いつ告るの?
ウエダに引っ張られるまま教室を出る。アキラを振りかえったら昨日と同じようなちょっと哀しそうな顔。
…アキラ…ウエダに雑な対応してるけど、やっぱりウエダの事好きなんじゃないかな…素直になれなくてそれであんな感じで…
手首を掴まれているのは嫌だとは思ったけど、ここであからさまに嫌がるのもカッコ悪い気がしたので、「ちゃんと一緒に行くから手ぇ放して」と小さい声で言った。
が、ウエダは同じくらい小さい声で「ダメ」と言う。
え~~~…
ちょっとこのまま廊下を歩くのは…「いやウエダ君、マジで。マジでお願い。みんなに見られそう」
ウエダが振り返って嬉しそうに笑い、「オレはいいけど」と言ってやっぱり放さない。
…うわぁ、なんだろう…どうしたんだウエダ…赤くなる私も恥ずかしい。まさか本当に私の事を好きとかそんな…
いやぁ。いやいやいやいや…接点なかったもんね、昨日までほとんど。
…そうか!私がタケノシタ君やナカムラ君や水本をチラチラ見てるから、バカなヤツだなって思ってからかってるとか?
さっきのアキラの哀しそうな顔…
アキラはウエダと唯一の同中にもかかわらずあまり仲良くしているのを見た事がなかった。男子と女子だからそうなのかもしれないけど、なんとなくアキラがウエダの事を結構嫌ってるように感じる事もあったし。昨日の放課後も今も…それなのにあのちょっと哀しそうな顔…
昨日私を待っていてくれたのも、本当はウエダと私を二人きりにしたくなかったからとか…
さすがに職員控室の前で手は放されて、それでも日誌をウエダが手に持って、その後から私もついて、一緒に教室に戻ると、教室の後ろの方のドアから入ったにも関わらず、教室にいたほぼ全員がいっせいに私たちを見た。
うわっと思って立ち止まってしまうと、ウエダが振り返って私の手首を掴んで自分の前に行かす。後は軽く背中を押して私たちの席まで誘導してくれた。
くれたっていうか、ウエダがさっき私の手を掴まなきゃ、こんなに注目されずにすんだのに。…もう嫌だ。
授業前のショートホームルームに水本がやって来て、淡々と出欠を確認し、「今日の日直のウエダとジュン」と呼ばれる。
あ~…水本も呼んだ。クラスのみんなが私たちを振り返って見る。
「あ、僕ね」と水本が言う。「カミバヤシの事、呼びにくいから下の名前の方で呼ぶけど、それはひいきしてるとか、ましてや禁断の恋とかではないので」
水本の顔は笑っているが、みんなが、しん、としている。マジ止めて欲しい!バカじゃん水本。
全く悪びれない水本は続ける。「他にも苗字呼びにくい子は名前で呼ぶから。どうしても嫌な人は言うように。それで全然呼びにくくないけど僕にぜひ下の名前で呼んで欲しいって子は、まぁ仕方ないから呼んであげる」
良かったフォロー入った。クラスもざわざわしたけれど、嫌な感じのざわざわじゃなかった。今日の好きな人、水本にしとこうかな…。
が、せっかくフォロー入ったと思ったのに、水本はまだ続けた。
「なんかよくわかんないけど、ウエダもジュンて呼ぶらしいから。でもみんなあんまり冷やかさないであげてね。呼びにくいからだから」
!!
あり得ないくらい余計な事言いやがった!もう絶対水本の事は好きな人には選ばない。
クラスはさっきとは違い低く大きくざわついた。水本はチャイムが鳴っているのに続けた。
「ウエダとジュンは6時間目のホームルームに使うプリント、昨日二人で作ってくれたやつだけど、その前の休憩時間に取りに来て」
後5分後には1時間目が始まるので、誰も席からは立たないが、ウエダと仲の良いヤスカワとコバシがちらちらとこちらを見るのがうっとうしい。
アキラは全然見てくれない。
「なぁ」と背中をつん、と押されてウエダに言われる。「黒板消しは奇数時間がお前で偶数がオレな」
私だけではなくて私の隣のイケダさんもパッと振り向いて私と目が合い、バツが悪そうに少し笑った。
朝からずっと、ウエダと水本のせいで気まずい。
1時間目終わりの休憩でさっと黒板を消した後トイレに行くと、「あ、今朝ウエダ君に手を繋がれてた子!」と何組かもわからない子に言われそこにいた全員に見られたし…怖かった。
そしてトイレから帰る時に廊下にカリヤさんの姿が見えた。
私に気付いて真っ直ぐにこっちを見るけど…昨日の今日だもんね。私に何か言いたいのはわかる。でもいろいろ、私の意思には反してるから!
私は目を反らして小走りで脇を通り抜け自分の席に戻る。…逃げたな私。
クラスの他の女子の中にも、休み時間の度に何かコソコソ話しつつこちらを伺う子たちがいたし、ウエダと仲の良いヤスカワとコバシが、昼休みを待ち切れなかったのか2時間目終わりの休みやって来て、私が前にいるのがわかっているのにウエダに聞いた。
「「カミバヤシと付き合ってんの?」」
ダイレクトだな。私もすぐそばにいるのに。ものすごくここに居づらい。でも立ち上がってどこか行くのも気まずいし、あの後アキラが1回も私の所に来てくれないので何となくアキラの所にも行けない。せっかく朝、アキラの方から話しかけてくれたのに。
「まだ」とウエダが答えた。
まだ?
『付き合ってない』、じゃなくて?
「「まだ!」」ヤスカワとコバシが色めき立った。「「これから告るってこと?」」
バカじゃないのヤスカワとコバシ。相手本人がいるすぐ横で何聞いてんだ。絶対私の反応も伺ってる。
私はそんな事出来るわけもないのに、3人の会話から気を反らしたくて外を見た。
良い天気だなぁ~~~。
「ほら」とウエダがちょっと笑いながら言うのが聞こえてしまう。「お前らがつまんねぇ事言うから、外見てんじゃん」
ビクッ!としたがどうにか頑張って無視して、外を見続ける。
「いつ告んの?」ヤスカワが面白がって聞く。
もう~!止めろヤスカワ、中学生か。そしてコバシも!私の隣の席のイケダさんにも丸聞こえだって!
「告ったりしねぇって」とウエダが吐き捨てるように言った。
え?どういう事?
「え?どういう事?」とコバシが私の心の声と全く同じ事を聞く。
ウエダが言った。「もういいよ、お前ら席に戻れ」