第1話
十年の月日が流れていた。
雄馬達は金星と友好関係を築いてから、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星、その他の小さな星や、名前や存在も知らなかった星とも友好関係を築き、更には他の星と協力して全宇宙地図なるものも作ったのだった。今や宇宙の果てには何があるのかを解き明かすことが全宇宙に住む生命体の課題となっていた。
「パパ、ママ、おはよう!」
朝起きて食事をしにリビングにやって来たゆなが、いつも通り元気に挨拶をしながら食卓に座った。
「ゆな、おはよう。」
神菜と俺が返すと、ゆなは美味しそうに朝食を頬張った。
ゆなは13歳となり、同じく仲田とキャシーの息子デイシーも13歳となった。
部屋は別ではあったが、自宅兼研究所として、仲田家とは一緒に、昔と変わらず、研究所で暮らしていた。
ゆなとデイシーは二人とも成績優秀で、学校では学年トップを二人で争っていた。
小学に上がって少ししてからは、一緒に登校もしなくなり、時折顔を合わせた時に話す程度の関係になったようだが、二人はまるで兄妹の様にも見えた。
そして俺たちはというと、やはり研究に明け暮れる日々を送っていた。
「宇宙の外側には何があって、どういう世界が広がっているのか。」
それを知る為に、俺たちは毎日研究に没頭していたが、食事の時間や子供たちとの時間は必ず決まった時間にとる習慣をつけていた。
忙しいものの、穏やかにも思える日常の中で、もう二度とDSTDを使う日は来ないだろう、とさえ思い始めていた頃だった。
数ヶ月前から月一ペースで行うこととなった全宇宙研究会議で、ある話を耳にした俺は、そんな生ぬるい考えなどすぐに覆されるのだった。
全宇宙研究会議とは、各星々の研究者のような者達が集い、宇宙の新しい発見の情報を共有しあったり、研究を共同で行うのを取り決めたりする場だ。
朝食を済ませ、ゆなを見送ると、仲田たちと会議場がある冥王星へと向かった。
冥王星の会議場に到着すると、いつものように会議が始まった。
新しい星を発見したと報告する者がいて、その星との今後の友好関係を築くにおいての話し合いから始まり、その話が終わると「特別な報告がある」と、冥王星の者が発表した。
その報告とは、未だかつて誰も発見したことのない、歪みを発見したということだった。
ブラックホールでもホワイトホールでもない謎の歪みで、それは常に変形しながらそこに存在しているという。
その正体を突き止める為の研究チームを作り方たいと、冥王星の者が提案をしたので、俺たちは率先して引き受けることにした。
他の星の者たちも、他の仕事も抱えているのにも関わらず、その場にいた全員がチームに携わりたいと声をあげた。
そうしてできたチームは、過去最大規模のチームとなった。こうして全宇宙の研究者達が手を取り合い、歪みの正体を究明することとなった。
その会議の次の日から、早速チームは動き出した。
まずはその歪みに様々な物を入れる実験をした。
小さな物体から大きな物体までまんべんなく投げいれた。
食料品ではこんにゃくと肉、水、食べ物ではないものは、プラスチック製の物、木材、布、爆弾、色
々な物を入れたが、全てただ吸い込まれていくばかりだった。
しかしその数週間後、驚く現象が起きた。
歪みの中に入れたはずのこんにゃくやお肉が冷蔵庫の中に戻ってきたのだった。初めは神菜が買い足したのだと思ったが、買っていないというし、状態はともかく、賞費期限を見ても明らかにおかしかったので、戻ってきたのだと気が付いた。
俺たちは、こんにゃくとお肉がその後どうなるかを観察することにした。
すると次の日、冷蔵庫からそのお肉は消えていた。俺たちはある推測をした。そしてその推測を証明する為、ある実験をすることにした。
その実験とは、一本の木を伐り、その木があった場所に印を付けておき、その木を歪みの中に入れ、どうなるかを観察することだった。
早速その日中に木を切る依頼をし、歪みの中に伐った木を入れてもらった。
すると、次の日に木は生えていた元の位置に戻ってきていたのだった。
