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40秒で支度しな!

俺が間の抜けたような声をあげると、クリアはそれに反応して問いを投げてきた。


「なんです、不満ですか?」


「いや……あの、不満っつうか不可能だろ。

今の話聞いてたか?」


頭を掻きながら諭すような口調で話すが、彼女は毅然とした態度を崩すことはない。


「力が戻ってほしいと願うだけでは何も出来ませんよ、風が吹くのを待つ桶やは儲かりません。

守株待兎です」


彼女の口から溢れたそんな台詞に、俺は言葉を失う。


「どうかしましたか?」


「……いや、ただその風が吹けばって諺が懐かしかっただけだよ」


少し心配するように小首を傾げた彼女に俺は言葉を返すとそんな様子に何か感じたところはあったようだが、話が長くなりそうだと思いでもしたのかは知らないがその唇から何か発せられることはなかった。


別にただ風が吹けば桶屋が儲かるっていう諺が俺の座右の銘だっただけなのだが……


「そうですか、では準備をしてくださいね。

40秒後に出発します」


「誰が行くって言ったんだよ!?」


俺から背を向けたクリアに反射的にそう怒鳴った瞬間、俺はその異常に息を呑んだ。

振り向いた彼女が、今まで頑なに守り続けていた無表情を解いたからである。


そのときの彼女の表情をなんて表現すればいいものか。

憐憫を孕んで、同情を含んで、侮蔑を感じさせ、



……そして何よりも、罪悪感に呑まれたような印象を受けた。


そして一番の異常は、俺がそんな彼女を聖人かなにかと思ってしまったことであろうか……


思考が完全に停止してしまった俺に向かって、クリアは糸を紡ぐように丁寧に口を開く。


「……あの力は……貴方のものですよ。


誰がなんと言おうとも、例え何に否定されようとも……貴方のものです。

貴方が勝ち得たものです。


だから……」


ここまで多くの唾を飲んだ日が今までにあっただろうか。

そんなことを頭では考えられても、視線は彼女に釘付けだった。


もう何度目か分からないが、喉を慣らし俺は次の言葉を待った。


「そんな悲しいこと言わないでください」







----------


その日のそれ以降の会話は全く記憶にない。


次に俺の目に写った場面は、いつもの夕暮れのスラムに彩りを添える程に美しい無表情の美女が、俺の目の前で正座をして配給で配られた食事を俺に差し出しているところ。


「さぁ、それを食べ終わったら出発です」


少し機嫌良さげな声から放たれたその言葉を聞いて、俺は諦めた。

今はただただ、あの時の俺がなにか余計なことを言っていないよう祈ることしかできない。

どー○おばあさん

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