アキラの告白
「…アキラ、もしかしてウエダが好きなの?」
私もいつしかウエダを呼び捨てだ。
「違う。どうしてそうなんの?」アキラはむっとして言った。「私は…ジュンが好き」
「え…」
「あ、違う。例えばジュンとそういう女の子同士の恋愛みたいな感じになりたい好きなんじゃないよ。…いや、ぶっちゃけていうと、たまにそうなんじゃないかと思う事あるけど、違うと思うんだ」
「…そう…なの?」と言うのが精いっぱいだ。
私もアキラの事は好きだけど…
「私さ」とアキラが告白する。「名前も見た目も男の子っぽいけど、中身は別にさばさばしてるわけじゃないの。人に対する好き嫌いが激しくて嫌いな人からはなんて思われてもいいって思ってるから、さばさばしてるように見えるんだと思う。本当は独占欲とかがすごい強いんだよ。ジュンの事が友達としてすごく好きなはずなのに、ジュンが男子と付き合ったりしたら嫌だなって思っちゃうんだよ」
「誰とも付き合わないよ?私中学の時とかも告られた事ないもん。小学校ではあったけど。そんなのアキラの方が可愛いから、私なんかよりよっぽど可能性あるじゃん」
アキラはぶんぶんと首を振る。
「私だって寂しいよ」と私は続けた。「アキラに彼氏が出来て私出来ないと取り残された感じすると思う」
アキラはまたぶんぶんと首を振った。
「私、こんな感じだから女の子ですごく仲良くなれる子あんまいなくてさ」アキラが言った。「中学の時も。でもよく話かけてくれる子がいて、だんだん仲良くなって、すごく楽しくやってたのに…その子がウエダの事を好きになって。別に好きになるのは良かったんだけど、もうその子が急に変わったっていうか、元々そういう子で私に合わせてくれてただけなのかもしれないけど、それまでしてた音楽の話もマンガの話も映画の話もあんまりしなくなって、もうずっとウエダの事ばっかり私に話てくんの。それも付き合ってないし、告ってもないのに。今日ウエダのこんなとこ見た、カッコ良かった、こんな事喋ってた、カッコ良かったって。最初は可愛いなって思ってたんだけど、そればっかりだからだんだんウザくなって来たんだよね…」
んん~~そうか…私でもそう思っただろうけど…
「しかもあんまりうざいから」続けるアキラの声が小さくなる。「もう告っちゃえばいいじゃん、そんなにウエダ見てんのならウエダも気付いてるはずだから、可愛いし成功するかもよって焚きつけて、その子本当にウエダに告りに行って振られて、振られてのに何回も告ったらしくて、最後には『もう止めてくんない?』ってウエダに言われたって。で、ウエダを好きな女の子たちにもバカにされて軽くいじめられたらしくて…それは私のせいだから私の事大嫌いって。それからどんなに私から話しかけても口きいてくれなかった」
その中学の時のアキラの友達が、従姉妹のチハルちゃんと少しカブった。
ウエダの言い方も酷いような気がする。それから周りの女子も。
「ジュンが誰かを好きになってもそんな風にはならないとは思うけどね。心配なの。そんな風になったらもうジュンじゃないような気がする」
んんん~~私もならないとは思うけど…
「私おかしいのかも」アキラが言う。「ウエダだけじゃなくて、水本がジュンて呼ぶっていうのもイラっと来たんだよね。なんかすごい嫌な感じだな私」
ううん、と首を振る。「アキラがそんな風にまで思ってくれてるって知らなかったけど、嫌な感じではないよ。アキラのその中学の時の友達が、…なんか可哀そう。可哀そうって言ったら上から目線だけど」
そこまで人を好きにならなくていいのに、と思う。
それにまだ好きなだけだったらいいけど、脈のない相手に自分を好きになってくれるのを強く望むというのはとても疲れそうだ。無理矢理誰かを振り向かせもうまくいかないと思うし。
私だったら、私の事をすごく好きだって言ってくれる男子がいて、自分もその子の事を好きになるのがいいけど…でも仮にそう言う子がいてくれたとして、今は私の事を好きでいてくれたとしても、その気持ちはそのうち変わる。チハルちゃんが力説してたもん。そんな男子ばっかりじゃないとも思うけど。
それになかなかそんな事はないし…と思いながらウエダの顔が浮かぶ。名前で呼んでいいかって聞いてきたときのウエダの顔…
私はそれを振り払うようにぶんぶんと頭を振った。さっきのアキラの話だと、ウエダはその、頑張って告ったアキラの元友達を無下に振り過ぎてる。もっと違う言い方があったと思うし、最初できちんと強く断ったら、その子だってそんなに何回もチャレンジしなかったかもしれないし。
そういう事があったから、アキラは「ウエダの事をどう思う」って私に聞いてきたし、ウエダも、アキラから何か聞いてないかって聞いてきたんだ。
そう考えていた時に「ウエダが」と、ちょうどアキラがまた言い出すのでどきりとする。
しかも結構語気を荒げてだ。「ウエダが結構ジュンの事を好きみたいで…私、ほんとに嫌」
え?
「そんな『え?』って顔してるけどジュン、気付いてるんでしょ?手もつながれてたし、ジュンて呼ばれてたし」
「でも…」ヤスカワとコバシにも、私には告らないって言ってたし。
「でもじゃない!」
きっぱりと言われてビクッとする。
「ジュン!」
「はい」
「ウエダがちょっかい出してきても自分でちゃんと見なきゃダメだからね!あいつに凄い冷たい感じで振られた女子、他にもいたし」
「じゃあ別に好きな子がいたの?」
「気になるの?」
「いや、そんなに誰の告白も断るんならきっとすごい好きな子いたんだと思っただけ」
「中学の時、私の知る限りじゃ誰とも付き合ってなかったと思うけど。女子に『どうして彼女つくんないの~』って聞かれるたびに、『めんどくさい』って答えてた」
すごいなウエダ。何様だウエダ。
「大丈夫だよ」と私は答えて、ヤスカワたちがウエダのところで私にも聞こえるように冷やかした時の事を教えた。
「告らない、って言ってたよ。別に好きじゃないんだよ。からかってるだけじゃないかなって思うけど」
「違うよ、バカだなジュン。わざわざ告らなくても好きにさせてみせる的な舐めた気持ちでいるんだって、あいつふざけやがって」
うわ~、なんか恥ずかしいそんな事…