4-1 KKY作戦
Q,ここはどこでしょう?
A,お父様の書斎。
えー今、私、ファレル・フレムダレムはお父様の書斎に入っております。流石というか、本が多いし、紙が山積みになってます。
「そこのソファに掛けなさい」
「はい••••••」
動くだけで緊張するこのお父様ミラクル。しかし、流石のお父様ミラクルでも、私の脳内には効果を及ぼせないみたいなのですます。
••••••はっ。落ち着け!正気に戻れ私!!ま、まさか、お父様ミラクルに脳内までも混乱させられる程の力があったとは•••!!!
「話というのは?」
なんか、お父様ミラクルのせいか、雰囲気のせいか、私は自然と唾を呑んだ。
ほんの三十分前程の出来事______。
「おはようございます、お父様、お母様」
「おはよう」
「おはよう、ファレルさん」
うん、台本読んでるみたいないつもの挨拶だね!いつも私が『お父様、お母様』を付けるか付けないかくらいの違いしかないよね!私は挨拶にささやかな変化を与えてるんだよ。
だから、断じて、決して、言うのを忘れたわけではないー!ないったらない!!
「今日、時間は空いていらっしゃいますか?」
「••••••ああ、いいぞ」
どうせ、今日も断られるんだろうな。わかってますって!二週間挑み続けて連敗の私はわかってますって!!
「じゃあ三十分後、私の書斎に来い」
「わかりました」
どうせどうせ、私と話す気なんてないんでしょ。そうじゃなきゃ二週間連続で断れないって!精神的に!!こっちの精神は耐久性が上がったけどね!!!
「先に失礼」
お父様は席を立った。向かった先は自室かな。
「わたくしも、失礼致します」
お母様もか。いつも通りだね。最近は二人が居なくなったらゲイルと話すのが日課だ。ただし、小声。顔は平静を装って。バレてもいい話し方で。『ファレル』の風評的に。普段通り話したら、猫が吹っ飛ぶ自信がある!今度は奇行が始まったとか言われる!!あってないような風評だけどな。あってもマイナスすぎるわ。
「(旦那様、何を話されるつもりでしょうか?)」
「(誰に?)」
「(ファレル様に)」
「(聞いてなかったの?お父様はいつものように断られたじゃない)」
「(•••••ファレル様、話を聞いてなかったんですか?)」
「(どういうことよ)」
「(旦那様は『••••••ああ、いいぞ』、『じゃあ三十分後、私の書斎に来い』っておっしゃられてました)」
「(あら?幻聴が聞こえるのだけど)」
「(ファレル様、現実を受け止めて下さい。現実逃避も禁止です)」
「(じゃあ何⁈その、お化けとか、幽霊とか、オカルト的なモノもビックリの現実を受け入れろと?)」
「(そうです。最初から言ってます。事実です。ってか、自分の父親を何扱いですか)」
「(止めを刺さないで!!)」
「(スルーしましたね)」
「(今おあいこになったわ)」
「(そうですね)」
「(貴方も大分言うようになったわね)」
「(はい。自分の変わり様にびっくりです。••••••ファレル様、話を脱線させるのはやめて下さい。)」
「(何のことですの?さ、話を戻しましょう?)」
「(誤魔化しましたね。まあ、止めは『旦那様と話すことは夢ではなく、現実です。事実です』でしょうか?)」
「(•••••わかったわよ。受け入れるって)」
「(猫が少し剥がれてます。ところでファレル様)」
「(何よ。今後に及んで。止め刺したくせに!二回も!!)」
「(旦那様に言われた『三十分後』があと十分弱できます)」
「(早く言ってよ!!!)」
「ごちそうさま」
急いでいるときは走りたくなる衝動を抑えて早歩きした。
で、今に至る______。
話って何ですか⁈いや、話したいってこっちから言ったけどね⁈予想外過ぎて!そして、このお父様ミラクルの威力!!もうなんか、錯乱してるって自分でわかる不思議な状態になってるんだよ!!!
