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子供にクズる主人公

「で、何?

追い剥ぎのつもり?」


「1人っぽっちでよく3人に挑んだもんだな」


「つか酷え格好だな……臭えし、ここらの汚え娼婦も嫌がるんじゃねえか?」


ハバト・セリノ・レイジュ。

顔面を血塗れにしながらぶっ倒れて踏みつけられている男の名前である。

そして今の状況を軽く説明すると、油断してた酔っ払い3人組がいたから俺の未来のために殴りかかった結果案の定返り討ちにされた、だ。

淡々と言葉にするとどんなことでも味気なくなるな、自嘲的な思考を脳裏によぎらせながら、俺は額を地に擦り付ける。


「っる……せえな……

飯も食えね……えんだよ……しゃあねえだろ」


この期に及んで突っ張った俺に対し、柄の悪い3人組の中の一人が目で見て分かるぐらいには薄汚れたパンを投げ付けてくる。


「あれ?

優しいじゃん、ほっときゃいいのに」


「まあな、前の街に居た吟遊詩人が吟ってたんだ。

情けは人のためならず、ってな」


「また受け売りか……しょうもない奴だなお前は……」


そんなことを言い合いながら俺の元から去る3人組。





「こんなもん誰が食うかよ……」


俺はその場に残されたパンを途方もない方向へとぶん投げて、拳を床に叩きつけた。




俺が居るのはグラリアドというクライトル王国屈指のスラムである。


クライトル王国っていうのはまあ俺の今居る国な訳だが、まあそっちについては追々だ。


ということでこの街の特徴だが、物価が無茶苦茶に安く、王国にいる憲兵の目も全く届かないこと。

それもあってか浮浪者、孤児、逃亡奴隷、賊、マフィア的な存在、等々の字面だけで目を細めたくなるような人間が沢山住んでいる。

というかどこを見てもそんな奴らしかいない。

そしてお察しの通り俺もそんな奴らと同族である。


パンを乾いた口に詰めると、糞尿の散らかされた石造りの道を気にすることもなく歩き出す。


もうすぐ日が落ちる、こんなところに居ちゃ身ぐるみ剥がされるからな。





これが、かつて日本の頂点に君臨し、世界最強の陰陽師と謳われた青年の成れの果てである。

なんて世迷いごとを信じる奴が居るのなら、そいつは余程の馬鹿か厨二病か、あるいは……。







------------


「……っちってどうしてそんな強くなろうとしてる訳?

別に陰陽師なんかちょっと術使えればどうにでもなんじゃないの?」


「あぁ?

お前みてえな奴はあれだな、万が一の時に真っ先に潰れるタイプだな。

どんな状況でも努力を惜しまなけりゃいつか実る日が来るんだぞ」


「……そういう回答が聞きたいんじゃなくて。

大体強くなる為とは言え警察に喧嘩吹っ掛けて記憶と証拠消しておさらばしてるような外道が人の道を説くんじゃないよ」


「……まあな。

強いて言うならあれだ。

気に食わねえんだ。

俺より強い奴がこの世に存在してるってこと自体がよ」


「ああ……あれか。

……っちの妹滅茶苦茶強いもんねぇ、あれには私も驚嘆を隠せなかった……」


「自己完結してんじゃねえようざってえな」


--------------


ゾワリ、と体に何か触れられているような感覚で俺は目を覚ました。

懐かしくて綺麗で最高で、どうしようもないほどに胸くその悪い夢だった。


しかし、俺にそんな夢の感傷に浸っている時間などないらしい。


「おいガキ、何してやがる」


「あっ……」


睨む先に居るのは、俺の上着を剥ぎ取ってご満悦な表情を浮かべていた10才くらいの子供。

最も、その表情は今この瞬間から恐怖に染まりきってしまったわけだが……


少女か少年かすらも分からないほど薄汚れた子供は、ボロ切れと言って差し支えないくらいの布を体に纏っただけの服装だったが、俺の服を装備して少しはまともに……見えないな。

よく考えたら俺の上着も服だなんて言えたもんじゃないし。


「……ひっ」


俺は腕を捕まれながら固まるガキを横目に、昨日のことについて思い出してみる。

昨日はあの後丁度いい寝床を見つけられず耐え切れずに路上で……そうか。


回りを見渡すと、所狭しと建てられた二、三階建ての建物達の隙間から朝陽が覗いていた。

背伸びでもしたい所だけど片手は子供の腕を握ってしまっている。


「……ガキ、それ返せよ」


俺が威圧を込めた口調で言うと、彼か彼女かは分からないが、そいつは目をキッと張って震えながらも答える。


「い……いやだ……

わ、私は妹の服を持って帰るんだ!」


笑わせる……それはお前の妹のじゃなくて紛れもなく俺のじゃねえか……

まあ俺も他の奴ぶん殴って取り上げたからそう一概には言えないけれど。


「はぁん?

お前女だったのね……

……奴隷商にでも売りに出せばそれなりに……いや、俺自体の信用が微塵もねえから無理か……」


「ひっ!

い、いやだ!

どっか行け!」


俺の言葉に本能的な恐怖を覚えたのか、怒鳴り散らした少女はなんとあろうことか俺の股間を蹴り上げてきた。


「うっ!」


その拍子につい手を離してしまったせいで、少女はそこから逃げ出してしまう。


「なっ!?

待ちやがれクソガキ!」


俺は股間の痛みに耐えてそれを追った。


相変わらず掃除の成されてねえ床が不快だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

脳からの指示をろくに聞こうともしない体に鞭打って走り続ける。

昨日意地張ってねえでパンくらい食っときゃ良かった……


そのまま数十秒はおいかけっこを続ける羽目になったが遂に俺はそいつを捕まえることに成功した。


「手間取らせてんじゃねえぞ!

ああ、もう許さねえ……決めた!

金になんなくても売り飛ばす!

お前みてえなガキ一匹くたばっても誰も迷惑被らねえよなぁ!?」


俺は彼女の首根っこを掴み上げてそう怒鳴りつけるが、鼻を刺激するシチューの香りで異変に気がつく。


そして辺りを見渡すと、そこは普段はしょうもない連中が娼婦とバカ騒ぎしながら奴隷を囲って占領している筈の街の中心部、広場だった。


そして普段は、だ。

今日は何故かここには連中ではなく騎士がいて。

囃し立てられているのは安い娼婦ではなく俗に言う姫騎士とか言うやつで。

囲われているのは奴隷ではなく配給の食事だった。


特筆すべきは、広場の全員の目線が俺達に集まっているということ。


一瞬は静まり返った広場だったが、姫騎士らしき人が俺の方へと足を進める音でその沈黙は破られることになった。

はんせいもこうかいもしてない

かいててたのしい

しゅじんこうめちゃくちゃうごかしやすい

ぜんこめがないた

ぜんゆーざーがぶくまとぽいんとひょうかした

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