9 公爵令嬢の休日(?)
「暇すぎ〜!!!!!」
今日はフィリウス様が気を使って、王城には行ってないので公爵家の自室にいる。
気を遣わなくていーのに。もう全然元気なんだけど。むしろ元気が有り余りすぎてる。なんで私、自室にいるんだよ。他に行くとこ無さすぎる!暇人だな。
そういえば私、移動する以外で外に出た事無いよね••••••。よっし!!思い立ったが吉日と言いますし!
「ゲイルーーー!」
呼びながら部屋にぶら下がってる紐を引っ張ると、しばらくしてゲイルがやってきた。
「何でしょう、ファレル様」
「外行くよ!」
「はい⁈」
「外!公爵領内の市場とか街に行くの!」
「旦那様と奥様に聞いてからにしましょう、ね?」
今すぐにでも邸を飛びだして行きそうな私をゲイルが宥めた。
「ここが、公爵領の市場です。••••••ファレル様!」
「すっご!こんな風になってるんだ〜」
「ファレル様!」
「な、何?あと、様付けだとバレるかもだから止めよーよ」
「呼び捨てしろって事ですか⁉︎」
首を縦に振って肯定の意を示す。
「あ、でも、ファレルだとバレるかもだし、フロー、で。これ、命令ね、命令〜」
「そんなことに命令を使う貴族を始めて目の当たりにしました••••••」
「そうでもしないと言わないでしょ」
「••••••わかりましたよ。でも、勝手にどこかに行くのは止めてください」
「ん、じゃ」
手を差し出す。
「何ですか?」
「手、繋げばはぐれないよ」
何でフィリウス様もゲイルもわかんないんだ。ってかゲイルさん?顔、少し赤い。
「熱でもある?」
「いっいや、そんなことはっ」
「そー?私、無理させてない?」
「だ、大丈夫ですっ。••••••じゃ、手、失礼します」
何それ、と思ったけど、面白かったので指摘しないでおこう。
「本当にはぐれたら旦那様と奥様に面目が立たないんですよ?」
お父様とお母様は結構早々と了承してくれた。ゲイルを連れて行く事を条件に。私はゲイルが嫌いでもないためあっさりその条件を呑んだ。で、アリアに市場でもあまり目立たないであろうワンピースを選んで貰って出発までに至った。しかも帽子を目深に被っている。
その筈だ。その筈なんだけど、やっぱり銀の髪は目立つ。そしてゲイルの顔立ちも目立つ。結局目立ってる。服は違和感無いんだけどな。ゲイルの横顔を盗み見る。
「何ですか?」
「いやー、やっぱり整った顔立ちしてるな、と思って」
「そんなこと考えてたんですか••••••」
そんなことこととは何さ。結構大事だよー見た目。会って最初から中身がわかることって無いし。まあ、外面だけ見て人を選ぶ奴は最低だと思うが。
「そこの銀の髪のお嬢さん!」
声がした方へ向く。銀の髪とか私ぐらいのもんだし。
「キノコ!新鮮なキノコ!いりませんか?」
「いります」
「ちょ、ふぁファレ••••••フロー⁈」
手を繋ぎっぱなしのゲイルを引きずりつつ、声をかけてきたおじさんの店に向かう。
「またえらい綺麗なお嬢さんだな。そっちの男もまたえらい男前だし。お二人さん、恋人なのか?」
「「え?」」
「ほら、手、繋いでるし」
そこか。私が綺麗かはともかく、ゲイルがイケメンであることには同意しますよ。まあ、前世の私の顔より華やかではあるだろうけど。まあ、恋人ってことにした方が楽かな。兄妹っていうには似てなさすぎる。
「ばれてしまいましたか」
「フロー⁈」
「やっぱりそうか!いや〜綺麗な恋人だな、にいちゃん!」
「にいちゃん⁈恋人⁈••••••はい、綺麗です」
「ゲイル、お世辞は止めよう」
「お、お世辞じゃないです•••よ」
「そういえば、キノコは?••••••えっと」
「アルムだよ。お嬢さんは、フローちゃんというんだね?」
「はい」
始めてちゃん付けで呼ばれたんだけど。
「キノコ、好きなのか?」
「大好きです。アルムさんは?」
「そりゃもう大好きさ。そうじゃなきゃ、きのこ屋なんてやってないよ」
「ぜひぜひ我がキノコ愛好会へ」
「そんな会があるのか!」
「私が設立しました。アルムさんが入って下されば五人目です」
「もちろん入らせていただくよ!」
「素晴らしいですよねキノコって」
「わかるかい⁈このフォルムの愛らしさが!」
「わかります!ゲイルもわかる⁈」
「え、あ、はい••••••素晴らしい曲線ですよね」
「ゲイルくんもキノコ愛好会のメンバーかい⁈」
「ええ」
「我々は同志だー!」
「よ、よろしくお願いします」
「よし!フローちゃん、うちはキノコは籠で売ってるんだ。何籠買うかい?」
「とりあえず、持ち切れるか謎なので今日のところは二籠で我慢します」
「おまけしたげるよ!」
「ありがとうございます。いくらですか?」
お父様とお母様に貰った軍資金で買う。今日はキノコ料理だ!ひゃっほー!!
