8 危機措置だから、言わなかった。
微妙に三人称入ります。
フィリウスくん視点。
「王太子殿下!」
「なんだ?」
「何故、ファレル様がこちらに居られるのですかっ⁈」
正直、話しかけて欲しくなかった。それにこの娘、従姉妹が倒れたというのに自分のことか?自己中心的だな!••••••だから俺は、貴族に好感が持てないんだよ。
「恋人だからだ」
「っ⁈何でっ?そんな、ファレル様より私を恋人になさった方が絶対いいですのに」
「何故そう思う」
「だって、弱みとかを握られていやいや付き合っていらっしゃるのでしょう?」
「勝手に決めるな」
確かに、最初は秘密からだった。でも、貴族でも公爵令嬢でも嫌いじゃない。嫌いじゃないんだ。
「従姉妹が倒れているんだ、心配くらいしたらどうだ」
「っ」
「もう帰ってくれ」
「わかり、ました」
••••••ファレル、は。
「っファレル!」
過呼吸か?過呼吸は、袋とか必要、だったよ
な。周りには無いし••••••。
「誰か!ファレルが倒れた!!」
ゆっくり息をさせる?口を塞ぐ?口を••••••塞ぐ?アレの内容を思い出す。
『〇〇に口を塞がれる。柔らかい感触にハッとする。〇〇の唇?途端に顔に熱がのぼっていくのを感じた』
思い出した自分の頬にも熱がこもるのを感じた。口を、塞ぐ。キス••••••。い、いや人口呼吸だ人口呼吸。ファレルを助けるためだ。
「悪い••••••」
顔を近づける。いつもより近づくことで瞼を縁取る睫毛の長さとか、白い肌のキメの細かさとかがわかる。そんな場合じゃないのにドキドキする。手で少し顎を持ち上げて、唇を合わせた。少しずつ息を吹き込むと彼女の息が落ち着いていくのを感じた。すぐ顔を離す。
緊急時だったのに、唇の柔らかさとか温かさを覚えている自分が嫌だった。自分のことしか考えてない貴族に好感が持てないと思うくせに、自分だってそうだ。
「王太子殿下」
「アリシア••••••どこから見ていた?」
「キスをなさっているところからです」
「絶対言うなよ」
「何故です?人口呼吸でしょう?」
「それでも唇を奪った事には変わりないんだ。っ初めてかもしれないだろう」
「その反応を見る限り、殿下も初めてのようですね」
アリシアは色々全部知っているので言い方にオブラートとかを感じない。
「••••••回数に入るものか?」
「人によります。落ち着いていらっしゃいますし、どこに運びますか?」
「私の寝室に••••••休ませるだけだからな?」
「わかっております。服は、」
「私のは流石に••••••妹に借りてくれないか?」
「承知いたしました••••••殿下はどうなさいますか?」
「ファレルを運んで、一回外に出ている」
あんなことをして、しばらくは正気で会える気がしなかった。
風に当たって、頭を冷やして部屋に入った。
「アリシア、ファレルは••••••大丈夫そうだな」
「では私は下がらせていただきます」
「ああ、助かった」
ファレルと二人きりになる。先程のことを思い出すが、顔に出ないよう顔の筋肉を総動員する。
「色々とありがとうございます。フィリウス様」
「いつになく殊勝だな。それに••••••ありがとう、か」
久しぶりに聞いた言葉とそれを言ってきた相手に少し同様する。
「?どうかした?お礼言っただけで」
「いつも、すみませんすみません言われてるからな。何故謝られるのかたまに疑問だ」
「王族だからじゃない?」
「•••••それだけで、人の態度はこうまでも変わってしまうんだな」
『王族だから』。
王族だから、立派でないとならない。
王族だから、本音で下の者と話すのは恥ずべき事だ。
王族だから、媚びへつらわれる。
王族だから、表面は取り繕って接する。
王族だから、気に入られよう。
王族ということに縛られる。王族だったら、本音で話してはいけないのか?王族であることが嫌になったことが何度もあった。自分の未来を決められて、自分が本当にこの国のことが好きなのかもわからない。そんな王になってはいけないのに。
「でも、王族ではなく、フィリウス様を見てくれてる人もいるよ」
彼女は簡単にそんなことを口にした。そんなこと、分かるはずもないのに。
「わからないじゃないか!!!」
