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社交辞令とかいいから、身代わり契約とか如何です?  作者: 音羽 雪
私と彼の身代わり契約。
14/23

11 祈りも願いも呪いも紙一重に

はい、ごちゃごちゃしてます。

ファレルは自分の気持ちがわからないみたいですが、私も自分の書きたいことが書けているか、とても不安です。

「なんで••••••」


 タクの、死ぬ前の夢なんて見たの?

 どうしようもなく不安になった。


 会いたい。


 そう思ってしまった。今の私は、とても弱い。タクと同じ声の______フィリウス様に会いたい。それだけの思いで外に出る。


 外は、土砂降りの雨だった。


 それでも、隣で寝てたお母様に宛てた書き置きだけで、王城に走る。


『公爵令嬢』でなくちゃいけないと、わかってる。わかってても、取り繕えなかった。早く、『私』はフィリウス様に会いたかった。


 会いたくて、会いたくて、会いたいと。


 フィリウス様、に会いたかった。

 わからないけど、会いたい。

 何故、フィリウス様なんだろう。なんで、ゲイルじゃ、アリアじゃ、お母様じゃダメなんだろう。そんなことはもう何十回、もしかしたら、何百回も自分に聞いた。でも、わかんなかった。答えなんて、出なかった。

 雨のせいで髪も顔も服もぐちゃぐちゃになってるだろう。ぐちゃぐちゃで気持ちがまとまらない。でも、こんな格好で王城に入れるのかな、とか冷静に考えてたりする。


 涙は出ないのに、泣きたい。胸の疼き。

 こんな自分はわからなかった。知らなかった。

 タクと声が似てるから。きっと、そんな一つのことじゃなくて。理屈でもなくて。


 ただ、フィリウス様に会いたい。


 会いたいんだ。


「お前!何者だ!!」


 王城に、着いたの?こんな格好じゃさすがに気づかれないよね。公爵令嬢らしからぬ格好。


「••••••ファレルです」

「どこのものだ!!」


 私、今はファレルでいたい。ただのファレルで。公爵家なんて関係なしに。でも、公爵家でなければこんなにも遠い。私とあなたの本当の距離。手を伸ばすだけじゃ届かない。

 あの時、あなたがあの場所に居なかったら、私は••••••。私は、どんな風に生きていたんだろ。

 手を伸ばしても、届かないなら。

 行動するのみ、だな。あ、だいぶ元の調子だ。

 グッと腰を低くした時、


「ファレル⁈」


 なんか、すごい上から声が••••••。


「王女殿下⁈」


 あ、王女殿下か。ライア様じゃん。王城にいるのがデフォか。ってえ⁈


「ら、ライア、さま⁈」

「その子は私の責任で通していいわ!」





「色々お世話になります。でも、よく、わかりましたね••••••」

「私、目は良い方なのよ」

「いや、この格好ですよ?」

「まあ、そうね。でも、銀の髪って珍しいのではない?」

「ま、それもそうですね」


 現在、ライア様の自室。またもや服を貸してもらって、暖をとらせてもらってるとこ。雨の中走っといてなんだけど、風邪は嫌だなー。


「で、用は何だったの」

「え?」

「え?じゃないわよ。大切なことだからあんな雨の中走ったんでしょう?」


 呆れたようなライア様の声。いや、呆れてますね、完全に。


 大切なこと______。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

「ちょっと、ファレル⁈」


 つい、体操座りしてしまったっ!

 自分の恥ずかしい思考を思い出して悶えてるんですから、ほっといて!何考えてくれちゃってんの!私!夢くらいでわざわざここまで走ってくるとか!ああ!ちょっとさっきの記憶消したい!!ゲイル辺りに聞いたら、いいかな⁈


 なんで、フィリウス様に会いたい、とか思っちゃったの!


 うわあああああああー!会いたいとか脳内で言いまくってた私が恥ずかしすぎる!!


「ファレル⁈」

「ドア開けるならノックして下さいよっ!」

「ファレルの言う通りですわよ、お兄様。礼儀というものです」

「あ、ああ」

「〜なんでっフィリウス様がここに!」


 フィリウス様を見上げる。少しの沈黙があった。


「••••••ライアに聞いたからだ」


 いや、ホッとしましたよ?すっごいしましたよ?会っただけで!でもさ、自分の思考を回想中だったから恥ずかしすぎる!!


「では、私は隣の部屋に」


 ちょ、まっ、ライア様!


