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ジュンて呼ばないの?

 「カミバヤシって呼びにくいからだって」と私は訳を話す。

「ふうん…嫌じゃないの?嫌がんなよ、もっと」

あれ?ウエダと同じような事言ってる。

「ちょっと気持ち悪いかなって思うけど、そこまで嫌な感じはしないよ。水本先生なら別に」

「水本の事好きなの?」

「…普通に良い先生のような気がするけど」

「もう~~」

何が『もう~~』なのかアキラは私をなじった。

「アキラは水本先生嫌いなの?」

「私のジュンなのにぃ~」アキラが笑って言う。

アハハ、と私も笑った。

 なんかこういう会話、女子っぽいね。嬉しいな。



 が、「カミバヤシ!」と結構大きな声でウエダに呼ばれて、私とアキラの女の子会話は強制終了だ。

 驚いてバッと見てしまう。まだカリヤさんがウエダの席の脇にいるが、ウエダは自分の机の上に鞄を掴んで乗せ「お前も鞄持ってくよな?」と続けた。

「お前?」私ではなくアキラが速攻で反応した。

「え?」と言ってアキラが私を睨む。「ウエダにお前って言われてんの!?」

言われてんの、って、ウエダが勝手に言ってるだけだよ。

「そっちは絶対許せんな…ウエダ!」アキラが叫んだ。「ジュンをお前って呼ぶな。カミバヤシさんと呼べ」

「鞄!」ウエダはアキラの言っている事には答えない。「早く取れって。行くぞ」

 カリヤさんが結構冷たい目で私を見てるんだけど…カリヤさんに訳を話したいな。明日の日直だから二人で1年担任控室に行くだけだって。



 ロッカーに鞄を取りに行くと、ウエダも私の方へ動いた。

「ウエダくん!」とカリヤさんが呼ぶ。「…今日が無理だったら気が向いた時でいいから」カリヤさんはもう一度ウエダにメモを渡そうとする。

 おっ、カリヤさん、押しが強いな。さすが。



 「あぁ…」ウエダがカリヤさんを振り向きもせず冷たく言った。「悪い。無理だから」

 何が無理なんだウエダ。女子にそんな言い方すんなよ。二人のやり取りが気になる私だ。そして二人の間に入りたくないとも思う私だ。

「ほら行くぞ」ウエダが私の腕を掴んだ。

「あ、ちょっ…ウエダ!」と呼んだのはアキラだった。

 私は腕を掴まれて教室から連れ出されながらアキラを振り返った。アキラがなんとなく哀しそうな顔をしたように見えた。

 「ウエダ君!」とカリヤさんの呼ぶ声も聞こえた。

カリヤさんの方は見ないようにしてしまったけれど。



 「ウエダ君」今度呼んだのは私だ。

「なに?」

教室から出て、まだ私の腕を掴んだまま私のななめ前を歩いていたウエダが、そう聞きながらやっと腕を放してくれた。

 一年担任の控室は、1年の教室がある第2棟校舎の2階のいちばん端にある。うちの1年7組はその階の反対側の端。端から端までの移動。

 途中何人もの女子が私たちを見た。



 聞きたくないし聞かない方がいいのだろうが、カリヤさんの事が気になる。だって私が邪魔した感じになってない?でもほっといたほうがいいよね?私が口をはさむことじゃない。

「ラインのID渡された」とウエダが言った。

聞いてないのに。でもそうだと思った。

 うちの学校は携帯電話の携帯が禁止。所持はかろうじてOKなのだが、校内では絶対に電源を切らなければならない。操作してる所を先生に目撃されたら親が呼び出され、2回目以降見つかったら自宅謹慎になるという校則がある。

 だからカリヤさんはメモを渡していたのだ。

 「そいで返した」とウエダが続ける。

聞いてないって。見てたけど。そんな事私に言わなくてもいいのに。

「ああいうのオレ嫌い。まだそんな話した事もねぇのに」

嫌だそんな事まで聞かせないでよ。



 ウエダが言わないので、失礼しますと私が言って控室のドアを開けた。

 いちばん奥の席にいた水本がこちらを見て、ひらひらと手を振る。

「こっちこっち、中入って来て」

挙げた手で今度は手招きをする。

 私たちは言われた通り水本のいる奥の方まで進んだ。私が先に、水本が私の後ろをついてくる。

 「これさ、」と言って水本が自分の机の上に交互に重ねたプリントの束を指して言った。「今度の鏡が原に行く合宿のプリント。5枚つづりだから、順番に組んでホッチキスで止めて欲しいんだよね。明日のホームルームで説明するやつなんだけど。明日グループ分けとかするから」



 5月の末に合宿があるのだ。

 県北の結構標高の高い山の中腹にある青少年研修センターみたいな所を使った1年生だけの合宿。2年生は秋に修学旅行に行き、3年生は進路相談を含めた合宿が夏休みにあるらしい。

 「楽しみ?」と水本がニッコリと笑って、私たちを交互に見て聞いた。「これで結構クラスの絆が深まるところは深まる。深まらない所はまぁしょうがないけどね」

 あ、と思う。水本のこういう感じが好きだな。



 「隣の応接室使ってやってくれる?」と水本が言う。「二人でそれ、持ってって。ちょっと重いけど」

 「カミバヤシ」とウエダが言った。「オレがプリント持つからお前オレの鞄持って」

「あ、うん。ありがとう」

「あれ?」水本が言う。「ウエダはジュンて呼ばないの?」

「「へ?」」ウエダと変な声を合わせてしまった。

「ウエダが呼びやすくなるように呼んでやったのに」と水本がウエダに笑う。

「え?」ともう一度疑問の声を上げる私。

そして、ちっ、と舌打ちをするウエダ。うわ、先生に舌打ちした!





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