燃え盛る肉
「夜ですね」
「ああ、夜だな」
梟らしき鳴き声が静寂を一定の感覚で破るような、雲一つ見つからない満月の夜。
正直体力に限界が来ていた俺たちは夜営を取ることに決めた。
まあ実際疲れてるのは俺だけなような気がしないでもないけれど。
とりあえず木の密集していない開けた場所を見つけた俺たちは、そこで一旦火を焚くことにした。
火は、枯れ葉を集めたところにクリアが魔法で燃やしてくれる。
しかしこいつ全く世間を知らないらしい。
地面に草のあるところで焚き火をし始めようとしやがった。
山林火災起こす気かこいつは……
俺が周囲の可燃物を始末してクリアに水魔法で周囲を濡らすことを指示できたので事なき事を得たが、正直転生したての時だったら普通に知識もなかったから本気でまずかったかもしれない。
「さっき殺した魔獣の肉があるんですけど、焼けば食べられますよね」
そう言ってクリアは、虚空から魔獣の肉を取り出した。
肉といってもまあ加工されたものではなく、適当に食べられそうなところを引きちぎったような代物だ。
毛皮が月明かりに黒く輝いていることから、本当にただ引き千切っただけのものだということが分かる。
しかし俺は今さらとんでもないことに気づいてしまう。
「おい、その魔獣……」
「なんでしょう?美味しそうですか?」
「そうじゃねえよ!
それ魔黒狼じゃねえか!?」
「はて?
存じ上げませんが、なにか不味かったでしょうか?
ぜつめつきぐしゅ、というやつですか?」
「ちっげえ!
魔黒狼ったら特別勧告級の魔獣じゃねえか!
お前まさか知らねえのか!?」
「……?」
急に大声を出し始めた俺を、小首を傾げて訝しげに見るクリアに、正直あきれ返ってしまいそうになる。
「特別勧告級っつうのは、まあ無茶苦茶強くて災厄をもたらしやすいバケモンのことだ。
発見されたらその場所から半径十キロの区域に避難勧告が出され、発見された場所の領地を所有している国から特別に討伐部隊が派遣される。
因みに特別勧告級の上には災厄級、天災級、崩壊級があって、下には警告級がある」
俺の説明を聞くと、彼女は興味をなくした風に口を開く。
「なんですか、大したことないじゃないですか。
下から二番目ですよ?」
「あるんだよ!
まずギルドで出される依頼!
あれはそれぞれランクにあった魔獣の討伐依頼っつうのがあるわけだが、警告級以上はそれに含まれねえ。
完全に別枠ってわけだ」
彼女は俺の話を聞くと、なるほど、と言った風に頷いてみせた。
「それで、この魔獣肉は食べられるんでしょうか……?」
ダメだこいつ。
「焼いてみてもいいですよね?」
まあ正直こいつが知らないことだらけなのも仕方ないことだとは思う。
「聞いてます?」
俺も陰陽師時代は無知だった。
修行のために中学を半ば中退のような形で行かなくなり、高校受験すらしなかったこともあって、世間一般の常識を全く知らなかった。
その上陰陽師の間での常識やらマナーすら学ぶのがめんどくさくて勉強しないときたのだ。
「聞こえてないみたいですね、焼き始めますよ」
しかし、それは単に最強だったから許されただけである。
クリアには許されるかもしれないが、今の俺には許されない。
因みにそんな調子のまま異世界に転生した俺の運命は想像に易いものとなった訳だが……
まあその話は長くなるのでやめておこう。
じゅぅぅぅ……
ん?
なんか変な音が……
「あ、食べます?」
「食えるか!?
なんでまるごと火に突っ込んでんだ!?
丸焦げじゃねえか!?」
彼女が手ごと火に肉を突っ込んでいたところから取り出した黒い物体は、嫌な臭いを周囲に漂わせ、艶やかな狼毛の部分だけ燃えていた。
ったく本当にこい……
ぐぅぅぅ……
「食べます?」
……
「……まだ他の肉は残ってるか?」
「いいえ、これだけです」
「……」
「……食べます」
「そうですか」
俺の言葉を聞いた途端嬉しそうにパタパタと動きだしたクリアの翼が嫌に鬱陶しく見えたのは、きっと仕方のないことであろう。
いちいちあとがきにぶくまとぽいんとひょうかせがむのってなんかがめつくていやだよね
ねえ?
……ねえ?