6時限 反応
部長 「さて、次から反応の話でもしようかと思うが、正直この範囲、話す事が少ない。」
副部長「また戯言を、とい言いたいところだけど、結構事実だね。余程話を広げない限りは。」
1年生「最後でフォローが台無しに。」
部長 「結局長くなることに関しては置いとくとして、この範囲、理論もなく覚えることしかしない。と、いうより覚えることしかさせていない。」
副部長「高校の範囲では、ですか。」
部長 「ああ。反応の種類は結構話すが、その機構はおざなりだ。まったくもってつまらない。」
1年生「それは…難儀ですね?」
部長 「まあ機構も結局突き詰めれば最後は原理もなくそうなるからとしか言えなくなる。あくまで私見だが、機構だって幾つもの反応を調べて仲間分けして似たようなものか
それでも結構量分かっていることは多くその組あわせで新しい反応を考えているわけで……」
1年生「話すと長いですか?」
部長 「長いな。止めよう。」
副部長「まあ、フォローすると高校の範囲では『A+B→C+D』とは習うけど、上ではAとBの何が何処へ作用して反応が起こるかまで習うんだよ。」
1年生「それが楽しいと。」
部長 「ああ、それこそ楽しいと限定してもいい。『A+B→C+D』なんて覚え続けてもつまらないだろ。」
1年生「完全に暗記ですか。」
部長 「暗記だな。覚えたければ『縁があって好きな人』とか『塩基性にしないと会えん』とか、語呂合わせで各参考本が協力してくれるぞ。今のも適当なまた聞きだ。」
1年生「あれ、多少面白そうですね。」
部長 「そうか? まあ私も『貸そうかなまああてにすんなひどすぎる借金』は好きだけどな。」
副部長「全部明確な反応ではない。」
1年生「違うんですか。」
部長 「最初の二個も……あ~、違うな。」
1年生「適当ですね。」
部長 「適当です。まあ偶には、こんな調子で話しを進めてもいいが。今回はいままで避けてきた表記の話しを前座にしよう。まとめ兼、復習にもなるからな。」
1年生「避けてきましたか? 組成式で話した気がしましたが。」
部長 「随分避けたぞ。表記は書かないと分からないだろ。組成式は辛うじて書かずに話したが。」
副部長「普通は何かに書きたいよね。」
1年生「たしかにNaClだから書かないで分かった気がしますね。」
部長 「単純な構造式だからな。世の中そんなに単純な物質だけではない。そこでこれから話すことは手元も注目でお願いします。」
1年生「はい。」
部長 「まず一つ、原子の質量と原子番号。これは元素の種類を示すアルファベット、元素記号の左横に書く。質量は左上、原子番号は左下。言い方が悪いな。左上、左下に数字が書いてあったらそれは質量、元素番号を示している。と、いうべきだな。別に常に書いているわけではない。」
副部長「あくまで左上は質量だからね。同位体があると同じ原子でも左上の数値は違うことがあるね。」
部長 「その代り左下は原子番号だから元素記号によって固定な。」
1年生「同位体。もう懐かしい単語ですね。」
部長 「随分、遠くまで来たな。次はもう少し近い、イオンだ。これは元素記号の右上に書く。陽イオンなら『+』、陰イオンなら『-』な。そして価数は+-や-の記号の左側に書く。『2+』、『3-』のようにな。価数が1の時は省略。数学のxやy等、文字式と同じだ。」
1年生「省略はどれも同じですか。」
副部長「そうだね。ちなみにこれまでの話、多原子イオンも同じだよ。」
部長 「話してみると少なかったな。ついでに結合も書くか。まずは図になるな。共有結合はこんな感じになっている。軌道を適当に話したから、受け入れにくいかもだが。」
1年生「酸素の内側がK殻で、外側がL殻ですか?」
部長 「その通り。適当に話したのに分かってくれるとは感銘だな。次、電子式というが、さっきの図を簡略化したようなものになる。それは元素記号の周りに、特に結合に重要な最外殻電子のみを書いたものになる。」
副部長「一応注意すべき点は最外殻でも結合に関与している電子は元素記号同士の間に書くことだね。こんな書き方はしない。」
1年生「なるほど。確かに不自然な感じもします。」
部長 「そうそう変な書き方にはならないだろう。と思ったが二重、三重結合も示さないとな。さっきの話しを考慮するからこうなる。」
1年生「なるほど。密度が高いですね。」
部長 「間に集結するからな。で、話しておいてなんだが、これはあまりに使わない。」
1年生「あ~、使わないんですか。」
部長 「点をいちいち書くのは面倒だからな。なので、点を省略した書き方をする。それが構造式と呼ばれるものだ。まあ慣れれば書き方は簡単だ。結合に関する電子の点を棒にする。ついでに使わない電子の点はまたもや省略。」
