4 答えを知らないままに
お久しぶりです(⌒-⌒; )
自分でもびっくりの更新の遅さと短さです……。すみません……m(_ _)m
そして吹っ飛ぶ時間軸……。
本当にすみません。
名乗り合ったのはいいけど、フィリウス様って何者?というか、何この状況。私が寝てる間に何があった。
「それで、何で貴方が此方にいるのかしら?」
「時間が空いていましたので、少し探検してましたの」
「今更お兄様の前で取り繕ったって何の意味もないわよ」
「そうですねー、寝ちゃったし。……………お兄様っ?!」
ライア様のお兄様ってことは、この国の王太子殿下?それ、大丈夫なの?私、そんな人の前で爆睡してたの?
「それ、大丈夫ですかね……?」
「まあ、この部屋もお兄様の部屋なのだけどね」
「すみませんでしたっ!」
ソファの上にで殿下の方を向き、土下座する。
いや、王太子殿下の部屋に導かれたって何?!ねぇ、記憶無くす前何してたの私。
「いや……そう言われても、記憶が無いから実感も無いんだ」
「つまりは記憶喪失?」
「まあ」
「仲間ですね!」
記憶無くしてる人ってこんなに身近に、しかも同時期にあるものなんだなー。それにしても、殿下が記憶喪失?何で?
「何勝手に仲間意識を築いているのよ。令嬢じゃなくても普通、部屋に勝手に入らないわよ」
「うう、周りにいた人に止められなかったし………ライア様?」
何故そんなに頭を抱えて?それは令嬢のすることではないのでは?言ったら叩かれそうだけど。
「……あと五日で出立なのにこんな状態で大丈夫なの?貴女、マナーレッスンに来たのよね?」
「……あはは、忘れてました」
我ながら笑い声が乾いてる。いや、本当に忘れてた。隣国に行くんだった。猫を何十匹と飼いこなさなきゃいけないんだった。
「ファレル」
一瞬、時間が止まったのかと思った。
懐かしい声。名前呼ばれるだけでなんでこんなに満ち足りてるのに切ない気持ちになるなんて。
「どうした?」
「あ、と………なんですか?」
「俺も手伝おうか?」
「お兄様」
ライア様がフィリウス様を止めるように声を上げる。その間も私はフィリウス様の声に心を揺らされる。気付くまでは大丈夫だったのに。恋人に似ているその声に気付かなければ、普通でいられたのに。
「手伝うって……何を」
「礼儀作法の中にはダンスもあるだろ?妹もさすがに男パートは踊れないだろうし」
「あ……」
記憶を消す前の感覚が体に残っていたとしても、ヒップホップとかならともかく社交ダンスは無理だ。まず、重いドレスを着たままで踊れるかどうか。
「……それはお兄様がなさる必要はありませんわ。まず彼女が記憶をなくす前、彼女の従者がダンスを教えていたようですし、そちらでどうにかなります」
ライア様が渋面でこちらを見てくる。従者というのはゲイルのこと?相手によって踊りの具合は変わるものなのか?いやいや、誰とでも踊れないとダメでしょ。
「ライア様。折角こちらに来させて貰ってるし、フィリウス様がするって言ってくれてるし、私やるよ」
私はフィリウス様に改めて向き合った。
向き合わなきゃいけない。この世界での私と。
「よろしくお願いします」
☆
「本当にごめんなさい……」
「気にするな」
無理です。知らない人の足を踏んでも謝る。ましてや知り合いなら絶対謝るし、一度だけでなく十一回も踏めば土下座ものだ。気にしないとか、私そんなメンタル最強娘じゃないし。
ただここで土下座などしようものならライア様の天誅が頭に刺さる。私だって命が惜しいし。
三回踊ってこれって……フィリウス様の足の無事が心配だ。いくらこの体が細いとはいえ足に乗せる体重としては重量オーバー。
「もっと胸を張って、堂々としなさい。下ばかり見ても踏むなら上向いてたって変わりはないわ。あと体が硬い。もっと力抜いて踊らないと後がキツイわよ」
「いっぱいいっぱいなんですけど」
「つべこべ言わずに最初から踊りなさい」
「数をこなせば大丈夫だろう」
ライア様が手を叩いて拍をとるのを追って体を動かす。
あわわわわ………もう五回踏んだ………。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
「力、抜いて」
「無理です」
小声の声かけに即答すると、フィリウス様が困ったように苦笑する。
困らせてすみません。でも、話す余裕も正直ないんですよ。話してる間にも踏んじゃったし。
「ファレルは、好きな人とかいる?」
「は?」
…今の声響いた?
え?好きな人?何故急に。
「いると思いますか?」
私、記憶喪失。そんな状態で好きな人なんて…………恋人はいた、けど。元、だし。タクは元気かな。
急に動きが止まる。
「フィリウス様………?」
「ファレル、最後の方は凄くよかったわよ」
あ、終わったのか。フィリウス様の手を離す。
最後の方、好きな人の話題に気を取られてたからね。それで気が飛んでたんじゃないかな。話してたり、他のこと考えれば大丈夫なのかも。
「フィリウス様、ありがとうございます。コツ、掴めたかもしれません」
「そうか」
「ほら、ぼーっとしている暇はありませんわ。貴女は隣国でのこの国の評価をにぎってるのよ?あと五日が勝負。いくら記憶喪失だからといって仮にも公爵家の令嬢として体面は保ちなさい」
仮にもって……まあその通りですよ。
あと五日。私は隣国に行く。
五日が私がここにいられる時間。みんなとここで過ごせる猶予。
私はこの世界で何をしていたいんだろう。なんでここにいるんだろう。私が今ここで生きる意味が欲しい。
☆
時間はあっという間に過ぎていく。それは忙しいほど早く感じるらしい。
あの次の日から四日間みっちりしごかれました。辛かった。解放されて嬉しい。
結局、あの日以来フィリウス様には会わなかった。あったところでどうにもならないし、大体何をするのか。タクによく似た声のフィリウス様。だから気になるのだ。フィリウス様にとって私は妹の友人で、記憶喪失仲間。私にとっても、そう。
そのはずでも、気になってしまうのはなんでだろう。しごかれつつ少しの合間に考えるのは彼のこと。
家でいろんな人にフィリウス様について聞いた。でも誰も不自然なほどに何も教えてくれはしなかった。アリアとゲイルは会ったことを伝えると顔を強張らせた。
なんで、教えてくれないのか。
知らせてはいけないのか。会ってはいけない人だったのか。
わからないまま私は隣国に発つ。
______私の体の力を抜かせるだけだとわかってる。
でも、でももしあの質問に「好きな人がいる」、そう答えたとしたら、貴女はどんな顔をしましたか?
いつか、その答えを聞けるといい。
これからも見捨てないでください( ; ; )
何はともあれ、今回もありがとうございました。