表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俗・さんびきのぶた  作者: 草村しげる
2/5

(二)

  (二)


 雲一つない青の空。すがすがしいその背景を背負い、豚が三匹宙を飛んでゆきます。

 三匹は見事な放物線を描きながら飛んでいきましたが、豚ですので重力には抗えません。やがてその体は地面に惹かれ恋するようにくるくると落下してゆき――すたり。三匹は見事な着地を決めました。


「さて弟よ」


 一番上の豚が言いました。


「こうして家を出てきたわけだが、この先どうする?」

「家を追い出されたの間違いじゃないのかい、兄さん」


 二番目の豚がため息交じりに口を開きます。


「違うよ兄さん。僕ら、家の窓から放り投げられたんだよ」


 純粋そのもの、といったような無邪気な瞳で末の豚が訂正しました。


「そうだな、弟よ。我ら三兄弟、仲良く窓から放り投げられたわけだ。しかし問題はそこではないのだよ」

「この先どうやって生きていくか、ってことだろう?兄さん」

「そうだとも弟よ」

「簡単だよ兄さん」


 末の豚が無邪気に言います。


「母さんが言ったじゃないか。『一匹で立派に生きてゆくのです』って」

「……」

「……」


 輝く笑顔に兄たちは言葉を探し、そして結局見つけることができないまま、顔を見合わせ互いに頷き合いました。


「そうだな、弟よ」


 長兄はすっと目の前に続く道を指し示しました。

 豚ですので、短いものですが。


「ちょうど我らの前に道がある。そしてその道は三又に分かれている」

「まったく都合のいい展開だね、兄さん」

「我らはここで別れ、各々の道を行こうではないか」

「ねえ無視して話を進めるのはやめてくれないかい兄さん」

「賛成!賛成!」

「お前も自由が過ぎるよ弟」


 兄弟の真ん中というものは、いつの世でも上と下に挟まれ苦労するものなのです。

 しかし慣れとは恐ろしいもので、二番目の豚も早々と折れることを選びました。他に名案があるでなし、別段反対する理由もなかったのです。


「では、我らそれぞれの道を行こう!そうして立派な一匹豚になったあかつきには、またここで会おうではないか!」

「立派な一匹豚になったら!素敵な響きだね、兄さん」

「……そうかな」


 どの辺りが素敵な響きなのか今一つ理解しかねるとため息を吐きながら、二番目の豚は真ん中の道を指しました。


「じゃあ、僕はこの道を行くよ」

「ああ、では私は右だ」

「僕は左だね!」


 かくして三匹の兄弟は、その日各々の道へと第一歩を踏み出したのでありました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