「アルムさん!また会いましょうねー!!」
「もちろんだよ!!」
キノコ愛好会の会員が増えて嬉しいですね。
「そこの銀の髪のお嬢さん!」
アルムさんの声ではないし、別の人?銀の髪が目立つからって、私ばっかり呼ばれる•••。ゲイルを呼んだっていいじゃないか!まあ、無視はしないけどさ••••••。
「何ですか?」
「ちょいと寄って行きなよ」
「どうする?」
「折角だから行ってみましょうか」
「食わず嫌いは損だもんね」
「それは•••何かが違うと思います。似てはいますが」
飾り物屋さん?始めて来た。前世も今世も含めて。なんかちょっと、感動。
「きれい••••••」
「そうだろう?お嬢さんに似合うよ」
「何か買いましょうか。プレゼントにします」
「ええ⁉︎いや、いいよ。自分の欲しいもの買えばいいって」
「嫌です。プレゼントするって決めましたから」
「いいってば!」
「買わせてください••••••『恋人』なんですから」
「〜〜卑怯者っ!!」
それ使うとかずるいでしょ!••••••断れるわけないじゃない。
「愛されてるねぇ、お嬢さん」
「ふ⁉︎」
「恋人、かっこいいね」
おばさん、いたんだった。なんか、恥ずかしいんだけど。
「これ、お嬢さんに一番似合うんじゃないかな。いいもの見せてもらったし、安くさせてもらうよ」
「じゃあ、それ買います」
先に品物を手渡された。銀を基調とした星飾りに紫のビーズをあしらったブレスレット。そっと腕に通す。_______私の髪と、目の色だ。きれい••••••。
「••••••ありがとう、ゲイル」
「いえ」
「一生大切にする」
「そんな大げさな」
「冗談じゃないよ。ほんとに嬉しい。だから大切にするの」
「でも、しまい込んでないでつけて下さいね」
「わかってる」
「••••••似合ってますよ」
「あ、りがとう」
「とても、綺麗です」
熱のこもった目に見つめられて、目を逸らせなかった。『お世辞は止めてよ』って言えなかった。そのまま、しばらく見つめ合う。道行く人の存在も忘れて。熱に浮かされるような感じがする。照れを誤魔化すように少し、笑う。ファレルは、自分がはにかんだことに気付いてなかった。
ゲイルが目を少し見開いた。そして頰に手が当てられた。手が、熱い。そして、近づいてくるゲイルの顔に硬直する。何をされるかは予想できたけど、初めて、だった。タクともしたことがない。••••••ファーストキス。
どうしていいかわからないし、受け入れていいのかもわからなかった。自分の気持ちも整理出来ないほど混乱していた。
強い風が吹いたと思ったら、ふと、頭が軽くなった。ゲイルが顔を離した途端、金縛りが解けたように動けた。軽くなった頭に手をやる。
帽子が、無い、だと••••••?飛ばされたのかー!!
「お嬢さーん!帽子飛んだ••••••よ」
周りのお店の人や、道行く人がザワザワする。しまった、ばれたな。
「ファレル様!」
「どうしようゲイル!ばれちゃったんだけど!!!!!」
周りがザワザワどころじゃなくなった。一転して、シーンと静かになる。どうやら、野次馬が気になってやってきたのだろうアルムさんに問われる。
「フレムダレム公爵家のファレル様ですか••••••?」
あれ?何故今?帽子とれた時にばれたと思ったんだけど。顔知られてるのかと思ったんだけど。まさか、違った?
