12 この朱は、
後半の方がいい表現が思い浮かばなかった件……。
色々盛り込み過ぎかもしれませんが、お楽しみ頂ければ幸いです♪
本格的に体が重い。だるい。本当に熱あるみたいだ。
「あの、お届けものです」
「あ、りがと••••••アリア」
手紙••••••?封筒を裏返す。
『ライア・ブランシュ』
ライア様⁈ガサガサと中身を取り出す。
『ファレルへ お兄様と色々あったようね。』
書き出しからそれですか••••••。
『今日は熱が出たのでしょう?まあ、あの雨の中走ってきたのだものね•••。』
すごい呆れてる感が文章からひしひしと伝わってくる••••••。
『今日は、王城に泊まった方がいいわ。フレムダレム公爵にも手紙を出しましたし、両陛下にも許可を頂いたので心配はしないで頂戴。』
ものすごい速さで私が逃げられないように外堀も内堀も埋められたんじゃないかこれ••••••。怖いよ、ライア様。
ここで文は終わっていた。
「あ、の、封筒、と便せ、んと書くもの、用意して頂いてもいい、ですか••••••?」
「畏まりました」
さすがアリア。手際よく集めてきた。
「ありがと••••••」
『ライア様へ お気遣い、ありがとうございます。私はまだライア様、と呼ばせて頂いても宜しいのですか?』
すごく短い文なのに、熱のせいか時間がかかる。
「アリア••••••これ、ライア様にとどけて?」
「畏まりました」
ぼんやりと天井を見上げる。だから私は、人が入ってきたことに気づかなかった。
「フィリウス様••••••」
熱が出て心まで弱くなったのか、と自分を笑う。そっと目を閉じる。涙なんて許されない。自分から始めて、自分で終わらせたことだ。
••••••よし。
「••••••••••」
人間、本当に驚くと声も出ないみたいだ。
目を開けたそこにいたのは、ライア様だった。上から私を覗き込むようになっている。
•••いつからいたんですか?さっきのは聞いてないですよね?
「起きたかしら?」
「ラララライア様ぁ••••••!?」
「ラが多いわ、アリアは外にいるわよ」
体を起こそうとして、止められた。
「こっちも向かなくていいわ」
私、なんか嫌われることしたっけなぁ••••••あ、したか。嘘をついてた。しかも致命的な。
「なんなの、さっきの手紙は」
「••••••私のことはお嫌いですか?」
「なんですの、その話し方は。気持ちが悪いわ」
「あのー、いつもと話し方が違うからってここまでしなくてもいいじゃないですか」
「嫌いなわけないでしょ。私の趣味を知っても、き、気持ち悪いとか言わなかったわ」
「まあ、王太子殿下で耐性がついてますし」
日本にはニューハーフとか存在してましたから。それにそこまでのこだわりも偏見もない方だし。どっちかとゆーと、負の感情の込められた視線は向けられる側だったし。
「••••••本当に、お兄様とは」
「もう、何もないです。••••••だけど、まだ、私はライア様の側にいてもいいんですか?」
「あなたは、私の側にいたくないの?」
「いたいですっ!」
そりゃ、即答だわ。今のライア様が本気で可愛かったってのもある!いっつも強気なライア様がしゅんってなってる感じで!!
「なら、居なさいよ」
「勿論ですっ!このファレル、ずっとライア様の側にいます!!」
ライア様が頬を少し赤くしてこくん、と頷く。これがツンデレかぁ〜。可愛いっ!
こんなに綺麗で可愛い人の側に入れるんだな、私。しかもずっと。
「今日は、一緒に寝ましょう?」
イッショニ、ネル?
