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社交辞令とかいいから、身代わり契約とか如何です?  作者: 音羽 雪
私と彼の身代わり契約。
2/23

2 まだ見ない間からごめんなさい

「おはようございます、お父様、お母様」

「おはよう」

「おはよう、ファレルさん」


 頑張れ、私!!


「あの、今日は時間空いておりませんか?」

「私は無いな」

「何かご用が?」

「いえ、ですが」

「用がないならいいだろう。さあ、食事にしよう」


 やっと、やっと言えたのに!!十日目にしてやっと話を切り出せたというのに!!どっちからもサラリとかわされた!!


「いただきます••••••」


 今なら溜め息の世界記録出せそう••••••。KKY作戦、進展しないんだけど••••••。当たって砕けたよ。忙しいのはわかってるんだけどさ、この世界ではまともな家族関係を築きたいんだよ。まともって言っても、前世の私より良かったらまともっていう凄いハードル低いはずなんだけど。余裕で潜れるんじないか?


 まあ、私の二人の印象とか、前世の記憶からして、話しかけるのから大変なんだよ。

 私のお父様の印象は冷たい感じ。一緒にいるだけで緊張する。空気も冷却できてそう。真夏は冷房ないこの世界で涼しそう。••••••だけど、きっと凍えそうになる。前世の私のように、目付きが悪い、というより目力が半端じゃない。

 お母様の方は、ぼんやりしている印象が強い。でも、話し方も、作法も、私の見ている限りは完璧。完璧なる淑女。貴族女性の鑑。でも、私が見られてる時、私自身を見ているのかが良く分からない。背景でも見ているんだろうかと思う感じ。

 前世の記憶からすると、話しかけたとしても、冷たく返される、無視される、話しても必要事項以外は口にしない、の三択だった。••••••その三択以外の反応を返してくれる人は、タクが最初だったな。その後、少しずつ少しだけの友達と話していった。

 しんみりしてる場合じゃないんだけどね。うん。


「ファレル」

「!はい」


 まさか、私と話してくれる気になった⁈


「今日から、ダンスと礼儀作法のレッスンを入れておいた。侍女あたりに聞いておけ。さすがに何もしないでいるのは大変だろう」

「はい••••••」


 ですよね。そう簡単にはうまくいきませんよね。今なら溜め息の宇宙記録くらい出せそう••••••。今世は鉄壁の笑顔貼り付けるようにしてるから、ばれなくて済んだけど。公爵家の恥晒しはしたくないですよね。私も恥ずかしいのに耐えれる鋼のメンタルの持ち主な訳でもないし。

 礼儀作法はともかく、ダンスがね。礼儀作法は、最悪頭に入れておけばどうにかなる気がする。ダンスはねー••••••、リズム感とか求められるからな。うん、懸念しかない。顔も知らない相手してくれる人に、今から謝っておく。

 ごめん。本当にごめん。





 侍女さんに聞いたところ、奴は練習室なるところにいるらしい。そういやあったなそんなもん。私が行ったことないだけだ。正確には位置しか知らない。入り込んだら最後、ダンスや礼儀作法以下諸々の練習に引きずり込まれるであろう未来しか思い浮かばなかったからだ。今日は向かうしかないか。位置知ってるから、侍女を呼ぶ必要ないし。早速レッツラゴー!


 うん。とりあえずのところとして教えてくれる、大変な苦労をする未来が見えている人物を“奴”呼びはどうかと思った方々は多いはず。私の脳内音声が聞こえてる訳ないからそんなわけないけど。聞こえてたらちょっと、サイン下さい。


 それはどうでも良くないが、あとで脳内審議をするとして。呼び方だよ呼び方。先生と師匠、どっちがいいかということだよ。これは重要だ。先生か師匠かによって、私の位置付けが変わる!生徒か弟子に!!私の密かなラノベ好きを満足させる為にも!!

 待てよ••••••師匠とか呼んだらおかしいとか、精神科に行くべきだと言われそう。いや、精神科とか存在しないこの世界では医者止まりだろうよ。師匠と呼ぶ文化はこの世界に存在しているのかしら?••••••うん、ないな。あったとしても、公爵令嬢として師匠は無理だなぁ。師匠と呼ぶ奇特な公爵令嬢がいれば目立たないんだけど。でも、奇特だと自分で思っている時点で師匠呼びはないだろうし、目立つだけだ。

 じゃあ、師匠は諦めるしかないのか。ゔう。


 待って!

