10-2 二つに一つ
会話文が多いです。
「あの、何故にライア様はマナティアが、その、ビッチだと思ったの?」
「おかしいからよ。真性の変人ね」
「はあ••••••」
私の覚えている中では、マナティアは自己チューで生意気で、陰湿ないじめをしそうな人。変人の片鱗は無いんですけど。
「すちる、とか、こうりゃくたいしょう、とか、フィリウス様まじもえ、とか。独り言で聞こえているとは思っていないようなのですけど、丸聞こえですわ」
え?
それ聞く限りだと転生者ですよね、マナティア残念。『もえ』って、『萌え』ですよねー。他は身に覚えがなさすぎてわからないけども。
時は夕食後。
「ってことがあったんですよ、お父様」
「あー、転生者だね、転生者」
「やっぱそうですよねー」
「思ったより多いものだね」
「みんな親戚だし、世間は狭いものだー」
お父様で大分耐性がついてそこまで驚いても無い。お父様も然り。
「でも、すちる、も、こうりゃくたいしょう、も、聞いたことが無いんだけど、わかります?お父様」
「僕の娘がしてた乙女ゲームのことじゃないかな」
「ちょっと待ってください。娘さん、何歳ですか?」
「十二歳だよ。すごく可愛くてね。僕にもお母さんの方にもべったりだったよ」
「惚気はいいです」
「はいはい。その乙女ゲームの攻略を手伝ってたんだ」
「え、お父様は何歳だったんですか」
「四十」
「いい年のおじさまが何してんだ••••••」
「可愛い娘に上目遣いで『お願い♡』されて断れるわけ無いでしょう⁈」
「自信満々に言うことですかね?それ」
「ファレルでも断れないよ」
「わかりました。いざって時に使います。で、すちる、こうりゃくたいしょう、とは?」
「一枚絵はね、イベントシーンで正しい選択をすると表示される特別な静止画、みたいな感じ。攻略対象は、恋人にできる可能性があるキャラ、だった気がする。
「要するに、マナティアは乙女ゲーム好きな人間だった、と」
「あとさ、少し聞いていいかな?」
「何ですか」
「フィリウス殿下って、どんな方だい?君の知っていることを聞かせて」
「金髪碧眼。眉目秀麗、頭脳明晰、品行方正。王子様キャラがもろでてますよ」
王子様。女子が望む王子様そのもののフィリウス様。
「まさか••••••」
「そういう可能性だって考えられない?ここは乙女ゲームとか、そういう世界だって」
作り物の世界。でも、これが現実なのは確かだ。驚いたけど、何も悲観することはない。
「びっくりですね。でも、何も変わらない気が」
「変わるよ」
「え?」
「マナティアが城に入れたのは何故だと思う?」
お父様の言いたいことがわかってしまった。
いくらマナティアが私の従姉妹で、私に会いたいからって王城に入れる訳がない。だって王城はこの国で一番大切な人達を守る場所。それに私に会いたいならこの公爵家に来ればいいんだから。
「マナティアはきっと、この世界の主人公だよ」
一瞬モヤっとしたけど、何に?動揺は億目にも出さず、話を続ける。
「そうだとしたら、何で私が今フィリウス様の隣にいるんですか」
「さあね。でもマナティアは王城に入ってきた。主人公として生きるつもりだよ。だからこそ君に何をするか、わからない」
「もと、剣道部をなめないでください。やわなことじゃ折れたりしませんよ」
「でも、マナティアが主人公だ。もしこの世界が彼女の手中にあるとしたら、君は最悪、殿下に殺される」
フィリウス様に殺される。つまり、邪魔者は消えろってことか。愛する人と結ばれるために今いる恋人を殺す。
でも、私は恋人じゃない。本物じゃない。本物になれない。私が身を引けば、私が殺されることもないんじゃないか。
「ファレルは恋と自分、どっちか選べる?」
フィリウス様に抱く気持ちは恋じゃない。少しの親愛の情と、感謝。だけど、また私はあの子に奪われるのだろうか。この幸せな時間を。
その後解散し、自室に戻って、風呂に入りながら、風呂に上がってからも考え込む。
私がフィリウス様に殺される。••••••全然、想像できない。
でも、そうなったら私はフィリウス様に剣を向けることができるのかな。私は、私を殺そうとするフィリウス様を見て、生きるために殺すことができるのだろうか。
コンコン
考え込んでいると、ノックがあった。
「ファレルー居るー?」
「お母様!」
ドアを開けるとお母様。しかも、寝間着に枕を持った夜の完全装備。
「あの••••••?」
「今日は一緒に寝ましょう?親子水入らずで!!」
はい、断れない強制参加のやつですね。まあ、断りませんけど。あのベッド大きいんで、二人くらい楽勝でしょうね。••••••お母様、ベッドに直行しなくても断りませんって。
さっさと潜り込むお母様の隣に潜り込んだ。
「ねえ、ファレル」
「何ですか、お母様?」
「フィリウス様のこと、本当に好きなのね」
何て話始めるんだ!!身代わりだとは言えないっ!
