8時限 中和
部長 「次に酸、塩基の強さの話しをしよう。といっても簡単でH +、OH -のモル濃度だけどな。ただこの濃度はpHで表すが、常用対数を知ってないと計算できないし、理解も大変だろうな。念のため聞くが、対数を知っているか?」
1年生「知りません。」
部長 「ですよな。ここは対数を上手くぼやかす教科書を引用しままくろう。ああ、ちなみにまた取り扱う値が、身近では使わない値になるぞ。」
1年生「10^23くらいですか?」
部長 「いやいや、今回は穏やかに10^-14から10^-1くらいまでだよ。」
1年生「そろそろ感覚が麻痺してきそうですが、全然穏やかではないです。それよりも値の範囲が広いですね。」
部長 「実はその為の対数なんだが……。気にせずにいこう。その前に一つ、この酸、塩基性の強弱もちょっとした相対的な尺度でして、基準が存在する。何が基準かって、25℃の純粋な水H2Oな。こいつが電離して平衡に存在させているH +の濃度が中性、酸でも塩基でもない値となる。その値こそ[H +]=[OH -]=1.0×10^-7、pH7となる値だ。[OH -]がイコールなのは純粋な水だからな。H +と同じ数だけOH –が存在しないと量的におかしい。ここでひとつ[H +]とかいたら、これは[]中身の濃度を話していると思ってくれ。ついてこれそうか?」
1年生「いえ、ちょっと……。」
部長 「まあ、聞き流しでいいよ。最後に適当にまとめるからそれまでは。」
1年生「そうさせてもらいます。」
部長 「では、引用から。pHは引用を“希薄水溶液の酸性や塩基性の程度は,pH(水素イオン指数)という数値で表され,pH試験紙やpHメーターによって測定することができる。” “pHは,水溶液中の水素イオン濃度の大きさを示す指標であり, [H +]=1.0×10^-x〔mol/L〕のとき,pH=x で定義される。” “pHを用いるのは,[H +]の値が一般に小さく,また,およそ1.0×10^0(=1)~1.0×10^-14 mol/Lと幅広い桁数で変化するので,そのままでは扱いにくいからである。” “塩基性の水溶液でも,水の電離によりH +が存在しているが,[OH -]が大きくなるほど[H +]は小さくなる。一般に[H +]>[OH -]の水溶液は酸性, [OH -]>[H +]も水溶液は塩基性, [H +]=[OH -]の水溶液は中性とよばれ”る。ここで面白いのは、OH -が多いときにH +は消失ではなく減少なんだよな。だから『水素イオン濃度』、水素[H +]だけの[OH -]いらずで濃度を示せる。」
1年生「なんとなく便利ですね。」
部長 「そうだよな。それに、[H +]、[OH -]のどちらかの値が分かれば、もう片方も分かるようになっているんだよ。関係を表す計算式がある。楽しい。」
1年生「た、楽しい…。」
部長 「ああ、話は長くしないよ。それに今の話しはpHという値があることと、それが中性を示す値はpH7であること。値が7以下なら酸性、以上なら塩基性と知っていれば十分だ。まだまだ引用するが、“酸(塩基)の水溶液では,酸(塩基)の電離で生じるH +(OH -)の濃度に比べ,水の電離で生じるH +(OH -)の濃度は極めて小さいので無視でき,酸(塩基)の価数と濃度,電離度でpHが決まる。ただし,酸(塩基)の水溶液をどんどん薄くしていくと,水の電離による影響が無視できなくなるので,酸(塩基)を薄めてもpHが中性の7を越えて変化することはない。”こんなだけ引用すると、もう私の話しではないな。」
副部長「『プロではない』。部長が言ったことだよ。まあ、プライドくらいはあるかな。」
部長 「そう、プライド。専門書共、難しい言葉で語るんじゃねえ。と、思い、分かりやすくなればと私なりの解釈で話しているのに。それが出来ないなら私のこの行為に価値無ないよ。本を自分でよんだ方が速いよ。」
副部長「まあ、そうだね。」
部長 「……。」
1年生「あ、あれですよ。自分では読もうとしませんから。そういう意味では役に立つかと……。」