(ん?)

 諦めたらそれで終わりなのよ⁈

(でも、私、今、公爵令嬢なのよ••••••)

 その二択だからそんなことになるのよ!

(でも、これ以外何があるっていうのよ)

 こういう時こそ、あれを使うのよ!ファレル!!

(まさか、あれ・・を)

 そう!あれ・・よ!!


((秘技・脳内自動変換を••••••!!!!))


(では、師匠と書いて、せんせいという読みにすればいいのね!!)

 そう!師匠せんせいと呼ぶのよ!!これなら、師匠と呼んでいることを知っているのは、私だけ!!!外に聞こえるのは『せんせい』よ!!!!!

(ありがとう!もう一人の私!!)


 これが聞こえてたら、公爵令嬢だから云々どころじゃないけどね?

 もう一度繰り返します。

 以上の脳内会話が聞こえてた方は!是非!是非!私にサインを!!


 あ、着いた。ここだったはず、練習室。この屋敷、三人家族なのに無駄にデカいからな。公爵家の財力を見せつけるためだけど。


 ふー。このドアの向こうに我が師匠せんせいがいるのよ。ファレル!息が荒くなるのは抑えて!!それじゃ、変態よ!!!

 まず、ノック。手!震えんな!!

 目をぎゅっと瞑る。


「失礼しますっ」


 ん••••••?何のアクションもない?目をそろそろと開ける。

 って、誰もいないだと⁉︎まさかの展開!!どっかに倒れてるとかないよね⁈ま、窓開けよ。頭冷やして落ち着こう。

 窓を開けて身を乗り出す。


「ん」


 これは、外から見られたら少しヤバい奴だ。あんまりやると、まずい。上半身を部屋の中に戻す。風が吹いた。あー気持ちー。快適な温度!!ん〜と伸びをする。


 パタン


「「あ」」


 っセーフ!!セーフだった!!すぐ止めて良かった!!!


「あの」

「貴方が師匠せんせいですのね?」

「はい」

「私はファレル・フレムダレムですわ。以後お見知り置きを」

「あ、知っております」

「そうですよね、教える相手の情報くらい、」

「いえ、そうではなく。私はここに仕えている人間なので。主の家族くらい、わかっております」

「え」

「申し遅れました。ベイル・クライスラーです。この度ダンスと礼儀作法を教えると共に、お嬢様付きの侍従に任ぜられました」

「そうでしたの⁈」

「やっぱり嫌ですよね。下の者に教えられるなど」


 師匠せんせい!勘違いしてます!!


「そんなこと、思いもしませんでしたわ」


 出来るだけ、あっけからんと言ってみせる。前ならともかく、今、私の中身は一般人だからな。事実でしかない。


「どちらかというと、侍従の仕事しながら、ダンスも礼儀作法も教えられるなんて、素晴らしいのでは?」

「•••••そんなこと、初めて言われました」


 そうなの?


「では、何からしますか、師匠せんせい

「その先生って何ですか⁉︎」

「貴方のことですわ」

「止めてください!!」

「何故?私が習うのだから、貴方は師匠せんせいでしてよ?」

「いえ、でも、お嬢様にそう言われるのは」

「そうだわ!私のことは、ファレルとお呼び下さいませ」

「もっとハードルませんか!!」

「?どこがですの?」

「お嬢様を名前で呼ぶなど」


 そういや、『ファレル様』と呼んだ人をクビにした前科があった。うーん、じゃあ、


「貴方は師匠せんせいだからいいのでは?」

「そういう問題ですか⁈」

「違うのですか?」

「上の方を名前で呼ぶのは、抵抗があるというか」

「どうしてもと言っても?」

「無理です」

「じゃあ、命令」

「急に強行手段に出ましたね!!」


 師匠せんせいをじぃ〜っと見つめる。


「わかりました••••••」


 よっしゃ〜!!これは、ガッツポーズものです!!!


「おじょ、いえ、ファレル様は結構面白い方ですね」

「?」


 私、面白味ある?


