邂逅
日はすでに傾きかけていた。
ハルドニアの夏は短く、季節の移り変わりは突然にやってくる。まだ8月の半ばだと言うのに、火喰蜥蜴たちのコーラスはとうに止み、変わって月見狼たちの遠吠えを毎夜のように聞くようになった。
日照時間も大幅に減り、大陸標準時のAM5時、夜のとばりが落ちるまであといくばくの猶予もなかった。
「あと一里ってとこか…」
唸るように呟き、男は歩行ペースを少しあげた。
街道とは名ばかりで、舗装もあってないような、野原の中央を突っ切って続くあぜ道である。
だだっ広い荒野に人影は男一人だが、あと一刻もすれば夜行性のモンスター達が大挙して押し寄せてくるだろう。
特にこの草原はムーン・ウルフ達の生息地である。
群れをなした彼らに遭遇するということは死と同義だ。
故に、街と街を最短で結ぶにも関わらずこの道は敬遠されがちで、多くは回り道を選ぶ。
「もっと早足でなきゃやばいかもな…これ…」
性急な性格とは程遠いのであろう。男は大仰にため息をした後舌打ちし、不満ありありといったしかめ面をしてその足取りを更に速めた。
半刻ばかり歩いただろうか。道は荒野から細い林道へと変わっていた。さっきまでとは打って変わり、曲がりくねった道は数十メートル先の姿も見せない。
「さっさと宿屋にありつきたいもんだな…」
そんなことを言ってから、ふと気付いたように、鍔の長いハットの上から頭をかき、一人旅は一人言が多くなっていけねぇ…とまたつぶやいた。
耳をつんざくような悲鳴が、前方からあがった。
男はピクリと顔をあげ、しばらくの間した。
モンスターか、盗賊か。
面倒言には巻き込まれたくねぇな…
そう思った後、先ほどの悲鳴が女のものだったことを思い返した。
「しょうがない…」
どこか諦めたような苦笑。
生き方が変わっても、性分は変えられないものだな…
トレジャーズハットを深くかぶり直し、男は駆け出した。