二重螺旋の運命
以前別のところで書いていた短編です。
運命を変えるのは
あなたからのキス…?
◆◆◆◆◆◆
麗らかな日曜日。
柔らかく差し込む春の日差し。
心穏やかな休日…、なんて冗談じゃない!
「靖葉ちゃんは本当に太郎とお似合いねぇ。うふふふ」
うふふふ、という笑い声に引きつりそうになりながらもなんとか笑顔を作る。
今どき、うふふふ、って…。
愛想笑いを浮かべながら泣き出したい気持ちをこらえた。
今日はあたしのお見合いの日。
30過ぎて行き遅れになりそうな娘がお見合いさせられてる、とかでは決してなくって、あたしはこれでも女子高生。まだまだピチピチの16歳。
青春真っ只中な筈のあたしは、政略結婚なんぞというものをさせられようとしてる。
原因は両親。
◆◆◆
『やっちゃん!不甲斐ないお父さんとお母さんを許してくれっ!』
『…はっ!?』
いきなり頭を下げる両親に困惑顔のあたし。
あ、やっちゃんってあたしの愛称ね。
『実は…』
『お父さんの会社危ないのよ…』
『………………はぁっ!?』
『でもなっ!援助をしてくれるって方が現れてな!』
『そうそう!そうなのよ!だから大丈夫なの』
『だ、大丈夫ならいいじゃん。…あ~、ビックリした!』
そこで申し訳なさそうにあたしの顔を伺う両親。顔を見合わた後、あたしを向いて
『やっちゃんとの結婚が条件なの』
『…………………………………はああああっ!?!?』
◆◆◆
援助を申し出てくれた会社の息子が、どこぞのパーティであたしに一目惚れしたとかなんとか。
まさかドラマに有りそうな話が自分に降ってくるなんて…。
断るなんて、そんなことが出来る筈もなく。
だって、あたしたち家族だけならまだしも、会社の従業員さんたち全員の生活がかかってるんだよ!?断れるわけないじゃない!
お見合い相手、ていうか婚約者?未来の旦那って言ったらいいのかしら。とにかく、その息子はニコニコ(ニタニタ?)しながらあたしの目の前に座ってる訳でして。
今どき有り得ないくらいダサい七三分けに、またまたダッサい眼鏡をかけて、ちょっぴり(いや、かなり?)出っ張ったお腹がスーツのボタンを押しやっている。
てか、金持ちなんだから1サイズ大きいスーツくらい買えよ。
嗚呼、これがほんとのドラマだったら、この息子はすっごく格好良くって王子様みたいな筈なのにっ!!
淡い期待はあっという間に裏切られて、やっぱりどんなに目を凝らしてみても、目の前にいるのはただのオッサン。
いくらなんでも16歳の娘にあんまりよ。
うっ!不覚にもちょっと泣きそうだわ。
「すみません。少しお手洗いに…」
微笑を浮かべ、そそくさと席を立った。オッサンの視線をヒシヒシと感じる。
あぁ、もう。視線がジメジメしてて気持ち悪いわ。
熱っぽい視線をジメジメと勘違いする少女、靖葉。恋愛経験値ゼロ。
お見合いの席から見えなくなった所から泣きそうな顔を隠しながらトイレにひた走る。
トイレ何処よ!?ムダに広いホテルなんだからっ!
俯き加減でキョロキョロと辺りを見回していたものだから、あたしは目の前に立つ人に気が付かなかった。
ドンッッ
っったぁ!!!
あたしの体ははじき飛ばされて、尻餅をついた。いたたた…。
痛みで涙目になりながら、鼻を押さえる。
最悪…!今日はとことんついてないわ…。
「すみません、大丈夫ですか?」
差し出された手を見て、ぶつかったのが人だと分かった。
「す、すすすすみませんっっ!」
「立てますか?」
依然差し出された手に戸惑いつつその人を見上げると、そこには王子様がいた…。
二重のアーモンドアイ。茶色の瞳。頬に影を落とす長い長い睫。スッと通った鼻筋。凛々しい眉。薄い唇。少し長めな、ダークブラウンの髪。
彼の頭上が、なんだか眩しい。
嘘…。王子様がいる…。
ポーッと見つめていると、差し出された手はあたしの手を握り、片手はあたしの肩を掴んだ。
「ほら、立って」
促されるまま立つと、彼は168㌢のあたしが見上げるほど長身だった。
「大丈夫?どこか痛くない?」
「い、いえっ。だだだ、大丈夫ですっ」
真っ赤になってどもりながら喋るあたしに王子は微笑みかけた。
実際立ち上がって見てみると、彼は黒のスーツをビシッと着こなし、頭上には輝く王冠なんてものはなかった。
きっとライトが眩しくて王冠に見えただけ。
知らず知らずの内に王子の手を握りしめて、上目遣いで見ていたあたし。
口は半開きだったかもしれない。
どのくらい見つめてたんだろう。
そんなあたしの耳元に、彼は囁いた。
「誘ってんの?委・員・長?」
…………えぇえ!?!?
顔をバッと見ると、あまりの至近距離にたじろいだ。王子はあくまで優雅な笑顔。
あ、あたし、確かにクラス委員長してるけど!けど、けどっ、何でこの人が知ってるのっ!?!?
「物覚えわりぃのね、委員長。毎日お前らの相手してやってんのに」
嫌みたらしく溜め息を吐いた。
イキナリの横柄な物言いに、まじまじと目の前の男を見つめた。
「だ、だだだ誰っ!?」
こんな格好良い人、あたし知らない。出会ったこともないわ。出会ってたら、絶対覚えてる!
