第八話:義妹との密室逃走と、能力が作り出すロマンチックな惨事
義妹との密着と能力暴走
その日の夕方。僕は義妹の莉子と二人きりで、リビングでテレビゲームをしていた。莉子は僕のテレポートの残滓を見て以来、僕との距離が異常に近い。
「あー! 悠真兄、ずるい! 私のキャラクターが落ちた!」
莉子は不満そうに、背後から僕の首に腕を回して抱きついてきた。僕の頬は莉子の髪に触れ、甘いシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。
(やばい! 物理的接触、かつ感情的な距離がゼロ! 力が暴走する!)
僕は反射的に、力を極限まで制御しようと集中した。しかし、莉子の体温と圧迫感が、僕の力の制御弁をこじ開ける。
暴走した念力は、僕たちの周りの空間そのものに作用した。
『ドンッ!』
突然、リビングの空間が揺らぎ、次の瞬間、僕たちは家の中で最も狭い場所、つまり物置部屋の中にテレポートしていた。
物置は狭く、肩が触れ合うほどの密着状態。莉子も僕も、持っていたゲームコントローラーを床に落とし、驚きで固まった。
「え、なにこれ? 家の中でテレポートしたの?」莉子は目を丸くしている。
「ち、違う!これは、地震で家具が移動したんだ!物置の壁が、振動で一時的に移動しただけだ!」
僕は咄嗟に、「地震による物理現象」という凡人らしい理由をでっち上げた。
「へえ、すごいね。でも、物置の中って……なんか、秘密の隠れ家みたいでドキドキするね、悠真兄」
莉子はそう言って、僕の腕をぎゅっと掴んだ。彼女は、この密着状況を全く嫌がっていない。むしろ楽しんでいる。
(最強の超能力者なのに、義妹の隣で物置に閉じ込められるなんて、これ以上の受難があるか!)
救出を呼ぶロマンチックな惨事
このままでは、莉子に「この部屋から脱出しろ」という要求をされて、さらに能力が暴走しかねない。
僕は再び、能力を使った。今度は、僕たちを救出する外部要因を呼ぶためだ。
目的: 僕たちが物置にいることに、不自然ではない理由で誰かに気づかせる。
操作: 家にいる母が、今すぐ『古いアルバム』を開き、『二人が物置で遊んでいた時の写真』を見つける確率を九九パーセントに設定する。
数秒後、物置の外から母の声が聞こえた。
「あら、懐かしい写真。悠真と莉子が小さい頃、よくここで遊んでいたわね。あれ?二人の気配がないけど、どこかしら?」
母は、僕たちが物置にいることを確認するために、ドアを開けるだろう。これで脱出できる。
ところが、僕の能力は、ここでハーレム展開への意図を発揮した。
母が物置の扉を開けた瞬間、暴走した能力が、物置の天井からぶら下がっていた古いクリスマス用のイルミネーションに作用した。
『キラキラッ!』
イルミネーションは、天井から舞い降りるように、僕と莉子の頭上に降り注ぎ、物置の隅に置いてあった古いオルゴールが、ごく自然に(しかし僕の念力で)「愛の夢」を奏で始めた。
母がドアを開けたとき、目にしたのは、イルミネーションの光の中で、オルゴールのBGMに合わせて密着している、ロマンチックな雰囲気の僕と莉子だった。
「あらあら、まあまあ! 二人とも、そんな素敵な雰囲気で、懐かしい遊びをしていたのね。邪魔しちゃ悪いわね!」
母は微笑んで、そっとドアを閉めてしまった。
「ええーっ! お母さーん! 助けてよ!」莉子が叫ぶ。
「無駄だ。母さんは今、僕たちを『愛し合う二人』として認識した」
「愛し合うって……まあ、そうなんだけど……」莉子は顔を赤らめた。
僕の能力が作り出す「ハチャメチャな偶然」は、必ず親密な状況を最高潮に演出してしまうのだ。
突如現れたヒロインたちと、物置の限界
物置の密着状態は続く。このままでは、さらに別の能力暴走が起き、物置が高級ホテルのスイートルームにでも変わりかねない。
すると、今度は外から、複数の女子生徒の声が聞こえてきた。
「神代くん! メロンパン(カメ)が、急に綺麗な鱗を出し始めたって、佐藤さんが心配してるわ!」
「神代先輩! バレー部のマスコット契約書にサインしてください!」
「神代くん、貴方の運命の糸が、この家のどこかの壁に繋がってるって、天音会長が言ってるわ!」
和泉咲、バレー部キャプテン、天音会長、そして佐藤までが、メロンパン(カメ)の異変や、僕との「運命の糸」を理由に、僕の家に集合していた。
そして、外から佐倉の声が聞こえた。
「神代。君の能力暴走により、君の家の物置が、校内中の女子生徒にとって『神代悠真のいる場所』として、潜在意識で認識され始めた」
「まさか!」
『ドンッ!』
物置のドアが開き、和泉たちがなだれ込んできた。
狭い物置の中に、莉子、僕、和泉、天音会長、バレー部キャプテン、佐藤、そして佐倉までが、極限の密着状態でひしめき合う。
最強の超能力者が、能力の暴走により、家の中の物置で、七人のヒロイン(と一名の監視者)と密着するという、ハチャメチャなハーレム状況を作り出してしまった。
神代悠真です。現在、僕は物置の中で、六人の女子生徒と一人(佐倉)に囲まれています。体勢は、僕が壁側で、莉子が僕に抱きつき、その前に和泉が、後ろに天音会長とバレー部キャプテンが、そして佐藤さんと佐倉が入り口で詰まっているという、史上最悪の状況です。
しかも、天井からはクリスマスイルミネーションが、オルゴールと共に僕たちの顔を照らしています。もはや物置ではない。これは『愛の監獄』です。
メロンパン(カメ)が鱗を出し始めたのは、僕の能力の暴走が、「メロンパンを可愛がってくれるヒロインたちへの褒美」として、カメの進化を促したのでしょう。
さて、この絶望的な密着状況から、僕はどう脱出すればいいのでしょうか。力を使えば、この物置が宇宙ステーションにでも変わりかねません。
僕は、凡人として、このハチャメチャな密着状況を、どう楽しむか、という方向に意識を切り替えるべきかもしれません。もう、隠すなんて無理です。
神代悠真




