7 私の知らない従姉妹さん
「「ファ〜レルっ!」」
「?おはよう、お父様、お母様。何があった」
「昨日の舞踏会はどうだった?」
朝っぱらからそれですか。
「ファレルが答えないならゲイルに聞くだけだから!」
「そうですわよ!」
隠す必要も無く。
「はい、まあ、楽しかったっちゃ楽しかったですよ?」
「何故疑問形なんだ!」
「何かあったのかしら?」
「何か、って?」
「素敵な出会いよ!」
そっちですか。お母様のおしが強くなってる気がするんだけど。確かこういう時のために確認しといた!よかった!
「恋人ができた」
「へえー••••••」
「そうですの⁈」
「ぶはっ」
「ゲイル⁈」
お父様は拗ねたような顔になり、お母様は目を輝かせ、朝ごはんを一緒に食べるまでになったゲイルはむせる、という三者三様な状態。
「だ、大丈夫です。ちょっと驚いて」
「そんなに驚くほどのことではないと思うわ」
「•••そうなんですか」
「年頃の娘ですもの、恋人の一人や二人」
「メルフェアもかい⁈」
「いませんでしたわ。わたくしの初恋はマーキラス様ですもの•••」
「メルフェア••••••」
ピンク色の空気を作るのは止めれ。
「••••••そーゆーのは二人の時で。邪魔なら私達退散するから」
「あらダメよ!」
「なんで、」
「まだその人が誰か聞いてませんから!」
「そうそう!!」
「あー、フィリウス様って人」
「どこの家のご子息?」
「ブランシュ王家?かな」
「ブランシュ?」
「王家ですって⁈」
「ええええ⁈」
「あ、あああの王太子のフィリウス殿下かい⁈」
「そうそうそう」
「王太子殿下と⁈」
「ファレル!どうやって殿下の心を射止めましたの⁈」
「それは••••••」
「あっ、流石に恥ずかしいかしら⁈いいわ!やっぱり言わなくて!!」
「王太子殿下と•••恋人•••勝ち目ないじゃないですか••••••」
「ゲイル⁈フィリウス様と何を競ってんのさ⁈」
「あ、あのエドの息子か••••••」
「思わぬところでお父様と国王陛下の仲良し度がわかっちゃった!!」
「フィリウス様って呼んでいらしているのね!!あちらは?」
「ふつーに!他に何かあるんですか!!」
「ふふふーーー、ファレルって呼ばれているのね〜」
「まさか•••こんな早くに」
「ゲイル、私への侮辱かそれは!恋人作れないとでも思ってたんか!!てか、助けて!!!ツッコミ役が足りない!!!!」
「という感じだった」
「フレムダレム公爵の本性がわかった」
「あ、やっぱそれか。で、その後、侍女のアリアにも話したら言われました」
『本性バラさなかったら完璧な公爵令嬢ですものねぇ』と。
「ふはっ」
「そして、本性知ってるって言った時のアリアの驚きようがまた面白すぎたのなんの」
「一体••••」
「詳しくは言わないけど、フィリウス様、変わり者認定されましたよ」
「••••••」
「で、フィリウス様の方は?」
「ああ、話してなかったら、こんなに完璧な二人きりになることはないだろ」
「王城にもあっさり入れるし、防音室に使用人さん達無しで二人きり。そういう理由があったんか」
「まあ、俺の部屋だしな。防音で当然。こっちも本性知ってると言ったら、ファレル、お前、容姿はいいのに見る目のない残念な令嬢、に認定されたな」
「まあ、気にしない気にしない。私にとってはここがフィリウス様の部屋だったことの方が驚きの案件だよ。気にしないけど。だからこそこんなにふかふかなソファ」
「その図太い精神を俺にもわけてくれ」
「あって二日でその対応ができる人間は決して繊細な精神なんぞ持ち合わせてないって。大丈夫、もともと図太いでしょ。それよりさ、周りのこの本たちはアレ?」