1年生「一気にスッキリですね。」
部長 「……ここで、見たことがあるとかは思わない?」
1年生「記憶に御座いませんね。」
副部長「この記号は?」
1年生「それはあります。なんか科学っぽいところでよくみます。」
副部長「これも構造式の一種だと思ってくれていいよ。」
部長 「化学のある一分野、有機化学が主だが、この分野は炭素Cと水素Hが面倒なほど繋がった構造の物質がよくでる。」
1年生「これもそうですか?」
部長 「代表格だな。これを簡略化せずに書くとこうなる。」
1年生「確かに面倒そうですね。」
部長 「で、これの水素を完全消去、炭素は結合を示す棒だけを残して消去。これだけでも炭素の数、結合の種類が分かるわけだから優秀だが……。これも慣れれば覚えると言いたいが、当分使わないから取り敢えずは使えなくて問題ない。」
1年生「使えるとかっこよさそうなんですけどね。」
副部長「難しそうかい?」
1年生「はい。」
部長 「大事なことを言い忘れていた。この構造式、分子でしか使えない。正確には分子内の結合な。」
1年生「それはイオン結合が組成式で表すのと同じような理由ですか?」
部長 「そうだ。奴らはまさしく構造。書くとしたら立体的だ。」
1年生「立体ですか…。」
副部長「唯一の希望は物質ごとに無限のように種類が存在しているわけではなく、似た構造があり、数種類に分けられる。」
1年生「それでも、今から饒舌に話さないところから結構な数の種類何ですね。」
部長 「ご名答。次の話しにいくか。」
部長 「さて、反応の話をしようか。超絶ザックリな。」
副部長「ザックリ~♪」
1年生「楽しそうでなによりです。」
部長 「では引用から。“化学変化において,反応する物質(反応物)と生じる物質(生成物)の関係を,化学式を用いて示した式を化学反応式または単に反応式という。”反応事態は話したよな?」
1年生「はい。辞書から引用しました。」
部長 「それを話していればこの引用には大した解説は要らないだろ。語句を覚えるだけだ。これだから話がつまらないんだ。」
1年生「それでも語句は重要、ですね。」
部長 「分かってないと話が理解できないからな。さすがにザックリと省略はできない。さて、次に話すのは反応式の書き方、つくり方だ。“『1』 反応物の化学式を左辺,生成物の化学式を右辺に書き,化学変化の向きを示す「→」で両辺を結ぶ。『2』 両辺で各原子の数が等しくなるように係数を決める。係数は,最も簡単な整数の比になるようにし,係数が1になる場合は省略する。”以上、算数が苦手な方々が出来ない反応式の書き方でした。」
副部長「解説が必要かい?」
1年生「数学は苦手でした。…え、算数ですか?」
部長 「算数だ。最小公倍数、最大公約数とかと同じような考え方、もしくは割合だからな。1:2とかの。」
1年生「算数の最大難問ですね。」
副部長「苦手な人は苦手だね。」
部長 「こんなところで転ぶと微積分が出来ないぞ。私も苦手だが。反応式の話しに戻るぞ。反応式はH2+O2→H2Oだと右辺と左辺の数が合わないから2H2 + O2 → 2H2Oとして両辺の数を合わせましょう、という話だ。ただ、つくり方の話しをしても算数嫌いは覚えてくれないだろうから、反応式の利便性の話をしよう。その前に質問、H2 + O2 → H2Oこれに問題がある?」
1年生「数が合わないのが問題だから合わせる。そういうわけではないのですか?」
副部長「ちなみにどこの数が合わないか分かるかい?」
1年生「右辺のOの数が2個なのに対して左辺のOが1個しかない。」
部長 「そういえば中学校でも反応式はつくるのか。」
1年生「はい。だから分かりました。」
部長 「自力でも他力でも分かればいい。しかし問題の意図が多少違う。問題が何処かではない。それ以前に問題が有るか無いかだ。」
1年生「そしてその答えは、引っかけではない限り、問題は無い…と。」
部長 「残念、今回は引っかけでした! …ではない。水素H2と酸素O2から水H2Oが出来る。情報としては間違っていない。その上『=』ではなく『→』を使っている。」
1年生「だから問題は無い。と、いうわけですか。」
部長 「情報としてはな。問題が無いと結論づけたところで利便性の話をしよう。まあ問題が無いものに手を加えるんだ。何かしら利便性がないと無駄だからな。」
1年生「無駄と言い切りますか。」
副部長「算数嫌いを加速する効果はありそうだね。」
部長 「それはあるだろうな。理科での算数必要範囲だからな。電気と二大巨頭を築いて算数嫌いに襲い掛かっていそうだな。」
副部長「二大巨頭がなんであるかは議論の余地がありそうだね。でも、嫌いな方々はそもそも議論したがらないかな。」
