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きみのこえ  作者: 古賀幹弘
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1章

現役高校生が頑張って書いてみました。アドバイス等いただきたいので、読んでいただけると嬉しいです。

退屈な午後の授業。先生の声がぼんやりと耳に流れ込んでいるが、僕の脳はその意味を認識していない。

校庭では体育の授業をしているのであろう。生徒がはしゃいでいる声が聞こえてくる。

「…みのる。」

僕はいつの間にか眠ってしまっていたらしい。

僕を眠りから覚まそうとする、耳元をくすぐるような、やさしいその声は続けた。

「一緒に帰ろう。」

僕と幼馴染のさくらは、沈みかけた日を背にして二人で河原沿いの一本道を歩いていた。

この道は小学校、中学校と通学路の一部だったので、さくらと一緒に歩くのは高校2年の今年で11年目になる。

砂利を踏みしめる音。川が流れる音。近所のこどもがボール遊びをしている声。

僕はこの道で聞こえる音が好きだ。

春になれば、今は裸で寂し気な並木も、きれいな桜並木になる。

僕とさくらは他愛もない会話をしながら、毎日この道を通っている。

さくらの家はこの道を抜けてすぐのところに建っているので、

僕はそこ以降の静かな住宅街をひとりで歩く。

僕はこの道が嫌いだ。あまりにも静かで、自然もない。造られたこの道には、彩りを感じない。

河原の道をさくらと歩く日常は幸せだ。でもそれ以上ではない。

しかし、最近では、不安や焦りに近い感情が僕の胸をチクチクと刺激してくる。

このままではきっとさくらは僕の横からいなくなってしまうという、自分にもよくわからない、焦りによく似た感情が。





今日は、久しぶりに予定のある休日。

私は一つ下の後輩の女の子に呼び出されて、駅前の喫茶店に向かった。

中学校が一緒だった子で、少し家は離れていたけれど、気が合ったので仲良くしていた。

今は違う高校に通っているので、久しぶりの連絡に喜んでOKした。

店の前に着いてLINEを確認すると、彼女はもう中にいるそうなので、ドアを開けて店員さんに待ち合わせの旨を伝え、彼女のいる席に向かっていった。

カランカランと鳴るドアチャイムの音を聞くと、なんだかワクワクしてしまうのは私だけなのだろうか。

そんなことを思いながら席に座ると、彼女はまぶしいくらいの笑顔で、

「さくらちゃん、お久しぶりです!」

と挨拶をしてきた。

彼女の変わりない様子に安心したからだろうか。私は少しクスッとしながら

「まきちゃん、ちょっとこえ、大きいよ。」

と注意した。

実は私は、なぜ今日呼ばれたのか、大体の予想はできていた。

「ねぇ、みのるのことでしょ?」

私はからかうように小声でささやいた。

ずいぶん前から、彼女の目線の先に、いつもみのるがいることに私は気づいていた。

まきちゃんは頬を赤く染めて、うなずいた。彼女は感情が分かりやすい。

でもその様子は愛くるしく感じられるので、きっと彼女のいい所の一つなんだろうな、と私は思った。

「ずっと好きだったんでしょ?」

私はついからかいたくなって、彼女の言葉を待たずに続けた。

しかしそれを言ったとき、あれ、なんで私こんなこと言ってるんだろう。というモヤモヤした、不愉快な気持ちが心の奥に潜んでいることに気が付いた。

「…はい。ずっと好きでした。」

どうしてしまったんだろう。まきちゃんの言葉がそれまでのようにすとんと飲み込めない。

おそらくこの気持ちはそういうことだ。だけどそのことに気が付きたくない。そう思った。

そのあともまきちゃんは何かを言っていたが、私はその内容のほとんどを覚えていない。

ただ最後に、すきなひとがいるのか、みのるに聞いてきてほしいと言われたことを除いては。





「うわ、雪だ。」

6限の途中で、クラスにどよめきがおきる。

先生の注意も聞かずに窓に詰め寄るクラスメイトを眺めながら、しまったなと思った。

夜から降る予報だったので、僕は油断して傘を持ってくるのを忘れたのだ。

クラスメイトのほとんどが窓際で雪を見ている中、さくらは自分の席でぼうっとしていて、何か遠くを眺めている。

思えば最近さくらは元気がない。

今週に入ってからは用事があるといって先に帰ってしまうし、ちゃんと話せていない。

「さくら、あの…。」

僕が話しかけようとすると、

「…傘、忘れたんでしょ。いれてあげる。」

とさくらから言ってくれた。

「ほんとにさむいね。」

いつもの道でさくらが言う。

普段通りに振るまおうとしているのだろうが、声の調子から様子がおかしいことが分かる。

「なにかあったの?」

そう言ってから、この聞き方でよかったのだろうか。

もっと気を使った言い方の方がよかったのではないか。と少し後悔した。

お互いになにも言わない、静かな時が流れる。

雪を踏むきしきしという音は心地いいが、この時間は僕にとって苦痛だった。





「みのるは…すきなひと、いる?」

私は無言でいるのが気まずくて、ついずっと考えていたことを訊いてしまった。

けれども、この答えは聞きたくない。

いないとしたら、まきちゃんはきっとみのるに告白をするのだろう。

まきちゃんはかわいいし、きっとみのるも受け入れる。

もし、いるとしたら。もしそれが私でないとしたら。それ以上つらいことはない。





なんでさくらはいきなりこんなことを訊いてきたのだろう。

この質問で、僕は、僕の中で抑えていた気持ちの正体に気付く。

しかしこの場合何と答えればいいのだろうか。

さくらは他意はなく聞いたのかもしれない。

だとしたら、ここで告白でもしようものなら恥ずかしいことこの上ない。

「…いないよ。」

僕はこう答えた。





ああ、いないのか。私は思っていたよりも冷静だった。

私はこのことをまきちゃんに隠すことだってできる。

でもそれはフェアじゃない。

じゃあ、私が今ここで…。

いや、それだってまきちゃんの気持ちが作った状況を利用しているだけだ。

とにかく、いったん考えることをやめたかった。

私は何も言わず、逃げるように走って帰ってしまった。





さくらが走って行ってしまった。この事実が僕を困惑させる。

なぜだろう。一人で歩く河原沿いの道は、いつもの彩りを失っていた。


しばらくつづきます。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。次回7/14(日)更新予定です。

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