「••••••それは、同じベッドでですか」
「ダメかしら?」
「風邪、移るかも?」
「大丈夫、私、こう見えて頑丈なの」
「いや、でも••••••」
私に断れるわけがなかった。で、今、私の腰掛けているベッドにはライア様が寝てる。規則的な寝息が聞こえる。熟睡かな。いいな、私は眠れない。昨日あんな夢を見たばっかりだし。
••••••本当に、『フィリウス様』って呼んでたの見られてないよね?それが心配すぎ。
フィ、王太子殿下はどうしてるかな。私と別れることができてせいせいしてるとか、喜んでるとかかな••••••。正式に婚約、とかの前で良かった。醜聞も出ないはずだ。良いことだ。••••••彼は、喜んでくれたかなぁ。
私は、起きてた。だから気づいた。
キィ
ドアが開く音。そっと開けているようだけど、周りは静かだし、起きていれば気付く。使用人さんがこんな時間に来ることはない。窓の月を見たところ、今は深夜だし。
月の明かりで、来訪者の正体はわかった。その髪は月に映える金髪だった。
「••••••なんでこんな時間に王城へ?マナティア様」
私の従姉妹。公爵家の傍系サフレール家の人間だとしても、こんな深夜に入城が許可されるとは思えない。ましてや令嬢だ、無理だろう。
「いくら従姉妹殿とはいえ、不法進入ならそれなりの対処を致しますわよ?」
声が震えないように心掛ける。今の私は風音ではなく、ファレルだと。
「従姉妹と云々以前に、義姉妹ですわ」
その言葉が意味するのは。
「ねえ?中川風音さん••••••義姉さん」
その名を、知っているのは私の他人同然な『家族』。義姉さんと呼ぶのは、
「••••••愛」
転生者なのはわかってたけど、まさか、愛だとは。
「なんで、私の邪魔をするの?私の身代わりのくせに」
「••••••もう、違うから。私は、風音じゃなくて、ファレルだから」
「何?屁理屈こねてんの?生意気。まずさー、悪役令嬢がフィリウス様の恋人とかありえない!!私が、マナティアなのに!私が、私は、フィリウス様の恋人になるのっ、ならないといけないのよ!!!」
ならないといけない?そんなにヒロインにになりたいとは。何か理由でもある••••••とは思えないけど。マナティアだし。でも、『マナティア』になって何かあったのだとしたら?
「王太子殿下が好きなの?」
「好きに決まってるでしょ?!」
そうは見えないんだけど。その苦しげな表情で誰を想っているのやら。マナティアは胸元からナイフを取り出す。ライア様がいることに気づかれたら、どうしよう。巻き込むのは避けないと。
「本当に?」
「あんたが考えたってわかるわけが無いでしょ⁈わかられたくも無い!!」
「あなたは______」
「止めてよ!!知ったようになんて言わせない!!だからっ、その前に殺す!!」
彼女がナイフを持って走ってくるのを、私はあっさりと避ける。そして、止められた言葉を言う。
「あなたが好きなのは、王太子殿下じゃないでしょう?」
マナティアがナイフを落としたのを見るに、それは図星だ。
そんな人に彼を渡さない、そう思った。私が離れたのは彼を大切にして、彼が大切にしたい人の為だ。
私は、ナイフを拾い、マナティアに向ける。少し離れているけど、これくらいなら、私の間合いだ。
「ここから、出て行って。王太子殿下に近づかないで」
「はいって言うと思ってんの?!私は、フィリウス様と恋人に、ならないと」
一歩、距離を詰める。
「っ••••••」
息を詰めたのは、マナティアじゃない。私だった。後ろに、人の気配がする。
「アベル••••••!!」
マナティアが一瞬でへにゃっとした表情になる。私は、わかった。
「マナティア、あなた••••••」
「やめてっ!!」
「あなたが好きなのは、アベル」
「私が好きなのはフィリウス様。そうだったら••••••アベルは応援してくれる。私を見て笑ってくれるから、」
マナティアは、すごく小声で話す。
この子は自分の気持ちをないことにするつもりだ。
「私が好きなのは、フィリウス様だってば!!!!」
「ファレル様、やめて下さい。マナティア様を傷つけていいのは、僕だけです」
「••••••」
今、シリアスな空気にすごく合わないドS発言が混ざってたのは全力でスルーします。ついでにマナティアのフニャって表情も。••••••こんな状況下じゃなければ言った。
パタン、と音をたててドアが開く。
「ファレル••••••?!」
「ぁ•••」
振り向かなくてもわかる、彼だ。ゆっくりと、振り向いて、彼の顔を見る。反射的にナイフを背中に隠す。••••••やだ。
「何、して••••••」
「マナティア様はお見舞いに参上しただけです。そうしたら、ファレル様が急に剣を向けられて」
「ち、が」
はっきりと否定出来ない。私は、一瞬でもマナティアを殺そうとした。アベルが来なければ、殺していたかもしれない。
「ファレル様でも、我が主人に対する非礼は許せません。••••••王太子殿下、申し訳ございません。これは、私の独断でございます。マナティア様は巻き込まれただけにございます」
力無く座り込んでしまった私に、アベルが剣で狙いを定め、私の胸に一気に振り下ろされる。私は、目も閉じることができなかった。
だから、見えた。
フィリウス様が私の前に立つ。だから、私から見えるのは、背中だけだった。
「やぁっ、アベル、やめて!!」
マナティアの声でアベルの剣先が逸れる。
「ぐっ••••••」
彼の堪える声がする。
私は、彼の左肩から飛び出す剣先と、服を染めていく朱を目にしても、夢心地だった、悪夢だった、現実だとは思いたくなかった。
私を現実に引き戻したのは、
「お兄様••••••?」
いつからか起きてしまっていたライア様の声、アベルを引っ張って部屋を出ていくマナティア。
そして______
崩れ落ちた彼の姿だった。
彼は、自分で剣を肩から引き抜く。
「っ••••••!!」
「や••••••」
血が溢れていく。
胸からはそれていても、傷が深い。息も浅く早い。
「血が••••••。お医者様はっ?!」
腰が抜けてしまっていることも忘れて立ち上がろうとすると、腕を掴まれる。
「傍に、いてくれ」
「私が呼んで参りますから、ファレルはお兄様の傍に!」
なんて、無力なんだろう。
「なんでっ私を庇ったの!!!