「違う。••••••王族とわかっているよな?」
「あら?貴方はそんなことなさらないでしょう?つかできないって、罪ないし」
「人格判断が早いな。••••••そういえば、フレムダレム家の傍系?の従姉妹がこちらに来るらしいぞ?」
「は?」
「サフリール家のマナティア嬢?とかだった」
会ったことは、あったっけ?無かったっけ?とりあえず興味が無かったんだろうな、記憶がない。
「何故に」
「こっちが知りたい」
「恋人云々は朝話したばっかだから、用があるのはそっちにじゃない?」
「意味がわからない」
「同意ー」
「失礼致します、王太子殿下、フレムダレム公爵令嬢」
「何用だ」
「どうなさったのですか?」
本性をひた隠しにして微笑む。ついでに姿勢を改める。
「サフリール嬢がこちらにお越しになりました」
思ったより早いお越しだな、おい。
「あと、その」
「なんだ?」
「サフリール嬢が、」
いた。侍女さんの後ろに。会ったことあるわ。あーこれは、興味が無かったんじゃなくて、記憶から消したモノだ。全て思い出した時に。
私を過去へ戻してしまえるモノだから。
あの子にあまりにも似てしまっているから。
恐ろしかった。思い出して、(仮)の中の記憶で彼女を見て。
(仮)は記憶には留めていたけど、それ以上に自己中心型だったからか、興味が薄かった。
だけど、私にとっては違う。
「ファレル?」
自然と呼吸が浅く早くなってたのに気付いたのか、フィリウス様がこちらを伺う。
「あら、ファレル様?何故こちらに?」
彼女の視線がこちらに向けられる。見ないで、欲しかった。私に向かないで。
私の反応のなさが気に食わなかったのか、自己紹介し始めた。
「フレムダレム公爵家傍系、サフリール家令嬢、マナティアですわ。以後お見知り置きを」
名前さえも似ていて。
私は怖い。彼女の全部が。
視線も、声も、作る表情も、雰囲気も、仕草も••••••名前も。
全部あの子に似てる。
過去の私の偽りの原因。
私の今が崩れ落ちるような錯覚に陥って、私の意識はおちた。
「何で、あんたみたいな女が私の義姉なのよ」
「お母さんを犯した男がいた証が何を偉そうに」
「外見だけ似てても私より汚ないんだから、思い上がらないでよね」
「私、もう学校行くのやめたから」
「だから______あんたに代わりに行ってもらうから」
「あんたはもう、外でも『中川 愛』だよ。内ではもう名前呼ぶような人間なんていないし」
「もう、存在自体が嘘なんだよ」
「これであんたは、『中川 風音』は、いなくなっちゃうね、可哀想に〜」
あの子の蔑んだ目、私と瓜二つな顔に浮かんだ嘲笑、上から目線な態度。
最後の台詞を言ったあの子とマナティアが重なった。
「っ••••••!!!!!!」
「ファレル様⁈」
「アリア••••••?ここ、は」
「申し訳ございませんが、私はアリアではなく、姉のアリシアでございます」
「⁈」
「そしてここは王太子殿下の寝室にございます」
「は⁈」
びっくりして思わず出してしまった声に硬直する。本性••••••。
「ご心配なさらないでくださいアリアから聞いております」
「はー•••」
そういえば寝間着に着替えさせてくれたのか、ネグリジェを着ている。いや、待てこれ、これ絶対私のじゃない。質がいいな。いや、家のが悪い訳じゃないよ?でも、公爵家よりいいってことは、
「まさか」
「そのネグリジェは王妃陛下にお借りいたしました」
いや、なんで⁈いや、何故にそんな女性の最高地位を極めるお方に借りた!!
「王女殿下のを借りようとしたのですが、少しサイズが小さくあられたので、王妃陛下に」
もう、借りる宛先から王族しかいないのか!!なんなんだよ!!!
