HR
1年生「先輩方、一つ訪ねてもいいですか?」
部長 「……。」
副部長「ええ、どうぞ。」
1年生「何でここの部室は理科実験室なんですか?」
副部長「突然だね。どうして疑問に思うのかい?」
1年生「それは、ここが文芸部だからです。それに、空き教室なら他にも沢山あると最近知ったからです。」
副部長「それは、つまり他にも相応しそうな部屋があるのに、なぜ、わざわざここなのか? ということかい?」
1年生「ええ、そういうことです。」
副部長「私が知っているのは、ここはもともと科学部だったこと。私たちの先輩の科学部員が不祥事を起こして廃部になった。そこを部長が貰って来た。って、ことくらいかな。あとは貰って来た張本人に聞いてみるといい。」
1年生「部長、詳しく聞いてもいいですか?」
部長 「…化学が好きだからさ。」
1年生「科学が好きだからですか…。」
副部長「少し経緯を足すと。もともと科学部に入りたかったけど、自分が入学した前の代で潰れてしまっていて、新設しようにも科学部では審査に通らないから、文芸部にして、無理やりこの教室を貰ってきた。という経緯になるね。部長、もう少し対応しないと嫌われるよ。」
部長 「残念ながら、いつかは変態として避けられる身分だ。ついでに嫌われても問題ない。」
副部長「去年の新入部員がそうなったからって、今年もそうなるとはかぎらないよ。」
部長 「だといいけどな。」
副部長「後ろ向き過ぎるね。一年生君、この際聞いておきたいことを聞いてみるといいよ。」
1年生「えっと…? この際?」
副部長「これでも、機嫌が良さそうだから。」
1年生「え?」
副部長「まあまあ、気にせずに。」
1年生「ああ…、えっと…。では、部長が読んでる本(マクマリー 有機化学 中)も科学が好きだからですか?」
1「そうだな。有機化学が特別好きというわけではないが…。それでも文系よりは化学は好きだろうな。」
1年生「話を戻しますが、科学が好きだという理由でこの教室を確保したってことは、何か実験もするんですか?」
部長 「多少、こそこそとな。一応打算くらいあって確保したさ。実験くらいしたいとね。ただ…中和滴定すらできないけどな。」
副部長「そうかい? 出来ないことはないだろ?」
部長 「ビュレットがなくともやろうと思えば。そうだな、適当なビーカーにそれぞれ体積既知の試薬を入れてピペットで滴定。後は減った体積をメスシリンダーで測るか……。信頼性ゼロだな。」
副部長「それは確かにね。」
1年生「あの、中和滴定ってなんですか?」
副部長「(ああ、スイッチを入れた。)」
部長 「まだ中和滴定まで習ってないのか……。よし、明日は部活をしよう。」
1年生「え、どうしたんですか? 今まで休日に部活はしていないのに。」
副部長「そうだね。偶には休日にも部活動をしようか。」
1年生「あの~。ここって本読んでるだけの部活ですよね?」
副部長「秋までには、文集も作りたいしね。」
1年生「いや、秋ってそんなに近いですか?」
部長 「さて、今日は帰るか。」
副部長「今日はお開きって事で、話は明日しよう。」
部長 「ほら、一年生君も片づけろ。鍵しめるぞ。」
1年生「え、あ……、はい。」
1年生「(納得はできないけど明日も部活に来ることになった。)」