俺の中で何かが爆ぜた。分かるはずのないことを願望だけでものを語った彼女に。
彼女の表情が強張るのを見てとった。
「俺の気持ちだってわからないだろ⁈」
「わかっちゃうんだよ」
彼女は泣きそうな表情になる。でも、泣くことはないと確信できる。この少女は自分の内に苦しさを残す。
「今は私には、ゲイルがいてアリアもいて、家の人は『私』をみてくれる」
「いつ、誰に見られているかわからないこの状況で『自分』を見せられるわけがない」
彼女の言葉にすぐ返した自分の言葉に、先程よりも芯が無いのがわかる。彼女の『今は』という言葉が引っかかる。
「私には見せているよ?」
「それは、お前も素だから••••••」
「『王族』は王族だもんね。私とはまた違うんだろうけど、私は、苦しかった。苦しくて苦しくて、死んだら解放されると」
何で苦しかったんだろう。何で、死ぬことに希望を抱いたのだろう。この少女に何があった。
「死のうとしたことがあるのか?」
「いや?気にしないで。要するに、私に見せてくれればいいんだよ」
「いや、もう見せてる」
「もっと本音で語れってことだよ。さっきみたいにさ。私、人の感情の機敏読むの、できないことないけど、少し大変なんだよね」
「••••••じゃあ、お前ももっと表情にだしたらどうだ」
「私の苦手分野なのかな?それ」
ファレルの表情は外面なところがあるのか、素の表情に見えないことがある。貼り付けたような表情。思い当たることがあるのか、彼女は苦笑する。
「ま、頑張りますけど。はい」
唐突に手を差し出される。その意図が汲めずに困惑する。
「••••••手をどうしろと?」
「握手だよ、握手!」
「なんで」
「あーもう!まどろっこしい!!さっしてよ!!!身代わり契約の間、お互いよりよく生きる為に頑張ろ?」
「ああ」
彼女の手を握る。自分のものとは違う、柔らかくて、小さい手。ふと、彼女は思い出したように言った。
「••••••あ」
「どうかしたか?」
「ごめん、私、秘密はある」
「そうか」
「おう!意外とあっさり!!よかったー」
「俺に声が似ている男に関わることか」
「うん、まあそう、かな?」
「他にもあるのか?」
「私の今の形成に関わることとか?」
「••••••そうか」
今少し、モヤっとした………気のせいか。俺にもファレルに秘密にしてること、あるしな…………人工呼吸とか人工呼吸とか人工呼吸とか。
「そういえば、身代わり契約の期間は?」
ファレルは少し考え込む。いい案を思いついたようで、顔を上げた。
「どっちかが切り出すまで。そっちが切り出した場合は秘密を守ることに対しての妥協案出すから」
「いや、それはきっとないな」
「ぶあっくしゅっ!」
「⁈⁈」
「あ、気にしない気にしない。くしゃみでちゃって。で、なんか言った?」
「••••••気にするな」
きっと俺からはこの契約を切ることはない。そう思ったことが口に出ただけだ。
彼女には、感謝ばかりしているから。自分の方に一歩踏み込んでくれた。本当の俺を知ったとしても態度を変えることも無かった。嫌な俺を出して仕舞っても、さっきみたいに自分が傷付いても俺を励ます。俺の前で心を開いて素で接してくれる。表情をころころ変わらせる。
俺も、返したい。彼女に貰ったものを。だから、側にいる。
この時、フィリウスはまだ自分の感情に気付かなかった。気付いていたら、まだ契約を切ることができたのかもしれなかった。______それが大きくなってからでは不可能だった。
☆
とある部屋で。金髪に菫色の目の少女と黒髪黒目の男の会話。
「何で、あの女がフィリウス様の隣にいるのよっ!!悪役令嬢のはずでしょっ⁈」
「ファレル様、ですか」
「あの女に様なんてつけなくていいのよ!」
「ですが、私の身分が身分ですので。縛りがあります」
「仕方ないわね…。そうよね、殿下にも縛りがあるのよね。私がその縛りを解いて殿下を解放してあげなくっちゃ!!」
月が雲に覆われて、月明かりで明るかった部屋は真っ暗になった。
少し短めでしたが、今回もありがとうございましたε-(´∀`; )
投稿後に高機能執筆フォームを使ってないことに気づきました。読みにくかったら、すみません。