「は、話は、」
くっこういう時にはアレをやるしかないか!精神統一して、(脳内で)構える。
「お父様の話から聞きますわ」
今だ!!バッと手を前に出す(脳内で)。
秘技・『お先にどうぞ』!!!!!!!!!
「話があるのは悟っていたか」
おーい!お父様!!あなたの中の私はどんだけ馬鹿なんすか。(仮)はともかく、私はそうでもない、はず、だよ。今まで話すの断ってたのに了承されたんだから、明らかにそうでしょうよ!!!
「ピアノを弾くようになってたな」
「ええ」
「何の曲を聴いているんだ?」
「あ、え」
事実を言えば、『きらきら星』と『かっこう』と『チューリップ』だ。けど、言っていいんだろうか??こっちの世界の曲じゃないし。
「どうした?」
「いえ、そういえば曲名を知ろうと思ったことが無かったな、と」
「••••••そうか」
嘘です。ハッタリです。知ってます。てか、それ本題ですか。
「最近、急に変わったな」
「何がですか?」
「お前が」
そりゃ、中身が思い出したんでね。前世の記憶を。
「何があった?」
「何が••••••」
侍女に殺されかけました。という訳にもな。
沈黙を保つ。口開いても、言いようがないことしか言える気がしない。
「言えないか」
「••••••はい」
「なら、」
何⁈奥の手とか⁈何⁈何⁈
お父様が口を開く。ゴクリと、唾を呑む。さっきも唾を呑んだよね。
「カレー」
はい⁈カレー⁈
「ラーメン」
ええ⁈ラーメン⁈
「おはぎ」
何⁈何⁈おはぎ⁈
••••••終わり⁈ってか、何⁈何で食べ物⁈カレー、ラーメン、おはぎ⁈美味しいけど!!!
•••••まって、カレー、ラーメン、おはぎ。この世界に存在してない。なら、
「ファレル、お前は、」
お父様、貴方も。
「誰だ?」
「転生者ですか?」
沈黙••••••••••。えっと。
「転生者、です」
「同じく転生者です」
話し方、変わってますよ、お父様。五・七・五いけるね。
「ここも防音室だから大丈夫」
「その話し方は?」
「前世での」
「そうですか」
「だから、そちらも大丈夫だよ」
では。
「自己紹介というのも変だし、前世紹介するよ。中川 愛、十六歳です」
「松江 涼、二十四歳です」
「前世の記憶も話す?」
「そうだね」
「••••••聞いていて気持ちの良い話ではなくても、聞いてくれますか?」
「じゃあ、今度は、僕から話すよ」
「はい」
「前世でも、妻子がいた。妻は幼馴染で一人、娘がいた」
「今も同じですね」
「他には?ほら、素になって!」
「マンガみたいだな」
「それでいいから」
「いや、苦笑してるし」
「まあ、置いといて。僕は娘をトラックから庇って死んだ」
「御愁傷様です」
「うん。でも、僕、本人だから」
「娘さん、大好きだったんだね」
「••••••大好きだよ」
「今も?」
「僕はこっちで結婚した。政略結婚じゃないよ?恋愛結婚だ」
「そうなの?」
「疑わしいだろうけどね」
「はい」
「即答か。••••••そして、子供、ファレルが生まれた。僕は、前世と同じ状況になって記憶を思い出した」
「娘が一人できたことで、か」
「僕は、前世と今を重ねてしまいそうだった。だから、僕は、妻とも、ファレルとも、距離を置いて、冷たくして」
「まあ、そうですね。それが、二人の為だと思ったんでしょ?」
「思った」
「お陰様で、ファレルの性格はすくすくと捻れてましたけど」
「⁈」
「当たり前でしょう?構って欲しかったんですよ?ファレルは。『結婚相手、両親の言いなりになってたまるもんですか!!』って感じだったし」
「でも、じゃあ」
「中身を私だと思えば、これからでも娘として扱えるんじゃない?」
「君は?」
「ここでの親はお父様ですから」
「それでいいの?」
「前より、ずっといい」
「前って」
「私が前世を話す番ですわね、お父様」
「••••••そうだな」
「私の家は四人家族だった。両親と、妹が一人。父親と妹とは血が繋がっていないから、義理ですけど」
