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1時限 濃度

部長 「さて、これから中和滴定について話しをするわけだが、本当にしていいのか?」

1年生「ええ、まあ。そのつもりで来ましたし。」

部長 「正直来てくれると思ってなかったんだよ。あんなノリで昨日は解散してしまったし。」

1年生「確かにそうですけど、先輩がわざわざ教えてくださるのに逃げづらいですよ。」

副部長「まあ、一回目から逃げる勇気は流石にないよね。」

1年生「一回目ですか。何回もあるんですか?」

副部長「部長は話しをするのが好きなんだよ。」

部長 「自分の得意分野の話が嫌いな人はいないと思う。」

1年生「やけに機嫌がいいのは、そのためですか。」

副部長「まあ、付き合ってあげて。それに文集の事もあるから。」

1年生「え、文集?」

部長 「ああ、一応それらしい活動しないといけないからな。で、その文集のネタは毎年科学ネタでやっているんだよ。だからそれまでに、一年生くんを理系よりにしないといけないわけだ。」

1年生「まさか、そんな予定が…。」

副部長「昨年は5回目くらいで二人いた新入部員が一人減ってしまったけどね。」

1年生「もしかして、いつかは避けられるって……。」

部長 「そんなことは気にしない。そろそろ始めよう。」

1年生「よろしくお願いします。」

部長 「さて、日を改めたのはこいつがほしくてね。」

1年生「教科書ですか?」

部長 「ああ、“高等学校 化学Ⅰ 改訂版”。解説するのに正しい知識が手元にほしいからな。自分の記憶だけで他人に解説できるほどうぬぼれてはいないよ。」

部長 「さて、たいした準備もいらないし、ヌルヌル始めよう。まず聞くけど、モル、モル濃度って知っているか?」

1年生「いいえ。」

部長 「じゃあ、そこから話すか。本格的にモルから話すより、モル濃度と質量%濃度との違いを説明しよう。中学生までで習った濃度について簡単に説明できるか?」

1年生「全体の重さのうち、どれくらい含まれているかですよね。」

部長 「そう、単純な重さの割合のこと。少し補足すると含まれているものの単位は全体と同じ重さだ。重さを質量と置き換えてもわかるよな。」

1年生「はい。」

部長 「この本では“溶液中に溶けている溶質の質量の割合をパーセント(百分率)で示した濃度を質量パーセント濃度といい,溶液100g中の溶質の質量で表す。”と書かれている。」

副部長「付け加えると質量パーセント濃度を示す記号には%を用いる。式は

質量パーセント濃度=(w⁄(w+W))×100%

wは溶質の質量、Wは溶媒の質量。溶質と溶媒はわかるかな。」

1年生「溶質は溶けている物質。溶媒は溶かしている物質。合わせて溶液ですね。」

部長 「そんなところだろ。ここで簡単な問題。水90gに食塩10g溶かした食塩水の濃度は?」

1年生「10%ですね。」

部長 「では酸素30mlと窒素70mlの混合気体での酸素の濃度は?」

1年生「30%……ん?」

部長 「疑問を持ってくれてありがとう。さっき言った通りならそれでは間違い。ちなみに、おおよそ33%になる。一年生くんの答えならそれは体積パーセント、vol%(ボリュームパーセント)になる。」

副部長「さっきから、質量パーセントと言っていたのはこれと区別する為だよ。質量パーセントもw%(ウェイトパーセント)と言ったりするね。」

部長 「ものによってはvol%が使われる。前に外国製の酒のアルコール濃度でこのvol%が使われているのを見たことがあるな。」

1年生「何見てるんですか。未成年でしょ。」

部長 「成分表記を見るのは罪ではない。」

副部長「商品の成分表記を見てニヤニヤするから、変態扱いされるんだよ。」

部長 「くそ、その程度で。」

1年生「その程度……?」

部長 「まあいいや。中学の質量パーセントは復習できたろうから、モル濃度の説明に入ろう。ただ、モルを教えていないから適当に概念について説明するに留めるけど。」

1年生「そのモルを知らなくてもいいんですか?」

部長 「取り敢えずダースに置き換えて説明すれば大丈夫。……ダースはわかるよな?」

1年生「……鉛筆とかで使いますよね。1ダース24本ですよね?」

部長 「……たしか。」

副部長「12だよ。ちなみ悪魔の1ダースというと13を現すらしいよ。」

部長 ・1年生「…」

副部長「落ち込んでないで説明を続けて。何でダースに置き換えれるのかな?」

部長 「端的に言ってモルは質量や体積と違って個数だからだ。それが濃度となっても同じ。全体のうちの割合…。すまん、違うな。割合だが単位は違うな。リットルか」

1年生「?」

副部長「一年生くんにも分かるように。」

部長 「ああ、え~と…、質量パーセントのときは全体の重さ中の目的のものの重さだっただろ。体積でも同じ。ただしモル濃度、思い切ってダース濃度では違う。端的に言えば定められた容量に幾つ入っているか。ダース濃度では容量を箱にしよう。一箱に何ダース入っているかを表している。分かる?」