「でも最初は王太子殿下が自分の寝間着を貸そうとなさっておられました」
何やってんだよ殿下!!!いや、私、女ですからね⁈
「そりゃサイズでかいに決まってんでしょ!!」
「問題はそこですか••••••」
「他にある⁈」
「ありますが、まあ気にしないでくださいませ」
「でも、よく王妃陛下に借りられたよね」
「『うちの息子の変な趣味を知りながら恋人になってくれたもの』と言われました」
「••••••」
いや、私があっちを身代わりにしてるだけなんですが。罪悪感••••••。その時、ノックがあってフィリウス様が入ってきた。
「アリシア、ファレルは••••••大丈夫そうだな」
「では私は下がらせていただきます」
「ああ、助かった」
アリシアが部屋を出て行った。二人きり。甘い空気とか、恋のドキドキ♡とかは皆無ですけど。恋人ごっこ?だし。
「色々とありがとうございます。フィリウス様」
「いつになく殊勝だな。それに••••••ありがとう、か」
「?どうかした?お礼言っただけで」
「いつも、すみませんすみません言われてるからな。何故謝られるのかたまに疑問だ」
「王族だからじゃない?」
「•••••それだけで、人の態度はこうまでも変わってしまうんだな」
私には王族の気持ちがわかることはない。絶対、公爵令嬢よりも『自分』を隠さなければならなくて苦しい。
「でも、王族ではなく、フィリウス様を見てくれてる人もいるよ」
「わからないじゃないか!!!」
怒った?言ってはいけなかった?軽々しく、聞こえた?
「俺の気持ちがわかるとでも?」
「わかっちゃうんだよ」
人に自分の『真実』を見せられない自分。誰かに、見抜いて欲しかった。タクに、わかって欲しかった。大切な人に『偽り』を向けてる自分が大嫌いだった。自分で偽ってるのに、『私』を見てくれる人に『真実』も見て欲しいと思う我が儘な自分が嫌だった。楽しくても、ふとした時に苦しみが覗いて。それを隠して楽しく振る舞う自分にもうんざりだった。
全部話せる訳なんてないのに、話したい、知って欲しいと思う気持ちが苦しくて。
私はあの時______きっと。
死んだら解放されると、そう思った。
でも、そう思ったのは間違いだった••••••
言えなかったことが一層苦しい。今だってこうやって、王族の秘密を握ったのをいいことに身代わりを頼んで。一生、解放なんてされるわけない。私自身、忘れたくないと願ってる。
「今は私には、ゲイルがいてアリアもいて、家の人は『私』をみてくれる」
「いつ、誰に見られているかわからないこの状況で『自分』を見せられるわけがない」
私とは、また違う。風音はもう誰にも名前を呼んで貰えることなんて無かったっけ。家が一番苦しいところだった。フィリウス様は、『王族』でいなければならないんだった。次代の王たる者として。
「私には見せているよ?」
「それは、お前も素だから••••••」
「『王族』は王族だもんね。私とはまた違うんだろうけど、私は、苦しかった。苦しくて苦しくて、死んだら解放されると」
「死のうとしたことがあるのか?」
「いや?気にしないで。要するに、私に見せてくれればいいんだよ」
「いや、もう見せてる」
「もっと本音で語れってことだよ。さっきみたいにさ。私、人の感情の機敏読むの、できないことないけど、少し大変なんだよね」
「••••••じゃあ、お前ももっと表情にだしたらどうだ」
「私の苦手分野なのかな?それ」
前世でもだったよね?名残?
「ま、頑張りますけど。はい」
「••••••手をどうしろと?」
「握手だよ、握手!」
「なんで」
「あーもう!まどろっこしい!!さっしてよ!!!身代わり契約の間、お互いよりよく生きる為に頑張ろ?」
「ああ」
手を握り合う。やっぱ男の人だなぁ。力強い。手の形も綺麗。指長くていいなあ。
「••••••あ」
「どうかしたか?」
「ごめん、私、秘密はある」
「そうか」
「おう!意外とあっさり!!よかったー」
「俺に声が似ている男に関わることか」
「うん、まあそう、かな?」
「他にもあるのか?」
「私の今の形成に関わることとか?」
「••••••そうか」
聞いても楽しい話ではないしね。言う方も楽しくないし?気を遣わせてしまう。
「そういえば、身代わり契約の期間は?」
「どっちかが切り出すまで。そっちが切り出した場合は秘密を守ることに対しての妥協案出すから」
「いや、それはきっとないな」
「ぶあっくしゅっ!」
「⁈⁈」
「あ、気にしない気にしない。くしゃみでちゃって。で、なんか言った?」
「••••••気にするな」
たわいないことだったの?でもさ、人間として『気にするな』って言われて反応しないわけにはいかない。
「いや、そう言われるととても気になるのだけど?」
今日もありがとうございました(・ω・)ノ