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■0.民主共和国連邦の躍進。

「我々に課せられた歴史的使命は、ふたつあります。


 ひとつ目は人類種と亜人種が混淆こんこうするこの混沌カオスから、人類種を解放すること。


 ふたつ目は全人類種に自由と平等を分け与えること、です。


 そのために我々民主共和国連邦のあらゆる組織、資源、そして人民は、10年でも100年でも闘争を続けることを、民主主義の旗の下に誓いました。


 しかし、我々の敵はこの地上に星の数ほどいます。


 進歩なき専制政治を現代も継続する国々。


 油断すればあらゆる陸地で繁殖しようとする亜人種。


 前時代への退化を推し進めようとする国内の反動派。


 その全てに打ち勝つことは困難かもしれません。


 だが、私は民主共和国連邦を構成するすべての人類種の力を信じています。


 まだ見ぬ100年後の子ども達の安寧のために、我々はいま一度、敵対する全勢力の粛清と人類種による自由で平等な全世界的国家の建設を決意しましょう」


 以上は民主主義人類社会前進党委員長・兼・民主共和国連邦中央国務委員長・兼・民主共和国連邦中央軍事委員長・兼・民主共和国連邦軍最高司令官・兼・民主共和国連邦最高裁判委員長・兼・(略)を務めるバフティヤル・ステイグリッツのげんであり、実際に中央大陸中部におこったこの国家は、このバフティヤルの演説通りに活動した。


 つまり、周辺諸国の併呑と、亜人種の虐殺である。

 君主や貴族をいただく周辺国を撫で斬りにし、政体を変革して連邦に組み込んでいく。同じ共和制を採る国家でさえ、王国・帝国と同様の運命を辿った。バフティヤルら民主共和国連邦の指導者からすれば、連邦に属さない共和国の民主主義は数段劣るのである。

 そして狂信的なまでの平等を志向する民主共和国連邦は、平等を脅かす亜人種を万単位で殺戮した。


「人類種と比較した際、亜人種が脳の容量や文化の程度が劣っていることは明らかである。将来、人類種と亜人種が交雑し、その子孫が多く出現した場合、社会には優れた純性の人類種と亜人種の血脈を有する劣弱な人類種が出現し、平等な社会の達成は困難になる」


 上記のような噴飯ものの人種差別的意見が民主共和国連邦アカデミーでは大多数であり、連邦の上層部も本気でそう考えていた。

 であるから、連邦軍に捕獲された亜人種の運命に例外はなかった。


 “人類種による自由で平等な全世界的国家の建設”という途方もない大事業に乗り出してから数年で、民主共和国連邦の勢力圏は3倍にまで膨れ上がったが、そこからは多少の足踏みをした。

 所謂、距離の壁が立ちはだかったからである。

 他国を圧倒する人的資源と経済力を有しているにもかかわらず、軍事組織が消費する物資の供給が追いつかない。不本意ながら連邦は、その膨張を一時的に止めなければならなかった。この兵站の不備を解消するには、新たに組み入れた辺境地域を再開発しなければならないことは明白であったから、1年2年ではどうにもならないと考えられた。周辺国の軍事専門家の中には、「彼らが動き出すのには10年かかるだろう」と分析する者もいた。


 だが2年後、連邦軍はその歩武を再開した。


 周辺国は愕然とした。

 連邦軍の再攻勢までは未だ時間があると考えていたのもそうだが、連邦軍の軍事戦術と装備は2年前のそれとはまったく様変わりしていた。連射可能な銃器、鋼鉄製の陸戦ゴーレム、長射程の火砲――連邦軍はあらゆる戦場で勝ち、あらゆる地形で殺戮した。


 彼らが2年間で変貌出来た理由はただひとつ、別世界から福音がもたらされたからであった。

 人類国家『ソビエト社会主義共和国連邦』の援助である。

 1944年6月に発動されたバクラチオン作戦でナチスドイツに占領されていたソ連領を奪回することに成功した彼らは、同時期に既知の世界とは異なる世界を捕捉しており、そこに干渉を始めていたのである。

 最初こそ民主共和国連邦とソビエト社会主義共和国連邦の交流は人的なそれに留まっていたが、ソ連が人類国家であり、優れた科学技術を有していることを民主共和国連邦側が認識すると、科学技術や進んだ軍事戦略・戦術を吸収したいと彼らは考えた。

 一方のソビエト社会主義共和国連邦側も世界大戦後の情勢を睨み、別世界に親ソ体制を構築することを図った。

 こうして互いに利用価値を認めた両者は、急速に接近した。


 世界大戦が終結した1945年9月から、ソ連は援助を惜しまないようになった。

 軍事顧問団とその家族が続々と派遣され、工作機械から軽・中戦車までが送り込まれた。レシプロ戦闘機や輸送機の供与は1946年初頭から始まった。さすがに最新鋭の型式・機種は供与されず、みな大祖国戦争の最初期に活躍したような旧式兵器が主たるものだったが、それでも民主共和国連邦軍は大いに強化された。


 もはやこの世界に、民主共和国連邦軍に抗することが出来る軍事組織はどこにもおらず、瞬く間に中央大陸中部・東部の大部分を制した民主共和国連邦軍は、続いて大規模な西侵を開始した。

 中央大陸西部にはもともと亜人種から成る大小国家が多い。民主共和国連邦軍の最先鋒・第6軍約10万が向かう先――パナジャルス王国も同様であった。多種多様な種族から構成され、王族・貴族が治めるこの国家は、まず間違いなく殲滅の憂き目に遭うであろう。

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