1年生「脱線が続き、そろそろザックリとは言えなくなってきましたよ。」
部長 「えっと、利便性だったか。ここまで話を引っ張ってなんだが、たいしたことはないぞ。今までわざわざモルとかいって数を考える話をしてきたことに起因する。H2 + O2 → H2Oを2H2 + O2 → 2H2Oに。はい、シンキングタイム。」
1年生「数………。それにしても、モルはよく出てきますね。」
部長 「だから最初から話しをしたんだよ。中等教育との違いに数的考察が増えたことは挙げられるだろうな。で、わかったか?」
1年生「2個の水素と1個の酸素で2個の水ができる?」
部長 「お、大正解。頭に付く係数が割合を示しているわけだ。」
1年生「これが利便性ですか。」
部長 「不満そうだが大事だぞ。ここで問題! 280gのN2と64gのH2を反応さ平衡に達したとき、38molの気体が存在することがわかった。平衡時のN2,H2,NH3のモル数、過剰反応物質、限定反応物質は何か。」
1年生「え、突然すぎます。」
副部長「はい。計算は省略しますがN2が8mol,H2が26mol,NH3が4molでH2が過剰物質でN2限定物質です。」
部長 「“大竹伝雄,化学教科書シリーズ 化学工学概論丸善出版株式会社(1988)”より。このようなことがわかる。大事だろ。」
1年生「何が何だか…。」
部長 「工業的に反応物と生成物の量がわかっていると無駄なく生産できる。企業にとって無駄は唾棄すべきものなのはわかるだろ。」
1年生「はい。それでさっきの問題は無駄を唾棄するのには必要な話ですか。」
部長 「大凡は。実際はあれよりも面倒だろうな。得てして、教科書の問題はそんなものだが。」
副部長「ややこしすぎたのはあの問題だね。あのような問題を解くには窒素N2と水素H2がアンモニアNH3になる反応がN2 + 3H2 → 2NH3と組み立てられなければ解けない。それだけを言いたかったんだよ。」
部長 「随分遠回りをしてきたが、ここらで反応式のつくり方を……解説しない!」
1年生「やっぱり疲れました?」
部長 「ああ疲れたね。つくり方なんて千差万別だ。好きなように考えてつくればいいんだよ。出来ないなら塾にでも行ってくれ。私は楽しい話をしているだけで、化学問題の解き方を話しているわけではないんだ。」
副部長「イオン反応式は?」
部長 「忘れていた。少し話そう。“イオンが関与する反応において,反応しないイオンを省略した化学反応式を特にイオン反応式という。”反応式のさらなる変形版だな。イオンの反応だと、分子同士と違って電子の受け渡しまで考える。なによりも、場合によっては考えた方が分かりやすい。そこでイオン反応式とか呼ばれるものをつくる。いきなり話し出したが、ここまで大丈夫か?」
1年生「大丈夫です。」
部長 「ここで
AgNO3 + NaCl → AgCl↓ + NaNO3
という反応を例に挙げる。起こっている反応としては、硝酸銀の水溶液に塩化ナトリウムの水溶液を入れると塩化銀が沈殿するとなっている。下向き矢印は沈殿のマークな。これが上向きだと気体が発生したことを意味する。」
1年生「矢印だけで示せるのは便利ですね。」
部長 「もともと反応を簡便に示す式だ。出来るだけ省略できるようになっているんだろ。ついでに話すと水溶液であることを示す記号もある。
AgNO3aq + NaClaq → AgCl↓ + NaNO3aq
というように物質の化学式の後ろに『aq』、を付ける。Aquaのことな。」
副部長「気づいているかもしれないけど塩化銀AgClは沈殿物であって水に溶解していないから後ろにはついていないよ。まあ、実際に本当に少しも溶解せず完全に沈殿しているのかは分からないけどね。」
部長 「分からないというか、断言できないというべきか。まあ、いつもの言い逃れ用お茶濁しだな。で、イオン反応式の話しを続ける。最初の化学式、硝酸銀も塩化ナトリウムも水溶液だが水溶液ってことは電離している。そこで電離した状態で、つまりはイオン式で表すと化学式は
(Ag +) + (NO3 -) + (Na +) + (Cl -) → AgCl↓ + Na +) + (NO3 -)
となる。数多すぎだろ。面倒くさい。」
副部長「と、つい愚痴ってしまうくらいにはややこしいよね。そこでこれの反応しないイオン―この言い方誤解を招きそうだね―水の中で電離中のイオンを省いたものがイオン反応式だよ。」
部長 「最終的に式は
(Ag +) + (Cl -) → (AgCl)↓
となる。超スッキリ。」
1年生「一目瞭然のスッキリさですね。」
部長 「スッキリしたところで化学反応式は終了。」