部長 「やさしいフォローをありがとう。へこんでないで話しを戻そう。酸、塩基性の水溶液ならば、水の電離を無視できるとあったが、ここは例を挙げると簡単だ。HClの0.01mol/L水溶液でpHを考えるとHClは強酸で電離度は1と計算でき、価数は1。よってHClから電離したH +はHClと同量存在することになる。希釈もしてないので濃度も変わらず0.01=1.0×10^-2=[H +]がHClから電離したH +。これに対して水の電離は1.0×10^-7=0.0000007=[H +]。十万倍違う。存在しないも同然。納得の棄却です。」
副部長「これを水酸化ナトリウム水溶液NaOHに代えても同じ。水からの電離OH -は小さすぎるから考慮しない。」
部長 「ああ、誤解を生みそうだな。OH -過多の状況でも水が電離すれば[H +]は1.0×10^-7mol/LでpH7になるんじゃね。とか思わないでくれよ。水の電離からの濃度は平衡。つまり拮抗しているだけで、外部要素で簡単に崩れるから。OH -に簡単に駆逐されて、0.01mol/LのNaOH水溶液中なら1.0×10^-12mol/LのpH12になる。」
副部長「それならもう一つ、pH値はpH0 ~ 14しか話さないけど気にしないでね。いろいろと『楽しくなる』話があって大変だから。」
部長 「その楽しくなる話しをしたいところだが、正直ハメットさんを私、知らない。ただ、本当は0以下も14以上もある。ついでにいえば小数点以下の値、pH5.5もpH9.2も表記するけど、これは対数を分からないといけないのであまり出ない。都合のよすぎるテストと一緒だ。気にするな。気にしてくれるな。」
1年生「わかりました。」
部長 「では、満を持したところで中和を話そう。『中和』これはある反応だが、これ自体はとても簡単。H+ とOH -が反応することが一番で、あとはそのH +とOH- を発生させたもともとペア同士も反応する。これに尽きる。」
1年生「満を持したのに簡単にまとめましたね。」
部長 「安心していい。詳しく話し過ぎると、超楽しい。」
1年生「それで、詳しく……。」
部長 「少しだけな。今回は簡単な中和滴定が分かる、出来るまでしか話さない。…正直な話しグラフとか面倒だし。」
1年生「ああ、私もそれはちょっと……。」
部長 「まあ、言うほど数学ではないが。取り敢えず簡単に話し過ぎたから、少しずつ詳しく話していこうか。さてさて、先に今までの話しを少しぶっ壊す。水が電離すると話したろ、あの濃度が幾らか覚えているか。」
1年生「[H +]=[OH -]=1.0×10^-7ですよね。」
部長 「その値をよ~く、考えてみよう。」
1年生「問題が?」
副部長「少しずつ毒されているね。」
部長 「だが、それでいい。答えだが、すごく当たり前のことだ。凄く小さい。」
1年生「え、ああ。」
部長 「なんだ、おかしいか。自分が。」
1年生「ええ、ちょっと……。」
部長 「一年生君の苦悩は置いておき、1.0×10^-7mol/Lの値を考えよう。少数で表記すれば0.0000001。単位はmol/L。あまりやる事ではないが水1Lが何モルか考えよ。復習として答えてもらうか。1Lは1kg、1000g。」
1年生「Hは1。Oは16ですよね。1+1+16=18gが1molの重さですね。」
部長 「その勢いで、どうぞ。」
1年生「1000/18で55.55…。四捨五入は、どこで。」
部長 「厳密ではないからな。第1位で。」
1年生「56molですね。」
部長 「やっぱり無理やりだが、これを『溶けている電解質全体の物質量』としよう。で、『電離した電解質の物質量』は散々話した1.0×10^-7mol/L。もうここらへん話の着地点は気付いてきたろ。」
1年生「まあ、バカみたいに離れていることは。」
部長 「まあ、折角だがらこのまま計算を続ける。(1.0×10^-7)/(56mo/L-1.0×10^-7mol/L)≒0.0000000018くらい10億分の1.8%だな。いや、うん。分かってたけどな。凄いだろ。」
副部長「見事な小ささになったね。」
1年生「見事ですね。……あの、この話の結論は。」
部長 「電離している割合は、この小ささだろ。電離していないH2Oの形の方が自然だ。つまり、H +OH -があると反応してH2Oになる。」
1年生「おお、ついに反応しましたね。」
