銀竹
それから真司と二人でいつも月見をするようになった。いや、月見を言い訳にして会っているだけなのだが。月が出ない曇りの日も。雨が降った時には早々に真司を帰した。
そんな日々が続き、桜が咲き始めた春の季節。
今日もいつものように真司を待った。布団の中で温まりながら今日は何を話そうかと考えていると、障子に人影が映った。
真司かと思ったが、影の大きさがいつもと違う。それにここまで気配を消せることもできない。
暫く様子をみていると、明確な殺気を感じ取った。すぐに短刀を胸元に忍び込ませ、更に敵の様子をうかがう。
やがて時が満ちたのか、障子が開き、複数の黒づくめが雪崩こんできた。スッと短刀を構え、ガタイの良い男達と向き合った。
一見御影のように見えるが、御影ではないだろうし、かと言って一般市民でもないだろう。
襲い掛かってくる敵を短刀で流しながら逃げる。やがて周りが気付くだろうからそれまで持ちこたえればいい。だが、大人の力は子供の数倍は強い。いくら訓練を積んだからといったって限度がある。
暫く戦っていると、雪!!と聞き慣れた声がした。
誰か呼んでくれ、そう言おうとしたが真司にいち早く気付いた敵が真司に襲い掛かった。自分と同じく常に帯刀している真司はそれに応戦してしまったので、誰かを呼びに行く手だてがなくなってしまった。
それにしても誰も来ない。何かあったら、いの一番に紅が駆けつけてくれるはずなのに。どこかへでかけているのだろうか?まあ、何でもいいから早く人を・・・。
そう、考えていると、隙を突かれ、肩を浅く斬られた。白い襦袢に赤く血が滲む。痛みで一瞬動きが止まったせいか敵がより一層近づいてくるのが時が少しづつしか動いているかのようにゆっくりと見える。
最早これまでか、と目を閉じようとしたが、雪!!と大きな叫び声が聞こえて目を開ける。
目の前が見えなくなるほど真っ白な光が部屋に広がり、目の前にいたはずの敵が庭の方まで吹き飛ばされていた。
部屋を覆っているのは緑。植物だ。
雪、とホッとしている真司に、気を抜くな!!と叫んだものの遅かった。無防備な真司の体を敵が容易に捕えてしまった。
ザッと血の気が引くのを感じとれたが、己自身、気を引き締める。自分まで捕らわれてはいけない。
ジッと敵を見る。
真司に言ったのだ。自分は大切なものを全て守ると。その言葉を無かったものにしたくはない。
ザワリと体が震えた。
全てを守ることに恐怖を感じない。それだけの力が自分にあると言い聞かせて。
敵がこちらへと来る。見える。だから対処できる。
大丈夫だ。守れる。守らなければならない。
全てがなくなってしまったら、周りの皆が言うように、使いものにならない、いらない存在になってしまうから。
だから自分を認めてくれた人、全てを守れる力が欲しい。
そう心から思った瞬間、全身の血が沸騰したように熱くなって、目が眩むほどの光が部屋を包み込んだ。
――――――――――汝は何を望む。
大切なものを守れる力を――――――――――
――――――――――何故それを望む。
自分が自分でいられるために―――――――
――――――――――面白い。
白い光だけの空間で、目の前に大きな白銀の龍が現れた。
―――――――――その願い、決して後悔するでないぞ。
ただ、白銀の龍を見つめていると、龍が尾を振る度キラキラしたものが舞い上がり、綺麗だ、となにともなしにそう思った。
―――――――――私の名は、雪時雨。さあ、己のために誰かを守れ、雪水よ。
光が消えた瞬間、目の前にいた敵を、いつの間にか長刀に変わっていた刀で斬った。
しかし、血は飛び散らない。
斬ったそこからは血を包んだように赤い氷柱ができていた。
次々と襲い掛かってくる相手を斬り倒していくうちに相手の目的が分かる。
