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姫騎士に拗ねる主人公

そして彼女は、俺の目の前まで来て足を止める。

如何にも値段のしそうな白銀の甲冑に包まれた金髪碧眼の女性は俺を睨み付けると、よく通る美声で言い放った。


「その子を今すぐに離せ」


俺はこの状況に思い当たる節があった。

そういえば、王族の姫騎士とやらだかなんだかが相当の傾奇者らしく、各地のスラムやらに自ら配給を持って赴いているらしい。

ここ数ヵ月は知人と呼ばれるようなものを作れていないせいで、情報源は道端からだが……

事実だったようだな。


「聞いているのか?

その子を離せ」


いつの間にか俺を囲むような配置で騎士が立っていた。

抜け目がないというかなんというか……


「はぁ、分かった分かった……

でも俺としても上裸っつうのは少し気になるんだ。

クソガキ、服返せ」


事態の把握が出来ずに硬直していた少女は、俺の幾分か落ち着いた声を聞いて現実に戻ってきた。


「……っ。

で、でも……妹の服が……」


姫騎士は、そんな少女の頭を優しく撫でて優しい声で囁く。


「大丈夫だ、衣服ぐらい私がやるから……

その服を返してやりなさい」


それを聞いた少女は目を輝かせる。


「ほ、本当?」


「ああ、本当だとも……」


「やった!

私将来お姉ちゃんみたいな人になるね!」


そう言って羽織っていた上着を俺の方へ返すと、今までの敵意剥き出しだった様子はどこへやら、機嫌がよさそうな顔で頭を下げてきた。


「お兄ちゃん、ごめんなさい!」


俺はもうどうしようもなかった。

公衆の面前で噛ませ犬に仕立て上げられたようにしか感じなかった。

心の奥がもやもやと雲って怒りにも似た感情すら沸いてきたが、それ以上に無力感が押し寄せていた。


「さっ、配給の食事もあるから来ていいぞ。


少年もだ、いくらでも食いなさい。


後、冗談でも脅し文句でもあんなことは言うものではないぞ」


少し悪そうな笑みを浮かべながらそう言って見せる姫騎士。

あんなことって言うのは売り飛ばしてやるとか怒鳴ったことについて言っているのだろう。


回りにはスラムの人間や騎士も含め、何人もの人々がこちらを見つめている。


……どいつもこいつもそんな目で見てんじゃねえよ……

満たされてる人間っつうのがそれほどまでに美しく見えんのか?

人望ってこんな薄っぺらい小芝居で得られるもんなのか?

俺だって自分がもし満たされてたなら……


やめよう……俺は満たされててもこんな事はしなかった。

……自分が満たされるので精一杯だったから……


「……悪いけどそんな気分じゃねえわな。

昨日は自分も貧乏なくせして施しもんをくれた酔狂な輩が居たもんでね、そいつらにでもくれてやれ」


「そ、そうか……

腹が減ってないのならそれでいい、貴方に女神のご加護を」


両手を合わせて祈りを捧げる彼女に、女神がどれだけ無能で性格の悪いクズか小一時間に渡って諭してやろうかとでも思ったが、それ以上にこの場の居心地の悪さに耐え切れなかった。


視界の端で小躍りする3人組を鼻で笑いながら俺は上着を着てその場を去る。

ぼくのりそうのしゅじんこうです

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