北進論
「なぁ、もう前言撤回して帰っていい?」
俺は半歩先に揺れるショートヘアーに語りかける。
今の俺たちがいる場所はカタルナというグラリアドから北進したところにある森である。
何故こんなところにいるかというと、彼女が言うにはカタルナの更に北の城下町クライトルに異世界からの勇者が召喚されるらしい。
「だからって……なんで……馬車も使わずに……森の中……」
足場の悪さから俺の疲労はピークに達しており、息も絶え絶えになってしまう。
そんな俺とは正反対に、息一つ乱さないクリアは至極落ち着いた様子で返答する。
「そうですね、私だけなら飛べばいいだけですし、食糧はそこらの葉っぱでも食べていれば生きていけるので、基本的に金銭は必要としませんからね」
こいつはこんな調子で、俺はスラムで行き倒れていたところ、金なんて少しっぽっちもない。
冒険者ギルドという現代でいう日雇い可能の超大手派遣サービスみたいなものがあるから、それに登録してないのか聞いてみたものの、必要性を感じなかったらしく失念していたとのことだ。
俺?問題を起こして除名されたのは懐かしい思い出だよ。
因みにグラリアドは治安が悪すぎて冒険者ギルドすら建てられないらしい。
グラリアドから一番近い冒険者ギルドのある町がこの森を越えた先なこともあって、俺達は野宿するための道具もないままに森のなかを進んでいくことになった。
「しかし意外でしたね、私の見立てではもう少しごねるかと思ったんですが……」
足早に俺の前を行くクリアは、そんなことを行ってくる。
「ああ、よく考えたらお前と一緒にいれば飯にありつけるんじゃないかと思ったもんでな……
正直昨日の時点で本当にギリギリだった」
なるほどです、と呟く彼女を横目に、まあ実際はこの通りだけどな、と心のなかでぼやく。
そのままお互いなにか話す様なこともなく、獣道に俺達の足音だけが鳴る。
しかし、その静けさは、クリアの言葉を以て破られることとなった。
「……何か居ますね」
「あ?
えっ、全く分からねえんだけど」
俺がそう溢したのも束の間、前方の茂みから何か大きく黒いものが勢いよく飛び出してきた。
「うわっ!?」
俺がそう言うより早く、クリアはその巨体を蹴り飛ばしていた。
おおよそ人間の蹴りでは飛ぶことができないような巨体が、彼女の延髄蹴りを以て勢いよく吹き飛び丁度飛んだ先にあった大木に激突して力なく倒れ伏す。
数秒経つと、巨体の衝撃を受けた樹齢の予想もつかない大木もミシミシと大きな音を立ててぐらりと傾いた
「ちょっと危ないですね」
「おい……なにす……」
折れ掛けた大木に近づいた彼女は、弾丸を放つような速度の前蹴りを叩き込み、完全に折り倒した。
「はぁ……」
俺はそんな声を漏らしながら、何十年もこの地に行き続けていた生命が一瞬でその命を刈り取られたのみも関わらず嫌に静かなカタルナの森と、手を使った訳でもないくせに格好つけて手をはたいて見せる白金ショートを見て、自然の残酷さというのを心に刻み付けていた。
さいきんあついとおもったひとはぶっくまーく、
べつにそうでもないとおもったひとはぽいんとひょうか
↑よつうべでよくみるやつ。