「ま、あ、•••だからこその恋人、ですから」
「でも、好きだから恋人っていうことが全てでは無いでしょう?」
それは、わかっている。私自身がそうだから。
最近、忘れそうになる。フィリウス様といるのは、楽しいから。タクと声が似てるから、身代わりにしたはずなのに、そんなことはどうでもよくなってきている。
それに、苦しい。寂しいというか。
『その時、フィリウス様の隣に立つのは誰なんだろう』
『え?私達、契約で恋人してるんだよ?フィリウス様の好きな人と結婚しなきゃ。私はそれまでの約束でここにいるんだよ?』
自分で言ったことが自分に刺さった。この時間がずっと進むわけではないとわかっていたのに。
「本当に、好きなのね」
「••••••好きって、どんな気持ちですか?」
ゲイルを好きかもしれない、と思ったこともあった。タクに対する気持ちと同じ。
でも、フィリウス様に対する気持ちは、初めてだ。楽しいのに、苦しい。胸がギュッとなる。モヤっとする。嬉しいのに、泣きたくなる。
「それは、自分で考えなきゃ」
お母様は微笑んでいる。お母様は、全てを知っているのかもしれないとも思う。
言えない自分が辛い。私は、いつも言えない。言えない辛さを知っているのに、また繰り返している。
「••••••いつか、今度は私がお母様の部屋に行ってもいい?」
その時には、言いたい。真実を。
お母様は、笑顔で頷いてくれた。
「愛、俺のこと好き?」
「なっ何?突然」
「お願い、答えて」
タクの真剣な顔を見て断るなんて、私にはできなかった。これが夢だとわかっていても。
「好きだよ」
まだ、タクは私をじっと見ている。満足じゃないんだ。もっと言わなくちゃいけないのか。恥ずかしすぎる。
「一緒にいて、楽しい。側にいると安心する」
「••••••苦しくなったり、する?」
「するわけ無いじゃん。心配しないで。タクの隣で苦しくなったことなんて、無い」
「••••••そっか」
タクは、泣き出しそうな顔で笑った。
タクの誕生日の記憶。
私は、今もタクが何で泣きそうに笑ったのか、わからないまま。何も、進めてない。
いつの間にか私は、駅のホームに立っていた。
私は、これから電車が来ると確信していた。
その証拠に電車のガタンガタンという音が聞こえてくる。血が騒ぐ。嫌な予感がする。何か、起こるのだろうか。誰かが、死ぬ?タクが••••••?
ああ、こう考えた自分を私は知ってる。
死ぬのは、私だということも知っている。
前に押し出されて、落ちる浮遊感も。
頭を何かにぶつけて、私の目の前は真っ暗になった。
タクに謝りたかった。ごめんねって。夢の中でも、伝えることができない。悔しくて、必死に目を開ける。
「だ、れ?」
ぼんやりとした私の視界。駅のホームで私を見下ろしている人。今まで余裕がなくて気付けなかったの?
あなたは、誰?
電車が通り過ぎた。
今回もありがとうございました(^_^)
タイトルを変えました。音羽の都合です。今後の構想を練ってたら…。
これからも、よろしくお願いします。