「••••••再婚だったの?」
「いや、私の実の父は、母を犯した男です。母はその男と結婚しただなんて思ってなかった。父と呼ぶのも穢らわしい••••••。質問とかは?」
「いや、通しで聞く」
「わかった。母と義父は恋愛結婚でした。母と義父は前々から付き合っていた様で、その時、同い年の義妹ができた。私は、その誰からも愛されることは無かったな。母からすれば、犯された末にできた子。義父からすれば、愛する妻が犯された結果。••••••義妹から見れば、自分より下の存在だった。
私に罪があるとか、思ってなかったから、親としての務めを果たしてくれましたが、別に、そこに愛情とかはない。ただの義務だった。私からしても、そう。それが当然だった。両親に対しては、両親、というより、自分を義務感から養ってくれる赤の他人だった。義妹には下だと思われてたから、八つ当たりされたりしたけど、別に、私からしたら、些事だった。
そんな、捻りまくった対人能力で、学校でも上手くいくわけがないし、そうだった。運動ができる方だったし、仲間はずれとかは無かったな。怖がられてたらしいけどね。
高校生になってもそれは変わらないはずで、わざわざ変えるのも面倒くさいと思ってた。けど、恋人ができた。それがきっかけで私には友達ができるようになって。でも、デートの時、帰りに駅のホームから落ちて死んだ。事故。で、こっちに転生して、侍女に殺されかけて前世を思い出すっていう」
「••••••なんか、聞いてごめん」
「何で?家族は私を好きになってくれなかったけど、」
タクは、友達は、
「私なんかでもいいって、言ってくれる人ができたんだよ?嬉しかった」
全部を話すことは出来なかったけど。それはきっと、これからもそうなんだろう。話すことなんて出来なくて。私が偽物だって、これからも知る人はいない。それでいい。
「そっか」
「そう」
「そういえばさ、緑茶!醤油!懐かしくない?」
「あー、思い出す。あれは日本人の産んだ奇跡だってこの世界に来てから気づいた」
「作ってみたんだよね」
「ホント⁈」
「これで嘘だったら、」
「ただの酷い人です」
「ははは」
「改めてよろしくお願いします、お父様」
「こちらこそ、ファレル(・・・・)」
で、私たちは仲良くなった。親娘としても、友人としても。KKY作戦(対お父様)は達成された!!!お茶会したり、前世のこと話したり、頑張って日本の味を再現しようと奮闘したり。
お父様は、親バカになっていった。私も軽度の後戻りできる程度のファザコンになった。
心なしか、使用人さん達の視線も柔らかくなった気がします。
相変わらず、ゲイルとは基本くっついてます。ピアノ弾いたりします。あと、最近では、ゲイルの女子力が上がってる気がする。なんか、髪結えるようになってる。器用だな。そして私は、『大雷雨』を弾けるようになった。
とりあえず、まだまだ暇を持て余している。勉強してるけど、前世の知識があるし、大変なのは地理と歴史くらいだ。お嬢様は暇な職業です。あ〜あ、楽しいこと、ないかしら?
ある日、お父様とお茶会をしていた。前世のマンガ話をしていた。そしたら、急に扉が開いてさ?誰がいたと思う?お母様だよ!!鍵かけてたんだけど。鍵ごと壊したのか。すごいな!お母様!!ぽーっとしてるだけの人じゃ無かった!!!しかもさ?
「申し訳ございませんでした!!!!旦那様!ファレルさん!!」
何があった。お父様はともかく、何故に私まで巻き込まれないといけないのか。修羅場なら遠慮したい。
とりあえず、脳内はもう混乱し過ぎて逆に冷静になってた。うん。お母様、頭下げるだけで飽き足りなかったか、土下座しようとするし。お父様の慌てっぷりったら。笑うわ。ふははははは。
うん、その日は私の頭上に大雷雨がきたみたいな感じだった。
今回もありがとうございました(^O^)
しばらく、本業の事情につき、更新が遅れます。すみませんm(_ _)m