名前順か席順か
私とウエダが取りに行ったプリントのつづりを水本が配り終えると、ホームルームが始まった。
プリントを順に追っての説明。
「2日目の野外活動の班なんだけど」と水本が言った。「男女の混合班を作ります。男女助け合って丸一日過ごします。後、班同士でも助け合って作業したりするから、まだあんまり打ち解け合ってないクラスがこれで結構仲良くなれたらいいよね。まぁあんまり一生懸命やり過ぎてもいけないけど。明るく楽しく過ごせるように、各自周りの人に気を配りながら団体行動出来るように心がけましょう。でぇ~、ほら、うちのクラスは36人、男子女子18人ずつだから6班作るにしてもピタッと割れて気持ちいいよね!」
水本のその言葉に、そんなにみんな反応しない。
「その班なんだけど、今の席順で教室を横2列縦3列で6つに割るのと、名簿順で前の方から3人ずつ組んで行くのとどっちがいい?」
「え~~」とか「お~~」とか「オレ、誰とだっけ」とかそういう言葉が飛び交う。
名簿順だとアキラが一緒だ。
隣の席のイケダユリさんと、イマイアキラ、そして私。…あれ?じゃあ私どっちにしろイケダさんと、後ウエダが同じ班になるんじゃないの?そう思ったらイケダさんがこっちを見て言ってくれた。
「カミバヤシさん、どっちでも一緒の班だね!」
「うん!」
ニッコリ笑ってくれるイケダさん。
隣の席のイケダさんは良い子だ。結構さっぱりした子で、それでもアキラのようにクールな感じはあんまりしない。いつもポニーテールにしてて背はアキラよりちょっと低いくらい。私よりは高いけど。バレーボール部に入っていて、中学からずっと続けているらしい。
アキラとイケダさんが一緒だったら嬉しいな。
水本が声を張り上げる。「じゃあ決をとりま~す。名前順がいい人~~。はい手ぇ降ろして。…じゃあ今の席順がいい人~~。あれ?どっちかに挙げなきゃ、みんな」
「先生!」言いながら立ち上がる女子。カリヤさんだ。「くじがいいと思います」
めんどくさ、と思ったら水本も反論した。
「え~~~」水本があからさまに嫌がる。「めんどくさいし、時間かかるよ」
水本のこういうとこ好きだな。
ざわざわっと揺らぐ1年7組。
カリヤさんはきっとウエダと同じ班になりたいんだと思う。こんなふうにみんなの前で提案するようなキャラじゃないのに手まで挙げて…しかもカリヤさんはこう続けた。
「くじがいいと思う人、手を挙げてください」
さらに揺らぐ1年7組。
あ、結構半分くらい手が挙がった。女子が多いな。
やっぱカリヤさん、本当はすごく押しが強いよね。ウエダにメモ渡そうとする時もそうだった。可愛くて女の子っぽさを前面に出そうとはしてるけど。
「あ~~わかった」水本が嬉しそうな顔で言った。「みんなさぁ、席順でも名簿順でも一緒になれない好きな人がクラスの中にいるって事だなぁ?」
ざわざわざわ…
「そっかそっか、そりゃそうだよね~、せっかく男女の距離が縮まりそうな行事だもんねぇ。そりゃ好きな人と一緒になりたいよね!」
ざわざわざわ…
「僕たちんときもさクラスに…」と水本が言いかけて止める。「お~~ヤバいヤバい…今みんなの前で赤裸々に自分の高校時代の思い出語るとこだったわ」
ざわざわざわ…
「はい、じゃあもうざわざわしない。じゃあ今日の日直、悪いんだけど放課後くじ作ってよ。それで明日のショートホームルームでババッとくじ引いてさ、もうそれで決定だからね。文句言いっこなしな?学級委員の二人、明日表にまとめて僕んとこ持って来て」
ちょっと待て水本。昨日、明日の日直だからって残されてそして今日も?昨日の法則使ったら今日のくじ作りは明日の日直がやるべきなんじゃないの?
「いい?ウエダ」と水本が聞く。
「はい」私の後ろからした返事。
え?
ウエダを思い切り振り返って睨んでしまった。
「ジュンもいい?」水本が付け足すように聞く。
いやぁそれはどうかな。手を挙げて提案したし、ちょうど明日の日直だしって事で、カリヤさんと男子の4番が責任もってやったらいいんじゃないの?男子の4番て誰だっけ…
「先生」言いながら立ち上がったのはアキラだ。「今日の日直さん、昨日も残って仕事手伝ってましたけど、そういうのって公平じゃないんじゃないですか?」
「あ~~」と水本が中途半端に宙を見上げながら言った。「なんかいろいろあるんです」
なんだそりゃ…
クラスもざわざわざわ…
水本が続ける。「昨日はウエダとジュンにやってもらうのが僕的にちょうど都合が良かったの。今日もウエダがやってくれるって言ってんだしいいじゃん。な?ウエダ?」
「まぁ仕方ねぇから」と答える後ろのウエダ。
ざわざわざわざわざわざわざわ…ウエダが仕事を簡単に引き受けた事に対するざわざわ?
水本だけがうんうんと、嬉しそうに笑顔でうなずいている。