イマイアキラは友達
まぁ…でも…入学してからずっとやってるから、そろそろ好きな人設定もちょっと飽きてきたかな!
楽しいっちゃあ楽しいけど、それもだいたい昼休みくらいまでだ。
今日のタケノシタ君なんか選ぶのもう4回目だし。これ以上タケノシタ君選んだら本当に好きになっちゃうかもしれない。…ていうかもしかしたらもう好きなのかな。だって4回も選んでるもんね…んんん~~…
心の中で唸って考えるが、どうしてもタケノシタ君を目で追っちゃうの~~、っていう感じまでにはいかない。チラ見で充分。失礼な言い方だけど…。
タケノシタ君は普通の子だ。
静か過ぎるわけでもないし煩くもない。地味ではないけど派手でもないから、かっこよくて女子にモテモテ、という感じでもないけれど、絶対に女子の誰にも嫌われてはいないと思う。もちろん男子にも。誰にでも普通に接することができるから、本当は普通じゃなくて、すごく良い子なんだと思う、きっと。
高校に入学して1カ月ちょっとだから、まだみんなたぶんおとなしめだし、本当のタケノシタ君は私が今チラ見しているタケノシタ君とは全然違うのかもしれない。
…わかんないよね、1年一緒にいたって、1年くらいじゃその人が本当はどんな人かなんてわかるわけがない。
それでもこういうタケノシタ君みたいな、普通にきちんとしている人がいちばんモテるべき人なんだと私は思うんだけど、女子はなぁ…顔や存在感で選び過ぎだからな…
私は本当のところどうなんだろう。もし仮に…、もし仮にってこの『好きな人設定』自体が仮なのに…
本当のところ、タケノシタ君を本気で好きになったとしても、まず告る事はない。タケノシタ君だけでなく、誰を好きになっても私は絶対その人に、自分から「好きです」なんて言う事は絶対にできない。誰かを好きになったら、その人の視線にそれとなく入るように頑張って、なんとか自分を意識してもらうという手段しか取れないと思う。今までもそうだったし。でもうまくいった試しはないし。
まず私は、タケノシタ君には中学の時から付き合っていた彼女が他校にいるらしいというのを知っているのだ。カナヤと話しているのを聞いてしまった。実際ちょっとショックを受けた私だった。その日もタケノシタ君が好きな設定だったから。
…やっぱもう本当に好きなのかもしれない…いやぁどうだろう…好きは好きだけど、彼女にしてもらいたいとまでは思わないかも。
…何様だ私。ちょっとショック受けたくせに。
従姉妹のチハルちゃんに言わせるなら、タケノシタ君とその他校の彼女もそろそろ自然消滅する頃だろう。
でもタケノシタ君を見ていると思うのだ。きっとタケノシタ君ならその彼女をとても大事にしてるし、彼女もタケノシタ君が選ぶくらいの人だからきっと、ちゃんとした可愛いくて良い子に違いない。だから二人は大丈夫。…大丈夫であって欲しい。
実際私はタケノシタ君とあんまりちゃんと話した事もないのだ。しかもそれは担任から頼まれた伝達事項を告げた時と、後は化学基礎の時の化学室での席が同じテーブルなので、そのグループでのほんのちょっとした会話。
まぁあんまりいろんな事を知らない方が、うっすら好きでいるのには都合がいいんじゃないかと私は冷めた考え方をしている。
昼休み。私はイマイアキラと弁当を食べる。
イマイアキラは女子だ。
私は今のクラスに同中の子が二人いるのだが二人とも男子で、入学してすぐ、お弁当どうしよう、と思っていた所に同じような境遇のイマイアキラが声をかけてくれたのだった。
おお!?とその時私は思った。イマイアキラがとても綺麗な子だったから。
「私イマイアキラ。男の子みたいな名前ってもう100万回言われててうざいから絶対言わないでよ?」
イマイアキラは今井明良。綺麗でカッコいい名前だ。
名前の通り、アキラ自信もカッコいい。ショートカットでさばさばした性格なのだが本当に綺麗な子で、私に声をかけて来てくれたのが腑に落ちないと言ったら変だけど、もっときらびやかな友達をいくらでもすぐつくれそうな感じなのにと思った。
アキラは私の事を「ジュン」と呼ぶ。
私の名前はカミバヤシジュン。上林潤だ。上林が言いにくい、と言ってアキラは私を最初からジュンと呼んだ。
ジュンとアキラ…少しむかしのマンガに出てきそうな主人公二人の名前、って感じ。
アキラは周りの女子たちから「カッコいいから」という理由で、幼稚園の頃からずっとただ「アキラ」と呼ばれているらしい。高校になってからはまだいないらしいが、中学の時は実際に女子に1回告白されたと教えてくれた。
「いや実際」とアキラは自信たっぷりに言ったのだ。「告白されたのは1回だけだけど、明らかに私を男子寄りの存在として見てる女子は結構いた。一緒に委員になった子とか、日直やった子とか、なんかちょっと意識が変わるっていうか、体育祭の二人三脚で組んだ子も結構赤くなったりしてもじもじして、こっちが気まずかった」
「そっか」と私は相槌を打ったが、本当かなともその時思ったのだ。アキラはカッコいいけど気が利いてるし優しいし、ガサツな私よりよっぽど可愛らしいと思っていたからだ。
が、その見解はアキラと1カ月過ごした事によって変わってきた。
例えば今日の昼休みもそうだ。
昼休みにはいつも、アキラが私の席に弁当を持ってやってくる。
私の席は窓際の後ろから2番目。特等席だ。
教室の中では窓際の後ろから2番目と3番目が特等席。まず外を見れるし、前からは4番目、5番目なので、そんなに目立たない。だいたい当てられるとしたらいちばん前かいちばん後ろなので、順番に当てられる時にはワンクッションある。
私の前の席のスギモト君が別の席に移動して食べるので、アキラはその椅子を借りて、私たちは私の机で食べるのだ。
弁当を食べてる最中にもほんの一瞬だけタケノシタ君をチラ見してみる。 本当にほんの一瞬だけ。カナヤと喋りながらおにぎりをほおばっているところを。
私のこの、日替わり『今日の好きな人』の事はアキラも知らない。
言えないよね。楽しいっちゃあ楽しいけど自分でもバカみたいだとも思うもん。知られたら恥ずかしい。本気で好きになった人を知られるより恥ずかしいと思う。