「わっ私も!」

「なんでだ」


 逃げようとした私の肩をガシッと掴まれる。


「お前がいなくなったら俺が来た意味がないだろう」

「そうだけどっ」


 本人を前にすると恥ずかしさが増しますねっ!


「俺には、言えないことか?」


 言えないどころか、フィリウス様に会うためだよ。でもそんなの、言えるわけない。それ以上に言わなきゃいけないことができてしまったから。


「ただの身代わりじゃ、踏み込んじゃいけないか」


 でも、それ以上に逆らえるわけが無い。タクに似たその声に。


「本当にちょっと、待って。おねがい」


 本当は、もう決まってる。雨の中で自分の気持ちがどんなものか、わかった気がする。その上で、どうするか、もう決めてしまった。

 でも、いざ言うことになったら、声が震える。涙が溢れそうになる。

 黙ったままだったらいい、とも思ったけど、気づいてしまったから、フィリウス様に対する苦しい気持ちが残るに決まってる。これは、自分のためなんだ。

 いつもいつもいつも、自分のため。ごめんなさい、こんな私に付き合わせて。

 これは、あなたのためになる?

 ______あなたは、わかったといて楽しかったですか?

 言う前に、一つだけ。私に勇気を下さい。


「ねえ、フィリウス様」


 俯いて待っていたあなたは顔を上げる。


「もし、私が人に••••••例えばマナティアに剣を向けていたら、フィリウス様は私を斬る?」


 シナリオとは違う未来になっていてほしい。私は、何か動かせていただろうか。

 少しの沈黙を不安に感じる。


「斬らない」

「何故?」

「必要を感じないから」

「信じてくれてんの?」


 おどけた調子で問うてみる。


「信じている」


 真面目な声で帰ってきた言葉。あなたは私が今どんなに嬉しいか、わかりますか?

 よかった。


「私もだよ。信じてる。••••••大切な人だよ」


 フィリウス様が目を見開く。頬を赤らめて。そして、ハッとしたように聞いてくる。


「何か、あったのか?」

「••••••すごいなー」


 色々あった。自分の気持ちが、少しわかった。

 私は、『タクの身代わり』としてじゃなくて、あなたを、フィリウス様を見てる。

 身代わり契約なんて、建前になってて、いつの間にかあなたの側にいることを楽しんでいた。自分が本当は何を思ってるのか、ぐちゃぐちゃになるこの気持ちはなんなのか、一番分かりたいことは未だ分からないまま。

 だけど、これは真実だから。


 私は、あなたの側にいるために契約を利用してたんだ。


 いつからかはわからないけど、もうずっとだと思う。それがわかってしまったから。こうするんだ。


「••••••もうすぐ、二カ月経つんだね」

「ああ、会ってからか」


 私は、『笑顔』になった。作り物でも、私、今、綺麗に笑えていますか?この笑顔は、あなたに残りますか?

 この笑顔は、祈りであり、願いであり、呪いでもあるのかもしれない。

 私のことを、忘れさせないための。私との一時の、たった二カ月の関係を忘れさせない為の。

 終わりにするのは私なのに、私を見る度に思い出してしまうように。

 そして、この言葉を『笑顔』で必死に吐き出す。表には、微塵もその裏の思いを感じさせないくらい、綺麗な笑顔で。



「身代わり契約、終わりにしましょう」



 突き放すために他人行儀な話し方をする。綺麗でも、なんの感情もこもってない笑顔を作ったまま。

 固まったように動かないフィリウス様に言葉を続ける。


「私から、契約を切るのだから、代わりの条件は無しよ」


 私から契約を切る時が来るとは全く思いもしなかった、あの時の会話通りに。


 そのまま、何も言わずに立ち去ろうと思った。でも、これだけは、と思った。


「さようなら」


 私は、笑えていますか?自分の気持ちを隠せていますか?泣きたい気持ちを隠せていますか?

 ライア様の部屋を出て、ドア閉める。ドアにもたれかかって、ずるずると座り込む。

 そして、本当に祈る。


 ______フィリウス様、あなたが、大切な女性ひとと結ばれますように。


 これで、『フィリウス様』と呼ぶのは最後だ。


「大丈夫でごさいますか?」

「え?」

「熱が、おありではないですか?」


 急に声をかけてきた侍女に問われて、そういえば、と思う。雨の中を走ったんだから、仕方ないか。


「客間に案内致しましょうか?」

「はい、お願いします」


 そう言って、私はライア様の部屋から、王太子殿下がいる部屋から離れた。

今回もありがとうございございました(^^)

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