5 仮面は体力を消費する
新キャラ来たり。
こないだより更新早くできたけど短いですσ^_^;
「ブランシュから参りました。フレムダレム公爵の娘、ファレルと申します」
瞳に揃えた薄紫色のドレスの裾を摘んで一礼する。口上が間違ってたらこの時点でアウトだけど。大丈夫だよね?
「チュールにどうぞお越しくださいました。私がチュールの女王、エリーナ。これが私の息子、エドヴィンだ」
チュールの現国主は女王陛下だ。中性的で妖しい美しさが…!!そして黒髪黒目というのも元日本人としては馴染みやすい。王太子殿下は女王陛下似の美人さんです。
「よろしくお願い致しします」
「こちらこそ」
ブランシュとチュールが対等になるためのこの______言い方は悪いが______人質交換なので三人で綺麗に整備された庭園でお茶会をしつつの挨拶だ。もっと堅苦しいものだと思っていたから、ケーキを食べることができて嬉しい。いっぱい種類あるし。
実はライア様たちの方にもこの国の貴族令嬢が差し向けられていたようだし。
「記憶を無くされたと聞きました。その後の経過は良好なのですか?」
「お気遣いありがとうございます。忘れてしまった礼儀作法などを覚えるのが大変でしたわ。もし不作法なことをしましたら、お教えくださいませんか?」
「わかりました」
うん……王太子殿下、本当に美しい、目の保養になる。けど、表情がピクリとも動かない。表情筋ないの?
「すみません、息子はいつもこうなんですよ」
「いえ、お二人は美しい絵画のようで……とても目の保養になります」
「ふふ、ファレル様がこんなに可愛らしい方でよかった」
その間も無言真顔を貫く王太子殿下。やっと口を開いたと思ったら、
「申し訳ありませんが、鍛錬の時間なので失礼いたします」
と言って颯爽と去っていった。
「……本当に申し訳ありません。エドヴィンは騎士団の副長をしておるのです」
「剣を振る姿もさぞ絵になるのでしょうね」
わあ、騎士団とかうちの国にもあるけど王太子殿下が副長とかあれだよ、カップリングし放題じゃないか。ライア様大喜びだよ。
「このケーキ、美味しいです」
「それはよかった。息子しかいないし、その一人息子もああだから少し寂しかったからね。娘ができたみたいで嬉しいよ」
「私が陛下の娘でしたら、殿下は私のお兄様ということになりますね」
仲良くできなさそうだけど……。いや、身内には意外と優しいのか?
☆
うわあ、ここの王城も豪華。客人の部屋でこれって。ウチの屋敷も一般的な家庭からすれば豪華だけどね、格が違う。
ベッドにダイブすると、スプリングが大きく跳ねて私の体を受け止めてくれた。
女王陛下はいい人だ。王太子殿下も悪い人ではないはずだ。
でも、寂しい。たった一週間だけしかそばにいなかったあの人たちが恋しい。気を許せる人がいないことが辛い。
だって、私はあっちではただのファレルだったから。でもこの国じゃ、ファレルである前に一人の令嬢だ。私がしっかりしないとブランシュまで類が及ぶことになるから気なんて抜けない。
仮面を被らなくちゃいけない。
そんななんてことない、ずっとしていたことが大切な人たちに自分をさらけ出していくたびに難しくなる。甘えたくなるから。
「あ」
ベッドの横の窓から幾人かの男の人が剣を振っているのが見える。この国の人たちは結構黒に近い髪色が多いみたい。あの中に王太子殿下いるんだろうな。
なんか異常に強い人いる。佇まいからすごい綺麗だし。まさか、あれかな……。
「?!」
突然こちらを振り返ったその強い人は予想通り王太子殿下だった。
もろ目が合った、と思う。というか結構遠いよね。この距離で視線感じたのか?たまたまでこんなことおこるものなの?なんか反射的にカーテン閉めたけど、よく考えたら不審だよ。
カーテンの隙間からもう一度見てみたけど、また剣を合わせてるところだった。……様になってるなぁ。
と い う か
剣振ってるの見てると手がウズウズする……!本能があの感触を求めてる!上手く当たった時の手が少しピリピリする感じを味わいたい!
なんといったって私は元剣道部。逆に今まで竹刀握らずによくもったな、私。ここのは洋刀っぽいけど、心構えは近しいはず。ぜひ、やりたい。できれば強い人と打ち合いたい。
うああ、なんで私は令嬢なんですか?!打ち合いなんてライア様にバレたら沈められる!他の人にバレたら白い目で見られる!しかも令嬢相手に本気でやってくれるわけないよ、騎士様だもん!
もう一回カーテンの向こうを見る。
うわっ、こっち見てる王太子殿下がムッチャ見てきてる。……練習終わったのかな。もう剣は持ってないや。そのままじっと観察していると、殿下は城の中に入っていった。ほっ。
一日目なのにこんな感じで本当に今後長い間やっていけるのかな……。枕に顔を押し付けて微睡みながら考える。
そういや、フィリウス様が剣振ってるのは見たことないなぁ………。ぜったいかっこいい………。
☆
見られるのには慣れている。たまに令嬢が練習場を覗きに来たり、パーティでもそうだ。そして大概の場合、その目には鬱陶しい熱がこもっている。
たまに令嬢は頰を染めて言ってくる______好きだと。
話したこともないのに好き?そんな感情くだらない。どうせ身分と顔に吊られたか、欲深い親に言われただけだろう。
俺がそう言えば、そんな方だとは思いませんでした、と言ってくる。相手を知りもしないのに好きだとか言ってくるからだ。
俺だって、そんなものにつられる女なんて願い下げだ。
幸い、この国は自由結婚を推奨している。政略結婚も少しはある。でも、そんな風潮のお陰でやれ「結婚しろ」だの「早くお世継ぎを」だの言われずに済んでいる。陛下も俺の意思を尊重してくれてる。
それをいいことに、恋した人と愛した人と、結婚したいなんて女々しいことを考える。
でも、この国を守るためにも結婚して子をなすべきだということもわかってる。
そんな時にブランシュから隣国への学習という名目でやって来た人質令嬢。
面は綺麗だった。だが経験上、綺麗な女ほどプライドが高く、面倒くさい奴が多いし、外面と本性の差が激しくて気持ち悪い。
お茶をするのもほどほどにして、俺は練習場へ抜け出した。あっちも全く表情が動かず自分から話さない俺に嫌気がさして来た頃だっただろうし。
練習場で青空の下、剣を振るう。
剣を振るのは気持ちいい。何も纏わり付いてこない。何より沼のような現実から目を逸らすことのできるひと時。模擬戦を一つ終えて一息ついた時、ふと、視線を感じた。
あの鬱陶しい熱がこもった目はもう無視することにしている。だが、その視線からはそんなものは感じないし、敵意もないようだった。ただただじっとこちらを見てくる視線。
それの元を振り返れば、あの人質令嬢がこちらを見ていた。
目が合った瞬間に驚いたのか勢いよく部屋のカーテンは閉められた。でも、その後も時々こちらを伺ってくるように視線が送られ、そしてそのどれにもあの鬱陶しい熱はなかった。遠くから他人の視線を感じて気持ち悪いと感じないのは久しぶりだった。
お茶の時のケーキを美味しそうに食べていた綺麗な顔の女は結構いい奴なのかもしれない。
今頃明らかになった国名(笑)
一応、ファレルの国がブランシュで、エドヴィンの国がチュールです。
今回もありがとうございました(о´∀`о)