「はい、そうです、わ••••••。ところで••••••いつ気づいたの、ですか?」
今更だろうが令嬢モードを入れる。
「さっき、ゲイルさんが『ファレル様!』と言った時です」
私たちの早とちりだった。失敗したな。どうしよ。私の本性、思いっきりばれちゃった。
話さなきゃいけないかなあ。特にアルムさん。キノコ愛好会に入ってくれたしなあ。
「••••••えっと、私の本性、話さないで頂けますか?」
「全然いいよ」
「話さないよ。公爵家のお嬢さん直々の頼みだし」
「うんうん、うちの店のもの買ってくれたしね」
「それに、気取っているよりずっといいよ」
まあ、前世は一般••••••かは微妙だけど、普通の暮らしだったからね。あの話し方は結構大変。ゲイルにもソッコーでばれたしね。
「ありがとうございます」
「これからもこの街においでよ」
ヤバイ。この街の方々のいい人度がハンパない。なにこの受け入れてくれる方々。来ますとも!ぜひぜひ来させてください。
「あ、と、ゲイルは従者です。恋人の振りをしてもらいました」
これはかなり大事だ。ゲイルの恋愛事情のためにも。かっこいいし、さぞやモテることだろう。この街の方々、いい人だし。いい子が見つかるかもしれない。結婚式には絶対呼んでもらう。呼ばれなくても押しかけよう。
帰り道(もちろん徒歩)、ニヤニヤしながら私より背の高いゲイルの顔を見上げる。
「何ですか?」
「ゲイルの奥さんが早くできることを祈ってるよ。モテるよ、絶対!性格までいいし!頑張って好きな人を作って!ここの人、いい人だし、運命の出会い♡とかあるかもよ?結婚式には呼んでね!」
一気に言いたい事をまくしたてる。楽しみが増えた。口元を抑えて、ニマニマするのを少し隠す。
「遠慮しときます」
「え⁈何で?ほら、スタイルいい子もいるよ?あの子、胸大きいよ⁈」
「どこ見て判断してるんですか••••••」
「••••••だって、私小さいから••••••どうしても目が行くの!!!!!!」
「•••普通より大きいのでは?」
「どこ見てんの⁈変態っ!!!!」
「身長差的に下みたら見えちゃったんです!貴女がそんなこと言うからつい目がいっちゃって!!!」
「今回は許す!!」
ゲイルも顔が真っ赤だし、悪気があったわけじゃないだろう。悪気があったなら叩きのめしたけど。•••私、胸普通より大きいのかあ。なんか、恥ずかしい、けど、嫌なわけじゃない。貧乳よりはいい。
でも、ゲイル、結婚しないってこと?残念、結婚式いきたかったのに。でも、寿退職(?)されないと思うと嬉しい。
「••••••俺、好きな人いますからね?」
「え?」
好きな人いるって言った⁈『好き』って、LIKEじゃなくて、LOVEだよね?
「だ、誰っ⁈」
「••••••言うわけないじゃないですか」
「え〜〜、ケチ。じゃあ、ヒント!」
ジッと見つめる。
「••••••少し変わった人ですけど、凄い魅力的な人ですよ」
抽象的すぎる、と思ったけど言わなかった。顔をさっきより赤くして話してるゲイルに言えなかった。そんなに大好きなのか。
「うん!!よくわからないけど、むっちゃ応援してる!!!!」
「••••••でも、伝わってる気がしなしないんですよね」
「何で?」
「考えれば分かるはずなのに、彼女、すごく鈍感なんですよ••••••。そこも可愛いんですけど」
「すっごく大好きだね、その子のこと」
「はい。一目惚れ、だったと思います」
「そーなの⁈一目惚れって現実であるんだ!」
「•••やっぱり、伝わってないと思うんです」
「さっきみたいに早とちりかもよ?」
「絶対にわかってませんね」
「えーー」
「結構色々やっちゃってる気がするのに」
「い、色々って、何⁈」
「気にしないでください」
「••••••こないだフィリウス様にも言ったけど、そう言われると気になるんだよ」
「••••••フィリウス様って呼んでるんですね」
「一応恋人だし、って、あ!」
「何ですか?」
折角の機会だし、言っておこっかな。微妙に違うこと言うけど。
「フィリウス様には恋人の振りをしてもらってるんだ」
「はいいいぃ⁈」
「私の我儘でね。ちょっと言えない色々があってさ」
「王族に何頼んでるんですか⁈」
「色々、あって」
ゲイルにも言えない。私の過去。前世の記憶があることも。きっと、全部を言うことはない。誰にも。
「••••••でも、よかった」
「何が?」
「内緒です!」
ゲイルの思い人が想いに気づくのはまだ遠そうだし、ファレルはずっと秘密を抱えたままだ。
だけど、幸せを示すように日に照らされたファレルの腕飾りがキラキラ光る。
今日もありがとうございました(^∇^)