「顔が、変ということですか」

「ち、違います!!怖い方かと思っていたんですけど、侍従ともこうやって、必要以上の会話をなさるし」

「それがコミュニケーションというものではなくて?」

「そうですね。それに、」

「それに?」

「••••••いえ、何でもありません」

「何よ、隠されるとますます気になるのだけど」

「本当に何でも無いので」


 ウッソだぁ〜!!ま、師匠せんせいなので、許したげますよ。


「では、何をします?師匠せんせい

「礼儀作法から始めましょう」

「わかりましたわ」


 こんなにすぐ受け入れてくれる人が先生で良かった。きっと楽しい授業になる。





「〜〜〜っ!!!」

「すみませんっ」


 礼儀作法はさ、テーブルマナーとかあったから何とかなるんだけど。でもさ、さすがにやった事ないやつは無理です。ドレス重いし。というか、私のリズム感覚が壊滅的???でも、ピアノ弾けるんだけど?


「足の指は大丈夫でしたか⁈」

「はい、動きますし」

「はあ••••••すみません。もうさっきから十三回目ですよね••••••。もう、何が悪いのかもわからないんですの」

「数えていたんですね••••••。動き自体はあってますし。多分、足さばきが鋭いんです。もっとゆったりとで。でも、運動とかしているんですか?」

「何故?」

「これだけの反応速度は並の運動レベルではないなと」

「してませんわ」

「ですよね」


 師匠せんせいは笑った。私はそれどころじゃない!!何で運動量とかわかるの⁉︎現世ではさすがにしてないけど、前世に剣道してましたなんて言えないし!!!現世でもしたいけど、公爵令嬢だし!!竹刀なさそう••••••。ってか私、まだ剣道の足さばき残ってたんか!!!


「もう一回、踊りましょうか。今度はゆったりとさせてみて下さい」

「わかりました」


 三拍子の拍を師匠せんせいが口でとる。ゆったりとって••••••。ヤバい!これ、超、疲れ、る!!足の筋肉ーー!!総動員だ!!!ダンスって貴族の嗜みなんでしょ⁈こんな疲れんの⁈何でみんなこんなん笑顔で踊れるの⁈踊ってるって言っても、小説の挿絵でしか見た事ないけど!!!!

 終わった時にはもうゼェゼェ肩で息をしていた。


「社交界に、出て、いらっしゃる、方々を尊敬し、ますわ••••••!!」

「どうなさいました?」

「何でこんな地獄の拷問の様なダンスをわざわざ踊りに行くのよ!!」

「世間体と、情報収集の為ではないかと。あと、普通はそこまで疲労しません。早く動く事に慣れていないので」

「••••そうなの」


 本来なら、『真面目に答えるんかいっ』てつっこむとこだったよ!!危なっ!!しかも、普通はって何よ!!普通はって!!!私が異常者みたいじゃん!!転生してる時点でイレギュラーな存在だけど!!


「休憩しましょうか」

「ありがとうございます••••••」


 足の筋肉総動員させればどうにか何ない事もないけど、この体、そこまで筋肉ないんだよね。もう、前世の勘で動いている状態。危うい。これから、走り込みとかしようかなぁ。ドレスだったら重いし、あんまり多くなくていいだろう。

 休憩っていっても、暇なんだよね。することないし。風に当たっとくとかくらいだよ。私、息整えるの早い方だしさ。面白いもの探せ!!!


師匠せんせい

「何でしょう?」

「ピアノ、弾いてもよろしくて?」

「はい」


 隅に置いてある、蓋を開ける。でも、


師匠せんせい

「今度は何ですか?」

「ピアノ、弾いていただけません?」

「え?」

「無理、ですか?」

「いえ、弾けますが」


 かれこれ十四年程のブランクがある私には無理だと思う。弾いても、家に無いから、音楽室のピアノを弾いていただけだ。

 師匠せんせいのピアノ、なんか、懐かしい音。三拍子の曲。


「何の曲ですの?」

「さっき踊っていた、ワルツの曲です」

「少し、ダンスが嫌じゃなくなりましたわ」

「良かったです」


 師匠せんせいがピアノの椅子から立った後、鍵盤にそっと触れる。弾きたいけど、弾けないことにジリジリする。


「弾いてみたら、どうですか?」

「••••••いいのかしら」

「ピアノは、弾かれた方が嬉しいはずです」

「そうね」


 苦笑する。前世では人見知りで話せなかったというのに、今世では鉄壁の笑顔で本音を見せない様にして。誰にも、頼れない気がして。前世より一人になる気がして。

 でも、歩み寄れるのなら。手を差し出してくれる相手に、一歩踏み出せる様になりたい。自分からも、手を差し出せるように••••••••なれたら、いいな〜••••••。


 そんな気持ちで、私が最後に弾いた曲の最初の音を鳴らした。

今回も、ありがとうございました(^O^)/

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