自然を愛する故に
もう我慢ならない。これ以上人間共の好きにさせるものか。沢山の生き物が殺された。多くの自然が破壊された。それにより土地は枯れ、大気は汚れ、水が澱んだ。それにより更に多くの命が奪われた。これだけの事をされたのだ。もう待つことはしない。他が動かないなら私が動くだけだ。
「何処から壊そうかな?何から壊そうかな?どうやったら人間は後悔するかな?沢山殺せばいいかな?人間を殺しても失ったものは帰ってこない。でも、これ以上の破壊を防ぐ事ができる。私の愛した自然を壊した罪は重いよ?だから人間を掃除してしまおうかな?まあ、最初から拒否権なんて用意してないけど」
それは酷く愉しそうに嗤っていた。
「ふふふふふ、考えるのは愉しいな♪思いつくのは全部試しちゃおっと♪そうすればきっと・・・・・ふふ」
それは人間に近い貌になると狂笑を浮かべながら街に向かって歩みを進めた。自らの目的を果たす為に・・・・・。
流石に通りの真ん中に立っているのは不自然なので脇に避け壁に寄りかかる。
暫くそうしていると三人程の人間が細い路地に入っていくのが見えた。
「ちょうどいいな、まずはあれを消してしまおうかな」
人混みを縫う様にして通り抜け先程人が消えた路地に滑り込む。そこでは一人の人間を何処から来たのか六人程で囲んでいた。
「なにしてるのかなぁ?」
取り敢えず声を掛けてみる。自分がどういう状態なのか確認する意味もあった。
「あ?なんだテメェ」
「お前みたいな小娘にようはねぇぞ」
どうやら自分の容姿は少女に近いらしい。それが確認出来ただけでもよしとしよう。もうこの個体には用はない。消してしまおう。
「何笑ってんだ!」
どうやら自分でも気付かぬうちに笑っていたようだ。それも仕方の無い事だ。何せ今から殺されるというのにこの個体はそれを理解出来てなかったからだ。屠殺される寸前の家畜ですら自分が殺される事を理解しているというのに。人間の危機管理能力の無さに思わず笑ってしまった。
それと同時にこんな生物に虐げられているのか、という怒りが沸き上がってきた。加減する必要も無いので、怨念を込めた拳で魂ごと目の前の生物を粉砕する。ビシャァァ、と辺りに血が飛び散る。
状況が読めないのかこちらを指さし、口をパクパクさせている。まあ、相手が理解するのを待つつもりも無いので手前の個体の心臓を素手で抉りとる。
漸く理解が追いついたのか逃げ出そうとするが、そんな事を許す訳が無い。土地の怨念を使い地殻変動を起こし盛り上げた地面で叩き潰す。変動した地面に逃げ場を絶たれ立ち尽くしている男の腹を手刀で裂き腸を引きずり出す。生物の居なくなった路地でそれは身体の感触を確かめる。動かした事により動きは良くなっている。それを確認し、空を見上げる。返り血が目に入ったのか空に浮かぶ月は紅く輝いていた。長い夜の幕開けだ。それは長い黒い髪を返り血で赤く染め、満面の笑みで笑った。
「まだ・・・・・始まったばかり・・・・・」
それは路地を抜け大通りに戻る。血に染まったそれの姿に人々は驚き、それを凝視した。驚く人々を余所にそれは歩き出し、声を掛けるような気楽さで一人の頭を弾き飛ばした。道路に紅い花が咲く。それを見て逃げ惑う人々をそれは一人一人を確実に屠っていく。
「まだ、こんなものじゃない!お前達の罪はまだこんなものじゃない!」
それが腕を振るう度に一人の人間が形を失っていく。パニックがパニックを呼び、そこは阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。
街に居た約半数の人間が一晩のうちに物言わぬ肉塊と化した。この惨殺劇は猟奇殺人事件として警察による捜査が始まった。しかし、捜査が進展する事は無かった。何故なら、使われた凶器は不明、犯人の目撃情報も無く、監視カメラはノイズが走っていて使い物にならなかったからだ。
一連の事件を起こしたそれはその様子を見て苛立っていた。
「どうしてそんな風に考える!?何故周りに目を向けない!」
人を大量に殺すだけでは意味が無い事に気付かない。故にそれは考える。何故自分のメッセージが伝わらないのか。そして思いついた。思いついてしまった。
「人類を直接殺しても奴らは自分達の行いを振り返ろうとしない?自分達の行いが自分達を殺しに来ている事に気付きもしない?なら?生活環境を破壊すればいいのか?私の目的と外れてしまうが他に方法が思いつかない。気は進まないが土地を殺すとするか」
街を抜け、地脈を辿りながら中枢を探す。そうしてたどり着いたのは街から少し離れた山だった。そこは自分ではない他の神が管理している場所だった。他の神の土地に侵入した為、そこを管理している神が飛んできた。
「ここで何をしている。神は土地を離れられないはずだぞ」
「人間共が私の祠を破壊をしたからそこに私を縛るものが無くなったからだよ」
「だからといって与えられた土地を離れるのは違反だぞ。土地が死んだらどうするつもりだ」
「既に私の土地は死んでるよ。人間共の手によってな」
「なら尚更そこに留まり土地の蘇生をしなければならないだろう」
