今度は一式陸上攻撃機の編隊が最前線に出現した。第13狙撃兵師団に抗する手段はない。砲兵の陣地転換も間に合うはずもなく、彼らは再び大きな損害を出した。

 勝敗は決したように思えた。

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