てか、お前らって…?何!?
「まじ分かんねえの?」
「わ、分かんないですっ」
未だに至近距離な顔と顔。綺麗な瞳に見つめられたら、身動きすら出来ない。乱暴な言葉遣いなのに、低く甘い声にドキドキする。
はぁっ、と一つ溜め息を吐くと、王子はおもむろに胸ポケットから眼鏡を取り出した。
「コレで、分かる?」
…………。
あーーーーっっっ!!!
声は出ないけど、目と口はこれでもかってくらい大開き。
「ふっ。変な顔」
「な、な、なっ…」
口をパクパクさせる。
「な、成美先生っ!?!?」
目の前で眼鏡を掛けて微笑んでらっしゃる御方は、よくよく見ると、我がクラスの担任、成美先生でありました。
◆◆◆◆◆
「…で、今お見合いしてる、と?」
はい、そうです。と頷いてみせる。
あれから成美先生にとっつかまって、此処にいる理由を吐かされている。
だって、普通の高校生に縁のない一流ホテルのラウンジ。プラス、明らかに普段にないおめかしをして挙動不審なあたし。
「だから、先生。あたし、そろそろ戻らないと…」
戻りたくなんか無いけれど、あんまり席を外していたら相手に失礼だ。
気が動転してたあたしは、先生が何でこんなところにいるのかなんて、これっぽっちも考えなかった。
「でわっ!」
グイッ
歩きかけたところ不意に腕を掴まれ、よろけた。先生を見上げる格好になる。
「結婚相手、誰でもいいんだろ?」
「だ、誰でもってわけじゃ…」
「政略結婚か…」
先生は麗しいお顔に微笑みを浮かべた。
「貰ってやるよ」
何を!?!?
なんて、あたしが口を開く前に先生はあたしの左手を握って歩き出した。
え?え?何っ!?
「あ、前金貰ってねーや」
チュッ
急に立ち止まった先生にまたもぶつかって、顔を上げた瞬間。唇と唇がごっつんこ。じゃなくて、優しく素早く触れた。
うええええぇ!?!?!?
「な、な、なっ」
「前金貰ったカラ。
お前、今から口挟むなよ?」
眼鏡をポケットにしまってあたしを見るから、顔は真っ赤になるし、今の出来事意味不明だし、今からって何のことだか理解不能。
「オッサンと結婚ヤなんだろ?いいから黙っとけよ」
何も言えないまま引きづられるように連れて行かれる。
いつの間にか握られてた手は、指と指が絡まった恋人繋ぎ。
混乱する頭は、もうパンク状態で、ワケ分かんない。
王子様=成美先生?
唇と唇が触れた=キスされた=ファーストキス!?
貰うって何を?キス????
オッサンヤだったら、黙っとくの??
◆◆◆◆
「やっちゃんっ!?!?」
「靖葉さん!?!?」
お見合い現場での声にハッと我に返った。
ええええぇ!?
あたし、何でここにっ!?
「初めまして。靖葉さんのお父様、お母様でいらっしゃいますか?」
て、先生?面談で会ったことありますよね??
つーか、何でここにっ?
しかも明らかに、この恋人繋ぎに注目行ってるし…。
「あっ、は、はい」
お父さんもお母さんも王子スマイルに完璧やられちゃってる顔だ!
「私、靖葉さんとお付き合いさせて頂いてる、桜田佳人と申します」
「はああああっ!?!?」
この場にいた全員の声が重なる。
幸か不幸か、あたしは固まったまま微動だに出来なかった。
「な、な、なっ。どういうことですの!?!?堤さん!?説明して頂戴!!」
指名された両親もあたふたするしかなくて、スマイルを崩さない成美先生に慌てて詰め寄った。
「娘とは、ど、ど、どういう関係な
「申し遅れました。私、こういう者です」
両親に名刺を差し出し、ついでにお見合い相手の方にも。
「さ、さ、桜田商事のっ!?」
みんな口をパクパクさせてる。
あたしだけ何のことかサッパリ。てかてか、何この流れ!付き合ってるって、誰と誰!?つーか、先生、桜田じゃなくて、成美じゃん!!
名刺を差し出す時に離れた右手が再びあたしの左手を掬い上げた。
「靖葉さんは、僕のモノなので、お引き取り願います」
そう言うと、彼はそっとあたしの薬指に口づけた。
◆◆◆◆◆◆
「せ、先生!」
「ん?」
「ど、ど、どういうことですかっ!?」
「うっせーな。そんなデカい声出さなくても聞こえるっつーの」
「いやいやいやっ」
「………」
「だって、相手あっさり帰っちゃったしっ」
「………」
「だって、先生付き合ってるって」
「………」
「だって、先生、成美じゃん」
「………」
「てかてか、うちんち倒産しちゃうっ」
「しねーよ。大丈夫」
「何で!?だって、援助は…」
「もぅ、黙れ」
「んっ………」
突然塞がれた唇は、柔らかくって、少し冷たかった、気がする。
「俺が大丈夫って言ったら大丈夫なんだよ」
王子様なのに俺様発言。
あまりの自信たっぷりさに、あたしは思わず頷いた。
◆◆◆◆◆
後日。。。
うちの会社が潰れることはなかったけど、結納の品々が贈られてきた。
何故だか両親は大喜び。
怯えるあたしに先生は一言。
「大丈夫。ちゃんと貰ってやるよ」
fin.
拙い文章を読んでくださってありがとうございました。
色々と説明不足な点があってすみません><連載版も書いていたので、何か反応があれば載せていきたいなと思っています。