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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

被害者

作者: 茅羽はとり

名も知らない男の肩越しに見える月はどこかキレイで、女の尊厳を奪われているのに月がキレイとか思えてる自分はどこまでも滑稽で自分らしいとさえ思う。

下腹部に感じる圧迫感、打ち付けられる腰への振動。

泣き叫ぶことすらできず、声も出さず、自分のことなのにまるで他人事のようにも感じるこの行為。

前にも声も出すことなく、この感覚に耐えたことを思い出す。

好きな人としてもどこの誰ともわからないレイプ犯としても一緒とか、悲しい女だ。

これってある種の合意なんだろうか・・・

抵抗らしい抵抗もみせず、かといって声も出さずに何も感じない。

これはあとで警察沙汰になって裁判とかになると不利なのかな・・・


ああ、でもこれでやっと私は被害者になれる。

これでかわいそうな子になれる。

もし彼と別れても、言い訳ができた。


そんなことを思う私は、本当にイカれてる・・・









好きな人がいる。

片思いではなくお付き合いをしている人がいる。

この人となら一緒にいられる、幸せになれる、勝手にそう思っていた。

彼にも少なからずそういう気持ちがあるとおもっていた。

いや、ないわけじゃない、ただ彼は何よりも自分を大切にする人だった。

自分のやりたいことをする、自分のペースを貫く。

そこで私がどう悩もうと、彼には関係ない。

結婚を口にして、だいたいの予定を決めていたけど、彼の気持ち次第でいつでもなくなってしまうとわかったとき、それでももう自分には彼しかいないと思っていたから、彼の気持ちが離れないことを望んだ。

ああ、なんで彼の気持ちを確認なんてしてしまったのだろう・・・

不安で辛くて、ただ再確認したかっただけだった、でもそれが余計なことだった。

不安で辛い気持ちを抑え込んでおけば、なんだかんだで結婚できたのに。

私が余計なことを聞いたばかりに、頓挫してしまった。

親にも周りにも結婚の話をしてしまった私は、なんて愚かだったのだろう、滑稽なんだろう。

これで結婚しなかったら私は笑いものだ。

いや、笑いものじゃなくても憐みの目で見られてしまうのだろう。

それを辛いと思ってしまうちっぽけなプライド、ああ、本当にバカ女だ。


そうなってから毎日毎日毎日毎日、バカのように思った。


誰か私を殺してくれ、壊してくれ、被害者にしてくれ


彼との関係がダメになったことを、向こうの勝手な理由ではなく、順調だったけど仕方のない理由でダメになったんだと周りに思って欲しい。

いったい誰のためなのか・・・

彼を悪者にしたくないのか、そんな自己中男をいまだに好きで断ち切れないバカな自分のためなのか・・・

ただとりあえず、私が大きなダメージを受けさえすれば、この結婚がなくなっても仕方がない。


荒い息を出すこの男に感謝をしてしまってる私は最大級の大馬鹿ものだろう。


この行為が終わったら、まず初めになにをするべきなんだろう?

この人は、この行為が終わった後、私をどうするんだろう?

殺すのだろうか?

まあ、それはそれでいいのかもしれない。

死んだら彼は少しくらいは悲しんで後悔してくれるだろうか。

それとも死んでしまったなら仕方ないと割り切るのだろうか・・・

できれば前者がいいけど、こればっかりはわからない。


まあ、無事に解放されたらまずは家に帰ろう。

そこで親に泣きながらこのことを話して婦人科に行って、警察に行こう。

顔はわかんないから、背格好くらいしか言えないな、年齢もわかんない。

それでもいい、ようは私は被害者なんだってことさえわかればいい。


そして彼に言おう


「私、暴漢にあった、レイプされちゃった・・・」


そこで彼が別れを切り出したら、彼はそこまでの男だったと周りも納得する。

もし別れなくても、結婚が延期になったらそれでも理由はつく。

結婚がそこで決まったらそれはそれで幸せだ。


ああ、私はおかしい、くるってる。

耳元で聞こえる荒い息をBGMに身体に感じる不快感に、揺れる肩越しに見えるキレイな月を前に、心はこんなに穏やかなのだから。

自然と口端があがってしまうわたしは、きっと被害者なんかじゃないんだろう・・・





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