涙が溢れる。
「あなたはっ、この国の王にならなきゃいけないのに!」
「怪我はないか••••••?」
「ないわよ!!すっごい元気!!でも、庇われた方の気持ちになってよ!!」
「まもれて、よかった」
「そんな、やり残したことはない、みたいな顔をしない!いっぱいあるでしょ⁈」
「こ•••かいする、よりは、ずっと••••••いい」
「もう、話さないでいいから!!」
苦しそうに息をする彼の手を握る。
「死なないでっ••••••」
涙が止まらない。私がファレルになってから泣くのは、これが初めてじゃないだろうか。
「かお••••••」
「話さないでって!!」
「みせ、てくれ••••••」
「今っ、色んなものでぐちゃぐちゃだから!!」
咄嗟に顔を彼の手を握ってない方で隠す。
「たの••••••」
「わかったから、話さないで!!」
顔を覆っていた手を彼の綺麗な金髪に乗せる。じっと見つめてくるのが、恥ずかしい。私も彼を見つめれば、見つめ返してくる。どれくらい、経ったんだろうか。
この時で、時間を止めることができたら。
いつまでもこのまま、見つめ合っていたい。
ふと、手を握り変えられた感触にうっとりとしていた思考がハッとなった。
俗にいう、恋人繋ぎになっている。
「あの••••••?」
「な•••まえ••••••••••よん、で」
その願いに躊躇う。自分の決意が揺らぐようで。でも、逆らえるわけもなかった。
「••••••フィリウス様」
フィリウスは笑った。
「ふぁ、れる•••••••••す••••••だ」
「え?な、に?•••フィリウス様?!」
フィリウス様は、目を閉じた。
幸い、と言っていいのか、フィリウス様は生きている。もうあの日から一週間も経っている。それなのに意識が戻らないらしい。
マナティアが走って行った先は、国王陛下の元。そして、マナティアとアベルは自己申告した。二人は今、牢屋の中らしい。そう、ゲイルに聞いた。ついでに、聞こうと思っていたこと「記憶を消す薬ってある?」とゲイルに聞いたら、「作りましょうか?」とあっさり言われた。あれには驚いた。ただ、部分的にじゃなくて、記憶全部がリセットされるらしい。
あと、あったことといえば、隣国が和平条約として、人質を求めてきたことくらいだろうか。
そんな今日、私は国王陛下に呼ばれた。何故か、両陛下と、国王陛下の執務室にいる。
「あ、の、王太子殿下のご容態は••••••?」
「それに関わる重要なことを、ファレル嬢に聞きたくて、呼び出した」
「ファレル嬢は、もしフィリウスが全部忘れていたとしたら、思い出されたいか?」
「それは、どういう?」
私は、「公爵令嬢」としてここにいるのか、「事件の当事者」なのか、「王太子殿下の恋人」なのか。きっと、最後だろうけど。伝える時間も無かっただろうし、両陛下は知らない。私と彼はもう何もないってこと。
全部忘れているなら、私は__________。
「••••••フィリウスは記憶喪失になった」
思い出されるべきではない。
マナティアは、ドMなんですかね。
そこの二人は気が向いたら〜とか、もし時間があったら〜とかみたいな感じで話を入れるかもしれません。
今回もありがとうございましたvo(^_^)o