第3話
『起きなさい!起きなさい、一樹!朝よ!』
誰かが俺を起こしていることに気がついたが、寝ぼけながらも、今日は仕事が休みだということを覚えていたので、また眠ろうとしたが、声の主が母親であるか?と脳が疑いだし、その次に、声の主は今、俺を一樹と呼んだような気がしたので、つけっぱなしで眠ってしまったテレビの音が、耳に入ってきているのか、、、と思おうとしたその時、声の主は俺の体を揺さぶってこう言った。
『一樹起きなさい!学校遅刻するわよ!』
俺はハッとして目を開くと、そこには、いつも観ているアニメに登場する、一樹の母親がいた。
俺は飛び起きて、まずは叫んだのだった。
『は?何これ?夢なんでしょ?まじ冗談きついよ!』
辺りを見渡したが、そこは、いつも自分が観ているアニメの世界が広がっていた。俺の手も服も、、そして、慌てて鏡を見た俺は、自分の顔が、一樹の顔になっていることに気がついた。
『これは夢だ!覚めろ!覚めろ!覚めろ!!』
そう言いながら、自分の顔を叩いたり、つねったりしたが、覚めることはなかった。
その俺の様子を一部始終見ていた一樹の母親が俺に言葉をかけてきた。
『ちょっと、、大丈夫?変な夢でもみたの?』
俺は動揺を隠せなかったが、これが現実だということを混乱しながらも、飲み込んで、言葉を返した。
『あ、うん、ちょっとね。混乱してたみたいで、、それに寝ぼけてた、、ハハ、、ハハハ。』
こうして俺の第1番目の異空間での生活が幕を開けた。
身支度を済ませ食卓に着くと、一樹の父と母に、適当に会話を合わせ、食事を済ませるとすぐに登校をした。
この世界に来てから、不思議と、部屋のどこに何があるかや、通学路など基本的な情報は全て、頭が分かっていた。
アニメの世界に突然来たのは驚いたし、不安もあったが、楽しみにしていることもあった。
それは、あの子に会うことだった。
『一樹ー!おっはよー!』
そう考えていると、早速、あの子が向こうから現れ、こっちに手を振っているのが見えた。
一樹の幼馴染の雪だ。
俺は今、テレビで彼女を見ているのではなく、実際の肉眼で彼女を見て、同じ空気を吸っているという事実だけで、心臓が爆発しそうになり、雪の方を一度チラッと見て、普通に歩き出していた。
すると、雪が背後から走って近付いてきて、背後から、俺を軽くどついた。
『なーにシカトしてんの?っていうか、一樹、顔色悪いよ。大丈夫?』
俺は緊張のあまり、何も言葉が浮かんでこず、とっさに、情けなく出てきた言葉をボソッと吐いた。
『べ、別に』
俺は色々な意味で顔から火が出そうになったが、そんな俺の気持ちは全く知らない雪は、一樹である俺にいつも通り声をかけてきた。
『変なのー、今日の一樹。』
俺は、雪の話を聞きながら、相づちだけをうって、下を向きながら歩いていた。
昨夜までアニメを観ながら思っていたこと(俺が一樹だったら、雪の気持ちに気がついて、ソッコー付き合うのに)を全面撤回したくなっていた。
俺は、その動揺を雪に気が付かれないように、なるべく無言で登校をした。