ウエダにバレてる?
ありがとうウエダ、と思う。
フレンドリーな性格じゃなさそうだと思っていたけれど、私のそういう姑息な所に気付いて、言った方がいいって思って言ってくれたんだな?
不思議なものだ。アキラにさっき注意された時にはちょっと嬉しく感じたのに、ウエダに言われたら、感謝しなきゃと思う反面、イラっと来ている自分もいる。
たぶんまだウエダとあんまり喋った事もないからだと思うし、いきなりお前呼ばわりされたせいかもしれない。
人の感情って難しいね!
「お前ってタケノシタが好きなの?」ウエダが何の前触れもなくそう聞いた。
「え!」…え~~~~…
「ううん」と首を振る。
「あ、違う!」
そして慌てて否定した。これだと私がタケノシタ君を『嫌い』って事になってしまう。…そんな…4回も『今日の好きな人』に挙げているタケノシタ君に対して失礼だよね、それじゃあ。
「あの…」と躊躇する。
なんて答えたら4回も好きな人にしたタケノシタ君に対しても失礼じゃなく、かつ私がタケノシタ君を普通に良いクラスメートとして認識してるって、ウエダに伝わるんだろう、と短い時間の中で考える。
「好きっていうか、すごく良い子だと思ってる。みんなに気配り出来るから」
ニコッと笑顔まで付けてみたが、ウエダがじっと私を見て来るので私はいたたまれなくなって前を向いた。
そうだよね…「すごく良い子だよね」なんて。何目線かっつう話だよね。近所のおばちゃんか私。
でも!どうしてウエダに気付かれたんだろう…
ビックリした~~~マズいマズいマズいマズい…今日だって、昼ご飯を食べる時にチラ見して以降、タケノシタ君の事を目で追ったりはしていないのに。
いや、もしかしたらタケノシタ君の事は4回も好きな人に選んでるから、自分でも気付かないうちに目で追ってたのかも…んん~どうかな…良い子だとはすごく思ってるけど、付き合いたい、と思うような好きじゃないんだよね。そもそもそれくらい好きな人ができたら『今日の好きな人』設定いらないし、好きな人をつくらないと決めたからこその好きな人設定だし。そしてタケノシタ君も、付き合いたいと思ってるわけでもない私に、そっとチラ見されてるなんて知ったら不気味に思うに違いない。
ここは「タケノシタ君をただ良い人だと思っている私」で通そう。
そう思ってもう後ろは振り向かず、かといって席を離れる事も出来ず、指摘された驚きと気まずさをもったままずっと前を向いていたら、6時間目始まりののチャイムと同時に私は後ろから背中の真ん中を、つっ、と押された。
つん、じゃなくて、つっ、って感じで。
やっと冬服のブレザーを脱いでカーディガンを羽織った中間服の背中に。
へ?え?ウエダ?今私の背中を、つっ、って触ったのウエダだよね?ウエダしかいないし、後ろには。
私また、猫背になってた?
チャイムは鳴り終わり、授業中だからもちろんそんな事は聞けず、後ろを振り返る事も出来ない。授業中じゃなくても確かめられなかったと思うけど。だって何であんまり話した事もないウエダが、急に背中を触ってまで猫背を注意してくれるのかわからないから。
6時間目の現代社会の授業を受けながらも、背後のウエダが気になり続けたが、私は出来るだけ背筋を伸ばしてよそ見をせずに授業を聞き、授業終わりには、さっきの、つっ、ってやつはなかった事にしよう、と思った。
確かに私は背中に指の感触を感じたけど、もしかしたら勘違いかもしれないし。
6時間目が終わって掃除の時間までの5分で鞄を片付ける。
もちろん後ろの席のウエダの事が気になってはいるのだが、つっ、ってやつはなかった事にすると決めたので、全く気にならない感じで、しかももう指摘されないように姿勢に気を付けながら机の中のものを鞄に詰める。
「なぁカミバヤシ」
ビクッとしてそっと振り向く。呼んだのはウエダだ。
何?背中を指で押した事?
「カミバヤシって呼びにくい」
あぁ…あぁそう、って言っていいのかな…
「…」無言でウエダを見つめてしまった。
「見んなよ」
え~~~~!呼んだじゃん!
私はまた荷物を鞄に詰める。
ウエダも、背中をつっと押した事については何も言わない。
私の苗字のカミバヤシは呼びにくいので、少し慣れてきた女子だと私の事を「ジュンちゃん」と呼んでくれる。
「ジュン」と呼んでるのは今のところ、このクラスではアキラだけだ。そんなに親しくなった男子はいないから、たいていの男子からは「カミバヤシ」か「カミバヤシさん」。呼びにくくても呼ぶ事があんまりないから誰も困らないんだと思う。
ちょうどそう思っている時に教室の入り口の所から私は名前を呼ばれた。水本だ。
「ぅおぉい、カミバヤシぃ」