気まずい時間
うわもう…どうしよう…超気まずいこの時間。相手が女子でも、慣れてない人と二人きりだと、どうも緊張してしまうのに。
「なぁ」とウエダが言うのでビクッと身構えてしまう。
「…何?」
「名前順でも席順でもいっしょだったのにな」
「…」私とって事だよね?「…うん」
「お前、どっちにも手ぇ挙げてなかったけど?」
「うん。名前順でも席順でもどっちでも良かったから」
「え?」
「名前順ならアキラが一緒だから嬉しいけど、いつもアキラとばっかりいるから、他の人と班を組むのもいいのかな、と思って。で、隣の席のイケダさんが名前順でも席順でも一緒だから。私イケダさんとはあんまりいろいろは話した事ないけど、イケダさんはすごく感じいい人だと思うから、一緒で嬉しいなと思って」
「…なんだ…」とぼそっとウエダが言う。
「でも」私は言ってみる。「くじだとちょっと怖いね」
「何が?」
「名前順か席順だったら一緒になる人がもうわかってるけど、くじだとみんなが引いてそれを表にした後で教えられるんでしょう?ほとんど喋った事のない人と一緒だったら思うと、ちょっとそわそわする」
「まぁな。…お前さ、あんなふうなイマイの事、ちょっと鬱陶しくなったりしないの?」そう聞かれてちょっとムッとしてしまう。
「鬱陶しくはないよ。普段のアキラがずっとあんなだったら嫌だけど…たぶん、…ごめん言い方悪いかもだけど、ウエダ君が一緒だからだと思う」
「あぁ…中学の時の話聞いたの?」
「ちょっとね」
「オレの事嫌な感じだと思ってんの?」
「う~~ん…」ちょっとそう思ったけどね。でも…
「私はその場にいなかったからわかんない」
中学の時のウエダが、本当はどんな感じだったか知らないものね。
もうちょっとで作業が終わる、と思ったところへ「ぅお~~い」と言いながら教室に入って来たのは水本だった。
「終わった?」
「もうちょっと」とウエダが答える。「後で日誌と一緒に控室、持ってくから」
「こらこら」と水本が言う。「『持って行きますから』だろ?」
そう言いながら水本は、ささっ、と私たちの横へやって来て、「お疲れ。はい!」と言ってそれぞれの前に2個ずつ小さなミルクチョコレートを置いてくれた。
「ごめんごめん邪魔してウエダ~~」と歌うように、にやにやしながら水本が言う。「せっかくなぁ」
「うるさい、余計な事言わなくていいから」とウエダがすごく嫌そうな顔をする。
「せっかくどっちに転んでもジュンと一緒だと思ったら、まさかのくじだもんな。くじだとオレもどうしてやる事もできないな」
「してもらわなくてもいいって」
「しかもさ、そのくじをつくらなくちゃいけないもんなぁ~。くじだと一緒の班になれない。でもくじは一緒に作れる、みたいな、な?」
「もういいって!」吐き捨てるように言うウエダ。
え?という顔で水本を見つめてしまう。ふん?と笑顔で見返す水本。ほんの少し見つめ合ってしまう。
「ジュンはあれだな」水本が言った。「目が綺麗だな」
「へ!?」ビックリして変な声を出してしまう。
「なぁユウ。だろ?」とウエダに振る水本。
ユウ?ウエダの事も名前呼びし始めた。
「頼むから余計な事言うなって!」
「あれ?…え、もしかしてまだ告ってないの?」
「もう~~~~」ウエダがバン!と机を両手の平で叩いたのでビクッとする。「…もう…なんかいろいろ台無しだかからな!」
「…」告るって私にって事!?
私にって事?私にって事?私にって事?心の中で繰り返す私。ウエダが私に告るって事?ヤスカワたちには告ったりしないって言ってたよね?
やっぱ私の事好きなの?…ウエダが?
目を泳がせてしまう。嬉しそうに笑う水本。嫌だどうしよう…本当に告られたわけでもないのに赤くなる。今すぐこの教室から出たい。やっぱりアキラに残っててもらえば良かった。
「あいつ」とウエダがぼそっと言う。
水本が「じゃあまあ校門閉まるまで時間あるからゆっくり作りな」と笑って言いながら教室を出て行った後だ。
「あいつ、オレの父親の後輩とかで、オレを小さい頃から知ってるから」
「水本先生が?」
「そう。他のやつには秘密な」
「うん、わかったけど」と言ったらウエダとしっかり目が合ってしまってバツが悪い。
水本の話だとウエダは私の事が好き事なんだよね?
でもなんで?後ろの席だって以外に特に接点なかったし。1回目の日直も私が休んで一緒にはやってないのに。