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アキラは選ばない

 アキラには好きな人がいるのかな。

 アキラの事は大事な友達だと思っているけれど、まだ知り合って1カ月ちょっと。アキラからもそんな話を聞かされた事も聞かれた事もないから私もしない。

 そして私は『今日の好きな人』にアキラを選んだ事はない。

 女子を『今日の好きな人』に選ぶ時もあるが、それは実際に付き合ったりチュウしたり触り合ったりするわけじゃないから女の人も有りなのだが、アキラは一昨日選んだタケダさんとは違うのだ。

 タケダさんは隣のクラスの女子で、一昨日好きな人に選んだのは靴箱の前でぶつかりそうになって、「あっ」とただビックリした私に、「ごめん!良く見てなくてごめんね」とすぐ言ってくれた笑顔がとても綺麗だったから。 隣のクラスだったし、チラ見どころか一昨日は、2時間目と3時間目の間の休憩に行ったトイレで偶然またすれ違っただけで終わった。



 アキラの事は普通に毎日好きだと思っているし、私の実生活にもうがっつり登場しているので、まずチラ見の意味がない。こっそり好きでいて、こっそり見てます、みたいな感じにはいかないのだ。

 『今日好きな人』設定みたいな企画を立てているバカな私でも、いちばん親しい友達を好きな人に見立てるのはさすがに抵抗がある。

 


 アキラに好きな人はいるのか考えるのは、アキラがたまに自分の事を、男の子だと自分から仮定して行動してるんじゃないかなと思う事があるからだ。

 そう、それが例えば今日の昼休みの事。



 「ジュン。ほらこれ食べな。山形の親戚から送って来たさくらんぼ」

弁当を食べ終わった後、アキラが小さな黄色い蓋のタッパーを取り出し開けて見せた。

 大粒で艶のある澄んだ赤色のサクランボが10個入っている。

 「きれいだねぇ」と言うと、「ほら」と一つ、軸をつまんで私の目の前にぷるん、と差し出した。

「はい、あ~~ん」とアキラが言う。

「え、私食べさせてもらうの!?」

「自分で食べたい?」ぷるん、ぷるん、とさくらんぼを揺らす。

と、いう風な感じ。



 私の目の前でサクランボを揺らすアキラに、「ん~、どっちでもいいけど」と私は答える。

「どっちでもいいんだ!」と喜ぶアキラ。

意味がわからん。

「私の事を好きな女子はね、自分から食べさせて欲しがる事あるんだよね」

「それ、ほんと?」

「マジで。か、逆にこっちから『食べさせてあげる』っていうと、不審な程拒否し過ぎたりね」

「こんなこと言ったらゴメン、それ、考え過ぎじゃないの?…ていうか、私がそんな反応を示すか、もしかして試してんの?」

「いや、そんな反応を示すか試してない。ジュンなら絶対そんな反応をしないって事を確かめてる」

 めんどくさ…と思うがもちろん口には出さない。それでさくらんぼは食べていいんだな?



 「いただきます!」と言って一つ、つまんで口に入れる。おいしい!あ、でも種どうしよう…

「ほら、ここに吐き出して種」アキラがティッシュを広げて私の口の前に持って来てくれる。

「ありがとう」種をもごっと言わせてティッシュを受け取りプッと吐き出す。

「おいしいね」と私が言うと、「おいしいよ」とアキラが言った。

「全部食べていいよ」と言ってくれる。

「え~いいよアキラも食べなよ。せっかく持ってきたのに」

「私まだ家にある。ジュンにおいしいさくらんぼ食べて欲しかったんだ。ほら、2個目いきなって」

 私は言われるままもう一つつまんで、口に入れる前に軸をぶらぶらさせて見つめた。窓からの光が、つるん、としたその表面に当たってとても綺麗。

「綺麗な色合いだよね~」

「寄り目になってるよジュン。可愛いな。ほら、早く食べなって。昼休みなくなっちゃうよ」


 

 なんかよくわかんないけど…アキラ、こういう感じで他の女子にも接してたら、見た目も美少年ぽいし、身長だって170近くあるし、どうやったって女子にモテちゃんうんじゃないかな。

 きっとアキラに赤面してモジモジしちゃった子は、中学生で男子にも免疫なくて、イケメンなアキラにキュンときちゃったのかも。



 結局さくらんぼは私が7個もらい、アキラが3個食べた。

 机の上を片付けながら「おいしかった~」と言う私に、「じゃあ行こう」と言ってアキラが先に席を立ち、私たちはいつものように中庭へ。

 ご飯を食べた後、天気の良い日はいつも中庭に降りる。雨の日は1階の体育館へ続く渡り廊下へ。食後の散歩なのだ。

 一日のうちでこの時間がいちばん好きだ。同じクラスにアキラがいて良かった。私に話しかけて来てくれて良かった。アキラとは無理して喋らなくていいから、普通に一人でいる時の私に近い感じで過ごす事ができる。

 それは気を使わないですむ、と言うのとはまたちょっと違う。私だってアキラに気を使うこともあるし、それでも気を使っても使わなくても、アキラはどうでもいいみたいに対応してくれる。私が喋っても喋らなくても、そんなのはどうでもいいと思ってる感じで接してくれるのだ。


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