部長 「本当に長かった。で、酸、塩基の主成分はH +OH -だろ。酸性のH +が溢れているところに、塩基性のOH -を放出する水溶液を加えれば反応して水が出来る。はい、これが中和です。もちろん、逆もしかりな。」
副部長「これで半分だね。」
部長 「続けてもう半分。酸、塩基の物質だが別にH +、OH -だけで構成されているわけではなかっただろ。HCl、NaOH、それぞれCl、Naが付いているだろ。そもそもこいつらと組まされているから、水の中でハッチャけて、電離するわけだが……。そこが問題ではない。まあ、その残り物どうしも反応する。この時生成する物質は『塩』(えん)と呼ぶ。この例だとNaClができるな。」
1年生「これが、中和ですか。」
部長 「そう、だいたいこれだけ。かわりにちょっとまじめな話しを。世の中しっているか知らないかでは圧倒的な差がでる。……ことがある。」
副部長「出鼻から言い訳……。」
部長 「知っていると出来る事。まあ、例えば再現だな。適当に料理とか、作り方が分かれば、後は何度でもその料理は作れるだろ。」
1年生「そうですね。」
部長 「いま話している、酸、塩基もそうだ。酸、塩基を発生させている物質がどれ程存在しているか、料理の塩分量ほど一般的に必要なデータではないが、確実に必要な分野もある。あ~と……、生化学、生体の反応を追跡している分野とかな。」
1年生「そういう、ものですか…。」
部長 「…たぶん。で、なぜこんな話しをしたかというと。ある酸、塩基を発生させる物質を測定する実験方法がある。それがいまから話す中和滴定だ。」
副部長「殊の外、なぜその実験が必要であるのかを、説明してくれないことが多いからね。部長なりの気遣いかな。」
部長 「かなり拙かったけどな。」
1年生「いえ、話しをされないより俄然、興味がわきましたよ。」
部長 「そうか、では話すか。名前にもある通り中和を使う。といっても簡単で、酸、塩基性の物質を中性に、つまりはH +、OH -を中和反応でなくしてやろう。そうすれば、ちょうど中和に使用した塩基、酸の量はもともと存在していた酸、塩基の量になるだろう。そういう実験。」
1年生「思った以上に簡単ですね。」
部長 「物足りないなら楽しい話しをするぞ。ぜひ対数とKwを理解してもらいたい。」
1年生「え。」
副部長「冗談にしておこうね。」
部長 「はいはい。代わりに問題。今の話しで必要なものが足りていない。さて、何でしょう?」
1年生「……。閃きましたよ。中性を知るものが無いですね。」
部長 「正解。指示薬と総称される。pHの変化によって色調が変わるものを使って、ちょうど中和した点を知る。」
1年生「指示薬……。万能指示薬とかありますけど、それを使うんですか。」
部長 「ああ、彼か……。彼は残念な奴だよ。」
1年生「え?」
部長 「中学生の頃な、万能指示薬とか酸のアルカリも分かる便利なものがあるのに、なぜ、わざわざアルカリ性で赤くなるだけのフェノールフタレインとか、酸性で黄色からオレンジになるだけのメチルオレンジとか使うのかと疑問に思ったことがあるよ。」
1年生「その疑問は何となく分かります。覚えるものは少ない方がいいですし。」
部長 「そうだろ。でもな、とても、それこそフェノールフタレインなんかとても大事なメリットがあるんだ。色の変化が人間の目でみて分かりやすいというメリットが。」
1年生「そんなことですか。」
部長 「残念だが、そんなことではないんだよ。知りたいのは、『ちょうど』中和した点なんだよ。ちょうど。反応の最後はかなり微妙な変化になる。それこそ一滴で変化する。」
1年生「一滴。」
部長 「そう、本当に微妙でな、色の『変化』では分かり辛い。その点フェノールフタレインなら無色から有色だ。それこそ隣に無色の水でも置いておけば、微妙に赤みを帯びたかどうかを判断できる。その点メチルオレンジは少し分かり辛いが…。」
副部長「万能指示薬よりは分かりやすいね。」
1年生「フェノールフタレインがそんなに重要だったなんて知りませんでした。」
部長 「で、こいつらには変色域があり、フェノールフタレインはpH<8で色を帯びて、メチルオレンジはpH>2くらいか色が変わる。え、全然pH7の中性じゃ無いって? 疑問に思うよな。」
1年生「…え。あ、はい。」