「もう殺される為に蘇生するのは後免なんでね」
「ふざけているのか?」
「大真面目だよ。私はもう人間の為に動く事はしない。お前は不思議に思わなかったのか?何故人間の様な種族の為に私達の様な神が苦労しする意味は?奴等は際限なく自然を破壊し、自分達の都合の良いように他の生物を殺している。そんな奴等を残しておく意味は果たしてあるのか?私は人間に自分達の無力さを思い知らせる為に腐らせ、その土地を放棄しここにいる。そしてこの土地も同じ様に腐らせるつもりだ」
「そんな事を許す訳が無いだろう」
「許されなくともやるさ。無理矢理にでも押し進めてやる」
「何を言って・・・・・あ!?」
抜き手で相手の体に穴を開け、核を抜き取る。
「ぐ・・・・・それは・・・・・」
「貰ってくよ。これが無いと土地を弄れないからね」
「か・・・・・えせ・・・・・」
「早くくたばりなよ。私の邪魔はさせないから」
地面に伏せこちらに手を伸ばす土地神の頭を踏み潰す。その瞬間土地神は粒子となって消えた。肉体に掛かった過負荷により現世に顕現出来なくなったのだろう。早速核をつかい地脈の供給を切る。これでこの土地は堕ちた。早く次に行かないと・・・・・・。
次はこの湖を・・・・・。地脈を切断し、水に瘴気を流し込み腐らせる。これでこの地方の水源は絶った。枯らしてもよかったのだがそれでは湖の生物にも被害が出るので止めた。
次の街は皆殺しにしてしまおう。特に意味は無いけれど。何となく早く済みそうだし。
街に入ると先ず地脈を全開にし、力を吸い上げる。また神を殺すのは面倒なので直接地脈を枯らす事にする。これなら邪魔はしてこないだろうと思っていたのだが。
「人の領地の地脈を勝手に吸い上げるとは何のつもりだい?」
そう言って現れた土地神にリンクを切られ、街の隅まで飛ばされていた。
「どうして邪魔をするの?」
「邪魔をするもなにも私の土地で好き勝手されるのは困るんだけど」
「私の目的を果たす為に必要な事だからやってるの邪魔をしないで」
「人の土地を荒らすのが必要な目的なんて碌な目的じゃないだろうから潰させてもらうよ」
「どうして皆邪魔をするの?私はただ私の大好きな土地を守りたいだけなのに。それを邪魔する人間を排除する為に動いているのに邪魔をするの?」
「だからそういうのは自分の領地だけにして・・・・・」
「わかったわ。邪魔をするのは皆壊してしまえばいいんだわ。そうすれば私の大切なものを守れる。そうよ!初めからそうすれば良かったんだわ!私を阻むものなんて全部壊してしまいましょう。それが私とこの自然の為・・・・・・。ふふっ、そうと決まれば躊躇う事は無いわ。先ずは貴女から消えて貰いましょうか」
「な、何を・・・・・!」
右手を振り上げ奪い取った支配権を行使する。すると辺りに生えていた雑草が土地神に襲いかかり足を地面に縫い付ける。
「なっ!?何で私に牙を剥くんだ!?」
「貴女はもうこの土地に愛されていないのよ。あんな人間共を肯定したから。だから死んでちょうだい」
「私が居なくなったらこの土地はどうなる!」
「心配しないで。私が存分に愛を注いで元の姿に還してみせるわ」
「ふざけるな!そんな事許される訳が!」
「ものを愛するのに許可なんて必用無いわ!分からないなら死になさい!」
首を切り飛ばし上体を掌打で爆散させる。一瞬で元の形を失ったそれは虚空に消えていった。
「別に土地を殺す必要なんてなかったわ。奴等が勝手に私の土地を破壊してきたんだもの。同じ事をやっても文句は言えないはずよ。ごめんなさいね勝手に殺したりして、でももう大丈夫よ。私が貴方達が生きるのを邪魔させはしないわ」
閉じた地脈を解放すると土地に次々と命が蘇っていく。それを少女は恍惚とした表情で眺めていた。そして言った。
「やっぱり自然が素晴らしい」
と。そして少女は土地を活性化させて回り、邪魔をするものも破壊していった。人は殺され、立ちはだかった神は全て高天原に追い返された。土地に緑が芽吹けば芽吹くほど力を増す自然神を止められるものは居なくなっていった。
そうして文明を一つ滅ぼし愛する自然を取り戻した自然神はその環境を壊されない為にその国を草木で覆い隠し、完全に外界と隔離した。
それから長い時間が経ち、未開の地として再び世界中に知られたが、その土地が開拓される事は無かったという。何度も隊が派遣されたが一度も無事には戻ってこず、全て死体で近くの浜辺に流れ着いたという。人々はそれを神の領域だと考え、手を出す事を止めた。それにより彼女の愛した自然は半永久的なものとなった。
今も彼女は森の中で生きているのかもしれない。しかしそれを確認する事は出来ない。確認しようと乗り出した者は一人の例外もなく草木に喰い殺されたのだから。その事から彼女はまだ生きていると思われる。
「私の愛はもう誰にも邪魔させない」
突然そんな声が聞こえた気がした。
書き上げる前に他の方々の作品を見て恋愛要素が無いと駄目なんじゃね?と思ったけどどうせ私には恋愛なんて書けないのでやり直しません(キリッ