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2話



黒曜石みたいに綺麗な髪と瞳。好き。

細身に見えて意外と筋肉質で、学年順位はいつも15位前後。頭めっちゃいい。

変に優しいから一部女子からすごくモテる。

でもちょっと?…いや、かなりの鈍感。

それが私の知る朔先輩という生き物だ。


最近教えてもらったけど、朔先輩はジンジャークッキーが好きなんだって。

だから不器用なりに一生懸命に作った。


喜んでくれるかな?

胃袋掴めちゃったりするかな?

なんてスキップしながら部室に向かったのに、今日は珍しく先客がいるみたいだった。


中から声が聞こえて、ドアを前にノックする手が止まった。


「千春、今日はどうしたんだ?」


「なによ、来ちゃ悪いの?」


「そんなことは…ないけど」


ドア越しでもわかる。

朔先輩いつもより少し楽しそう…。

私と話してる時とはまた違った声だ。

絶対に後悔するってわかってるのについ聞き耳を立ててしまう。


「…婚約者は?」


「…いいの。」


「また約束すっぽかされたのか?」


「…忙しい人だから仕方ないわ。」


イラっとした。

なんで、朔先輩にそんなことを言いにくるの。


もういっそ飛び込んで邪魔してやろうか。

そう思うのに足は床に縫い付けられたみたいに動かない。

ドアの前に立ち尽くしたまま、私は2人の会話を聞いていた。


「それより最近楽しそうね?」


「ん?あぁ、最近後輩に懐かれててさ」


「珍しい。好きなの?」


「好きじゃないよ。」


……聞きたく、なかった。

わかってるよ、好きなのは千春先輩だよね。


千春先輩だって本当はわかってるくせに。

そんなことをわざわざ聞くなんてちょっと性格悪くない?


無意識に噛んでいた唇が痛む。

でもきっと朔先輩はもっと痛い。

だって千春先輩が幸せじゃないといつまでも諦めきれない。

さっさと幸せになってよ、私達とは関係ない場所で。

いつまでも朔先輩の優しさに甘えないでよ。


…本当に嫌な女。


私よりずっと綺麗で、可愛くて、幼馴染で。

…勝てるわけないじゃん。


「ふーん?

それより貴方の好きなジンジャークッキー作ってきたのよ。」


「マジ?サンキュー!」


その瞬間、無意識に手に力が入る。

グシャッと紙袋が音を立てて歪んだ。


中で砕けたジンジャークッキーは少し焦げてて苦かった。

……まるで私の恋心みたいに。


こんなの渡せるわけがない。


視界が滲む。

廊下に差し込む春の日差しがぼやけて、世界が歪んで見えた。


あー辛い。

こんなに辛いのに好きをやめられないなんて。


…私って本当バカ。




__________


1週間が経った。


私は朔先輩にどんな顔をして会えばいいのかわからなくて部室には行けなかった。

いつもみたいに絶対に笑えないと思ったから。


会わなければ少しは落ち着くかと思ったのに。

時間が経てば経つほど

「朔先輩どうしてるかな…」

なんて考えて勝手に傷ついていた。


「あー…辛い…片思いしんどい。」


「ジメジメ鬱陶しいわね。

最初からわかってたじゃない。

千春先輩と日和じゃ天と地の差って。」


呆れたように言いながらリツカは机に伏せた私の頭をくしゃりと撫でる。

辛辣な言葉とは裏腹にその手はどこまでも優しかった。


ジンジャークッキーも一緒に作ってくれたのにこの有様だ。

手のかかる友人で、ほんとすみません。


「あ」


「リツカー?手が止まって…る…。」

「日和。」


聞き慣れた低い声に、勢いよく顔を上げた。


「……朔先輩?え?何?」


「コイツ借りてっていい?」


「どうぞどうぞ。」


「悪いな。」


ゴツゴツした大きな手が私の手首を掴む。

え?何?

これもしかして手を繋いでる?

そう気づいた瞬間ぶわっと体温が上がった。


「え?え?え?」


「ごゆっくりー。」


ヒラヒラと手を振る呑気なリツカを背に、わけがわからないまま私は朔先輩に手を引かれてクラスを後にした。




__________


人気のない廊下で立ち止まり私は恐る恐る朔先輩を見上げた。


「あの、朔先輩?」


先ほどまでのモヤモヤはどこへやら。

先輩が教室に来てくれた。

それだけで嘘みたいに気持ちが明るくなる。


我ながら単純。


緩みそうになる口元を誤魔化すようにぎゅっと唇を結ぶ。

そんな私とは裏腹に朔先輩は少し困ったように眉を下げていた。

何その顔可愛いんですけど。


「……悪い。」


「どうしたんですか?」


「…………。」


「私が来なくて寂しかったですか?」


「……そうだな」


一瞬、呼吸が止まった気がした。


「ですよね、寂しい訳ない…って…え?」


「元気そうで安心した。」


「それは…そんな言い方、狡いですよ先輩。」


この人が好きすぎて胸が苦しい。


「ごめん。」


「…仕方ないのでまた遊びに行ってあげます。」


「……待ってる。」


朔先輩は千春先輩が好きなはずで。


私なんか眼中にないはずなのに、

そんな表情をされたら単純な私は簡単に期待しちゃうんですよ?


もう少し頑張ろうって思ってもいいんですか?


ねぇ、朔先輩。

朔先輩は私のこと、本当はどう思ってますか?

なんて聞く勇気が私にあったらよかったのに。






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