部長 「そうだろう。でも大丈夫。0.01mol/L HClが、どれ程酸性が強かったかを思い出して欲しい。ちょうど、中和して中性になった点。そこに一滴でも加えれば一気にpHは跳ね上がる。これはグラフでみると分かるが…。そこは検索でしてください。問題なのはこの跳ね上がり、強酸と強塩基、弱酸と強塩基、強酸と弱塩基では起こるが弱酸と弱塩基では起こらない。ほら、あいつら電離とかややこしいだろ。そのために、弱酸と弱酸では中和滴定は出来ない。もっと面倒だったはずだが、これで十分。」
1年生「おざなりにするなんて珍しいですね。」
部長 「正直、実際に手を動かして実験しないからな。詳しくは、分析化学という分野に入っているから、そこで詳しく話しなおしたいな。」
1年生「た、楽しみだな~。」
部長 「正直にいえば、テストに出やすい話ではないからな。中和滴定は弱酸と弱塩基ではできない。それだけで十分だ。」
副部長「それよりも計算の方が重要だからね。あと、座学が先走って実験手順が抜けているよ。」
部長 「おお、そうだった。では適当に。まずは酸か塩基どちらを正確な体積量りとり指示薬を加える。そこに量り取ったほうとは逆の溶液を滴下する。その指示薬が変色したら、滴下した液体の体積を調べる。これだけ。」
1年生「えっと、体積が大事なんですか。」
部長 「あ~と。まあ、そうだ。どちらかの濃度と体積が分かれば、正確に含まれている物質量が分かる。例を挙げる方が分かるか。0.10mol/L、価数が1の水溶液を20ml量りとる。含まれている物質量は?」
1年生「物質量ですか……。」
部長 「ああ、忘れてきたか。濃度とは別に単純に幾ら存在しているかだ。10%の食塩水20mlには食塩が0.2g含まれている。みたいなもんだ。」
1年生「それのmolバージョンですね。えっと、20/1000×0.1=0.002molですか。」
部長 「正解。続けて、これに24ml滴下したら指示薬が変色し中和を確認した。24mlには価数が1の水溶液の場合、何mol含まれている?」
1年生「……。」
部長 「計算は要らないぞ。」
1年生「…え?」
部長 「ヒントの代わりに、問題について少し解説を。わざわざ価数を指定したのは価数が違うと計算が変わってくるからな。あと酸、塩基を特定して問題を出さなかった。そもそも、どちらが酸、塩基の水溶液化も指定しなかったのは、どちらでも構わないからな。…ってところで、気が付いたか?」
1年生「はい。0.002molですね。」
部長 「その通り。濃度がどうあれ、0.002『mol』に滴下したんだ。0.002『mol』存在しているに決まっている。計算がいるのは、これが何『mol/L』かを計算する時だ。ついでにやってみて。」
1年生「……。」
副部長「1000mlから24mlは何回量りとれるかな。」
1年生「1000/24回です。」
副部長「その回数分、1Lに0.002molがあるよ。」
1年生「おお、(1000/24)×0.002ですね。…0.0833…です。」
部長 「正解。ヒントが甘いな。他に例を挙げると24:0.002=x:1000とかな。計算の仕方は小学生でも習うだろ。」
副部長「ただし、非推奨かな。割合という概念が育ちにくい。」
部長 「何でもかんでも、xの等式つくって、式変形して答え出すのはよろしくない。一発で答えがでる計算式をつくれる。今の問題だと、0.002/(24/1000)を思いつけば優秀だが…。そんなこと数学強者の言い分だ。結局は分かればいいんだよ。」
1年生「副部長さんのヒントのように、一要素ずつでも、ですね。」
部長 「まさしくそうだ。何だろう、そろそろ本題を見失いそうだな。」
副部長「簡単に実験手順を話していたよ。」
部長 「そうだったな。この中和滴定が本題だったし、もう一度話す。必要なものは濃度が既知の酸、塩基性の液体。名前を忘れていた、こいつを標準溶液という。これは出来れば強酸、強塩基が好ましいが、未知溶液が強酸、強塩基ならば弱でも問題ない。まあ、この標準溶液を用いて未知溶液の物質量を測定する。名前をもう一つ、ちょうど中和した点を当量点という。……だったはず。」
副部長「それであっているはずだよ。ただ、終点とは違うはずだよ。」