これだけ敵を殺しても尚捕えている真司を殺さない。つまり目的は自分の殺害のみ。
それなら、と遠慮なく応戦して赤い氷柱を量産していく。
残り真司を捕まえている者だけになって、怯えているそいつを容赦なく斬り殺す。真司が解放されたことに安心する間もなく殺気が後方から飛んできたので、振り向きざまに突き刺した。
これで、終わった。
そう思って、最後に突き刺した敵の顔を見た瞬間凍り付いたように動けなくなった。
「紅・・・・」
ごふっと紅の口から血が出て、自分の肩が赤く染まった。
「なん・・・で・・・」
声が勝手に震えた。
紅は敵と同様黒い服だった。御影とは違う黒い服。
今更ガタガタと震えがきた。
「・・・ず様。いいのです・・・私は・・・裏切・・・者、です・・」
小さく発する声は掠れていて、事の重大さをだんだん理解する。
「私はっ・・・雪、様をっ・・・殺せなっ・・・い・・・」
「紅・・・」
「紅でっ・・・っ・・いたかったっ・・・。け・・ど、くれなっい・・・で・・す・・・」
「紅っ・・・」
「・・もっ・・・だいっ、じょぶっ・・・です、ね・・・。・・・かつ、てっ。かざ・・・はな・・・調べっ・・・」
「紅、もういいっ・・・からっ!!」
「雪、水・・・様のっ・・・召、使、でっ・・・・はぁ・・・、幸せ、で・・・ございました・・・」
「紅っ」
だらりと力の抜けた体の重さがかかり、受け止めきれずに座り込んでしまった。
その体の重さに、現実を突きつけられたようで、茫然としてしまった。
「雪!!」
真司の声にも返事ができない。
真司が紅を引きはがすと、紅の胸には赤い氷柱ができていた。
紅の体と入れ替わるようにして、真司が雪を抱きしめた。
「雪・・・」
温かい体温に、涙が溢れ出てくる。気付けば部屋中氷のように冷たい。自分の体温もそうだ。
「しん・・・じ・・・。紅が・・・・」
「分かってる」
「紅が・・・・・」
「雪。お前のせいじゃない」
「紅が」
「雪っ」
「私が・・・」
「雪のせいじゃない!!。紅が雪に殺されることを選んだ!!分かったか!!」
「わか・・・ら、ない・・・・。私は・・・守りたかった・・・のに」
「雪はちゃんと守ってくれた」
「紅も・・・・」
「紅は敵だった」
「紅が・・・敵・・・」
「そう。仕方なかったんだ」
「・・・・仕方なくない・・・・」
「仕方なかった!!」
「仕方なくない!!」
バタバタと暴れるが、真司の抱きしめる腕は少しも緩まなかった。
「っ!!紅もっ!!守りたかったのに!!」
叶わなかった。守りたいものを守れなかった。
ぎゅっと抱きしめる腕がキツくなった。
「ごめん」
「なんで真司が謝るんだよ・・・」
「ごめん・・・」
その真司の言葉が、胸にストンと落っこちてきて、奥底にあった水の中に溶け込んで、作られた波紋が一気に押し寄せて、まるで止め方を忘れたように涙が溢れ出てしょうがない。
そんな自分が泣き止むまで真司は抱きしめていてくれた。
自分が泣き止んだ頃にようやく騒ぎに気付いた大人たちは異様な死体が転がっている部屋に子供二人が血だらけになって立っていることに驚いた。
事情は真司に付いていた御影が話し、真司と雪水が神官であることが判明。
後日、二人は帝の御前へと招かれた。
神官は帝の側近である者、ただ一人だけであった。
だから息子である自分が神官であったことに大いに喜んだ。
何がしたい?と問われ、迷わずに、人を守りたい、と答えると隣の真司も頷いた。
そうして、神官の立場を復活させ、その後続々と増えた神官の長としてその地位に就いた。
ついつい、もらい泣きしてしまいます( ;∀;)
雪ちゃんかわいい(∩´∀`)∩
そして雪ちゃんの能力の謎が深まるという・・・。
まあ、そこらへんはまた後ほど番外編で。
では、読んでくれた貴方様に感謝を(/・ω・)/