研究チームにこれを報告すると全員驚いていたが、引き続き、その木は見守ることとした。それから数か月をかけてその木の高さを毎日測り続けた。
すると、木は段々と若返り、かつ、その高さを縮ませていった。
つまり、歪みに入った個体は、ずっとその個体だけで不定に時間を戻し時間の中をワープし続けているという証明ができたのだ。
しかし、本当に永遠に時間を戻し続けるのだとしたら、その存在だけ消滅してしまうことになる。
俺は、その歪みの仕組みをもっと知りたくなった。
そしてその空間での影響を受けずに歪みの中へと入り、その構造を模索したくなっていた。
それを研究チームのメンバーに話すと、チームのメンバーは否定しなかったが、神菜は違った。
それは分かっていたものの、俺は知りたいという気持ちを抑えることはできなかった。そうなった俺を止めることのできる人物は誰もいなかった。いつも通り心配する神菜をよそに、俺は歪みの中へ飛び込む準備を始めていた。
とはいえ、危険だと分かっていて丸腰で飛び込むほど俺も馬鹿ではなかった。
研究チームのメンバーにはその歪みに入る為に、できるだけ有効的な宇宙船や宇宙服を発明してもらえるように協力を仰いだ。
そして最終手段として、DSTDを使うことを俺は考えていた。
宇宙のことで新しい発見をし、困難な課題にぶつかる度にいつも、
「負けられない、でももし負けたとしても、何もやらないより俺は幸せだ、報われた。」
そう思える自分がいる。
そして、心配しながらもいつもしっかりと見送ってくれる妻がいる。
そして今は、こんな無謀な作戦にも関わらず、労を惜しまず協力してくれる仲間たちがいることを、俺はとても誇りに思う。
だから俺は、怖いと思うよりも先に、進み続けることを幸福だと思える。
その勇気がゼロになるなら、呼吸ができていても、俺はまるで生きた屍のようになるだろう。
数ヶ月後、歪みに適応できると思われる宇宙船と、宇宙服が全宇宙の科学者たちの手によって作られ
、出発の朝はやってきた。
仲間たちや家族の思いを胸に、俺は歪み中へと向かった。
歪みは、近づくと宇宙船ごと飲み込むかのように、引き込んだ。
歪みの中に入ると、一瞬にして物凄い圧力が身体にかかったかと思うと、巻き戻されたかのように宇宙船と俺は来た道を宇宙船ごと、戻されてゆき、何の抵抗も出来ないまま、気が付くと俺は地球にいた
。記憶はあるものの、喋りたいことを話すことも動きたいように動くこともできなかった。神菜や仲間たちと会っても挨拶を交わすことも出来なかった。それはただ、今まで生きてきた俺の時間を人生を不定にただ巻き戻しているだけで、どうすることもできなく、まるで、巻き戻し地獄とも呼べる時間だった。
しかし、前回DSTDを使ったところまで時間が戻ると、時間がピタリと止まり、身体が急に動かせるようになった。
今しかチャンスはない!と思いDSTDを使おうとしたその瞬間、真っ白い天使のような洋服を着た少年が目の前に立っていた。
「君は誰?」
とっさにそう聞くと少年は答えた。
「久ぶりだね、僕はhmsstpy。君は覚えていないと思うけど、君とは前に会ったことがあるんだ。また会うとは思っていたけど、こんな形でまた会うことになるなんて思ってなかったから、嬉しいとは言えないけど、こうなってしまったからには、君には選んで貰わなきゃいけない。」
「選ぶってなにを?」
「君がhmsstpyになるか、このまま君自身が消滅するまで巻き戻しの無限地獄を続けるかをね。
君は幸運だ。選べるんだから。
もし君じゃなかったら、消滅するのを待つだけしかできなかった。君はこの世界のことを色々知り過ぎた。だからその身をもって代償を支払ってもらわなきゃいけない。
今のhmsstpyがこの僕なんだけど、元々僕も人間だったんだ。
前のhmsstpyから受け継いで僕がhmsstpyになったってわけだ。
さあ、時間はない。選ぶんだ。君はどっちを選ぶ?」
突然現れたhmsstpyに選択を迫られた雄馬。
世界を知り過ぎた代償としてよく分からないhmsstpyというものになれば巻き戻し地獄から解放されると迫られたが、雄馬は何を選ぶのだろうか?!