部長 「ああ、それと混同したのか。え~話すと、指示薬の色が変わる点が終点だ。少し話したと思うけど色が変わるのはpH<8とかだろ。よって当量点と終点は微妙に値が違うわけだ。」
1年生「面倒ですね。」
部長 「そ、面倒。面倒なところもぼちぼち話すか。正確に量り取った溶液に滴下するわけだが、さっき出した例では標準溶液を正確に量り取ったが、これは未知溶液でも問題ない。標準溶液の体積が分かれば問題ないからな、正確に量り取った体積だろうが、滴下した体積だろうが、別に物質量は計算できる。」
副部長「どちらにしても、未知溶液の『濃度』は変わらないからね。さっき例、正確に未知溶液20ml量り取った場合、標準溶液の滴下量は約16.67mlになるけど、未知溶液の濃度は(16.67/1000)×0.10×(1000/20)≒0.08.3mol/Lという計算になるだけで、答えは変わらないからね。」
部長 「それと標準溶液を作る、『調製』する時は物質をよく選ぼう。なぜかというと、意外と正確に重さを秤量できるものは少ないから。これが面倒なんだよ。空気中では湿気を吸ってその物質単体の重さが分からなくなるものは多いし、それこそ気体は、言わずもがな。体積でも難しい。」
副部長「ちなみに、湿気を勝手に取り込むことを潮解というよ。」
部長 「後は……。そうだな、弱酸とか、弱塩基は一部しか電離していなかったはずだが、こいつらも問題なく物質量を測定できる。中和によって消費された分どんどん電離し、最終的に全て反応するからな。さながら、排除しても、駆逐しても生まれるサボる蟻のように。」
副部長「知らない場合、蟻の生態で検索。」
部長 「後は、計算問題を解こう。第一問、0.0500mol/Lの硫酸H2SO4、20.0mlに水酸化ナトリウムNaOHを滴下したところ、22.4ml滴下したところで指示薬のフェノールフタレインが赤色に呈色した。NaOHのモル濃度を求めよ。」
副部長「公式があるから示しておこうか。モル濃度をc、価数をa、体積をVとすると
acV〔mol〕 = a’c’V’〔mol〕
要は標準溶液、未知溶液のそれぞれの成分を両辺に分けて、積をとった形になるね。体積はV/1000〔cm^3〕が本来物質量を計算する方法になるけど、両辺に1000をかけて消去してあるよ。」
部長 「価数は忘れるなよ。あれで同じ物質量でも、放出するH +、OH -が変わる。」
1年生「価数が2のH2SO4は価数が1のNaOHの二倍H + を出す。で、あっていますよね。」
部長 「そう。答えはでそうか。」
1年生「2×20×0.05=1×c’×22.4、c’=0.112ですか。」
部長 「正解。次、この問題で分かったNaOHを使って酢酸CH3COOHを滴定する。酢酸を20mlに滴下したところ8.74mlでフェノールフタレインが呈色した。酢酸のモル濃度を求めよ。小数点第五位を四捨五入で。」
1年生「1×0.112×8.74=1×c’×20、c’=0.048944≒0.0489ですか。」
部長 「正解。ちなみに、10に希釈した、おおよその食酢の測定値な。」
1年生「おお、中和滴定で食酢の濃度は分かるんですね。」
部長 「そういうこと。ちなみに質量パーセント濃度で3%、密度を0.98g/cm^3の酢酸式量60.04で問題を作ってみました。暇なら本当にそうなるか計算してみて。その時は、10倍に希釈してあることを忘れずに。」
副部長「測定しているのはモル濃度であることも忘れずにね。」
部長 「それにしても、なぜモル濃度なんて濃度を使うのかが分かるよな。質量パーセントで5%:5%が1:1で反応するとか、H2SO4、NaOH、CH3COOHが同じ質量なら話は別だが……、まあ、そんなわけない。」
1年生「そうですね。反応は質量ではなくて分子同士で起こっていますもんね。」
部長 「そう、桁が途方もなく大きかったり小さかったりするのが、慣れるのには難点だがな。」
1年生「ええ、23『桁』とか、初めてですよ。」
部長 「まあ、そのうち慣れる。というより、後ろに10^nが付くのは当たり前すぎて、もう気にしなくなる。」
副部長「それについては、物理も同じ。理系科目の宿命だね。」
1年生「うわ~。」
部長 「話がそれてきたが、…もう戻さなくていいな。中和滴定の話しはこれで終了。」