1年生「え~と。」

部長 「1つの箱の中に12本の鉛筆が入っているのを1ダースパーセント。24本なら2ダースパーセント。では36本なら?」

1年生「3ダースパーセント。」

部長 「その調子で、18本なら?」

1年生「…1.5ダースパーセントであっていますか?」

部長 「あっている。」

副部長「なら2つの箱の中に6本なら?」

1年生「……。0.25ダースパーセント?」

副部長「正解。 鉛筆は6本だから 6/12=0.5 で0.5ダース。それが二箱に分かれているから 0.5/2=0.25 答えはo.25ダースパーセントになるね。」

部長 「まあ要はそんな感じ。説明し直すか。箱の中に12本鉛筆が入っているとしてくれ。まず質量パーセント濃度では鉛筆1ダース12g、箱を64gにとすれば36/36+64で0.36。」

副部長「36パーセント。一年生くんの為に100はかけてあげようね。」

部長 「わるい、かけないのが癖なんだ。で、ダース濃度では12本1ダースが一つの箱に入っているから1ダースパーセント。どっちも割合を表しているが何が違うか。質量パーセントでは当然質量の割合。それも箱も鉛筆も分け隔てなく全部質量を考える。後はみているもの、この場合は鉛筆、それの含まれている質量の割合、さっきの例では36%がそれになるな。これが最初に質量パーセントを話していたような溶液なら、溶質のことになる。大丈夫?」

1年生「はい。」

部長 「質量パーセントはそんな感じ。それがモル…、ダース濃度では溶媒にあたるものが箱、溶質は鉛筆の本数になる。この時溶質の種類は問わない。たとえボールペン1ダースで、一本16gになっても1ダースパーセントだ。……思い切って箱と鉛筆に代えた不都合がでてきたな。」

1年生「それは説明してもらっても?」

部長 「いや、保留。今は保留にさせてくれ。代わりに他の質問は?」

1年生「…うまく言えないですけど何でダースで数えるんですか?要は一箱にダースではなく、そのまま何本でいいのでは? 0.25ダースとか分かりにくいですし。」

部長 「なるほど、それもダースに代えた弊害になるか。まあ二つ理由があるかな。まず単純に1ダース12本と少ないからそう思うだけ。本来のモルは途方もなく多い。6.0×10^24個。」

1年生「え? 10^24?」

部長 「億×億×億。…多いだろ。」

1年生「はい、だから一定数でまとめて数えたいと。」

副部長「ダースももともと多いからまとめたいのだろうしね。1200本注文するより10ダースという具合にね。」

1年生「そういわれてみれば。もうひとつの理由は?」

部長 「1モルでないと重さが分かりづらいから。鉛筆の例でいえばダースでしか値段表記がないみたいな感じ。小売りしていない。……これも説明しづらいな、保留。」

1年生「まあ何となく分かったので。」

部長 「ん、すまんな。最後に教科書の説明を前後してまでこれを説明したかったかだ。」

1年生「前後してたんですか。」

部長 「まあな。意外とつまずく人もいる範囲だし最初に説明して後でもう一度話せば盤石かと。それよりも私が話したかった理由はこの濃度を扱う理由。それは、化学は現象を扱うからだ。」

1年生「現象を、ですか?」

部長 「そう、単純な話、化学ではAとBという物質が出会って何かが起こる。その時質量をみていても分かりづらい事が多い。一箱に196gのAと一箱に172gのBが反応して一箱に232gのCができ一箱に136gのBが余った。当然箱も重さに含めてある。それに比べて一箱に6個のAと一箱に3個のBで一箱に3個のCができ一箱に3個のBが余ったとした方が現象としては分かりやすい。質量ですると箱も対象になるが、個数だと箱は箱だ。ま例えが強引過ぎるけどな。」

副部長「折角だから比べてみよう。さっきの例の箱を100gとして質量パーセントにするとAは約50%、Bは72%で反応後Cは約57%でBは約26%これがダースパーセントではAでは0.5ダースパーセント、Bは0.5ダースパーセント、反応後Cは0.5ダースパーセント、Bは0.25ダースパーセントになる。ダースパーセントにしたことで何か分かりやすくならなかったかい?」

1年生「AとBは2:1で反応した?」

副部長「そう、質量パーセントでは反応した比は分かりづらいけどダースパーセントでは一目瞭然になる。」

部長 「ちなみにさっきの例ではAは1個16gでBは12gだ。まあ、最後に中和滴定までいったらもっと理解できると思うよ。感動が伝えられず申し訳ない。」

1年生「感動?」

部長 「こんな機能的な濃度表現美しいだろ。」

1年生「……え?」

副部長「だから変態なんだよ。」

部長 「くそっ。」


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