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隠された最強の物語  作者: 沼口ちるの
本編

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第三話:静かな追求と、焦げ付いた秘密

義妹の「特別な」眼差し

火曜日。僕の能力隠蔽作戦に新たな緊張が加わったのは、夕食時だった。


テーブルの向かいには、僕の義妹である神代かみしろ 莉子りこが座っている。高校一年生で、明るく社交的な性格。僕の家に来て二年になるが、血の繋がりがない分、逆に互いを遠慮なくからかい合う、良好な関係だ。


「悠真兄、今日どうしたの? 晩ご飯のお皿、いつもより三ミリくらい浮いてなかった?」


莉子が、いたずらっぽい顔でフォークを突いた。


「は? 何言ってるんだよ。疲れてるんじゃないか? 皿は皿の上に置かれているんだ、当たり前だろ」


僕は冷や汗をかきながら、反射的に否定した。


(まさか! 外での緊張が家でも緩まなかったのか? 僕の念力が、無意識のうちに皿をわずかに持ち上げていたのか?)


僕の能力制御は、精神状態に大きく左右される。佐倉の監視と図書館のノイズ、そして和泉との一件で、僕の心は限界近くまで追い込まれていた。


莉子は皿を見つめ、首を傾げる。


「うーん、気のせいかな? でも、悠真兄って時々、周りの空気とはちょっと違うよね。なんか、すごく集中してる時とか、風景に溶け込んでいるみたい」


彼女は能力の残滓を見抜いた佐倉とは異なる、家族としての鋭い感覚で、僕の「異質さ」を感じ取っていた。これが、僕が莉子に秘密を言えない最大の理由だ。彼女は僕を信じているがゆえに、少しの変化も見逃さない。


「勉強に集中してるだけだ。さっさと食え」


僕は話題を強引に変え、彼女の頭を軽く小突いた。その瞬間、莉子は不満そうにしながらも、嬉しそうに笑った。


(莉子、頼むからこれ以上、兄さんのことを見つめないでくれ。これ以上見つめられたら、君が一番好きな、棚の上の限定フィギュアを、念力で台座から五センチだけ動かしてしまうかもしれない)


購買部の戦場と生徒会長の視線

次の試練は、昼休みの購買部だった。


パンを買うために行列に並んでいた僕の前に、突然、背後から一人が割り込んできた。


「ごめん! 私、これだけ急いでるの! 先生に頼まれたのよ!」


それは、僕たちの学校の生徒会長である月島つきしま 恵那えなだった。三年生で、容姿端麗、成績優秀、誰もが認める才女だ。彼女は常に公明正大で、規則を重んじる。


月島会長は、購買のおばちゃんに「急ぎの書類を届けないといけないから」と頼み込み、行列を突破しようとしていた。


周囲の生徒たちが戸惑う中、僕は反射的に因果律操作を発動させた。


目的: 月島会長に、行列を無視しても許される、十分な理由を、外部からもたらす。


操作: 購買部の上方に設置されている、古びた火災報知機のバッテリーが、ごく自然な経年劣化で今すぐ切れる確率を九九パーセントに引き上げる。


『ジリリリリ……(一瞬)』


火災報知機は、一瞬だけ作動し、すぐに停止した。


「あ、やだ。故障ね。すみません、急ぎます」


月島会長は、報知機を見て一瞬驚き、自分の行動の正当性を思い出したかのように、パン一つだけを指差し、支払いもせずに走り去った。


生徒たちは「また誤作動かよ」と笑い、誰も会長の行動を責めなかった。会長は、「火災報知機の故障という緊急事態」と「先生に頼まれたパン」という二つの理由で、行列を無視することが「許される」という結果になった。


僕の完璧な因果律操作は、再び成功した。


だが、去り際に、月島会長は僕の方を振り返った。その瞳には、一瞬、全てを見透かすような冷たい光が宿っていた。


「……神代くん。変なことに巻き込まれないようにね」


彼女はそれだけ言い残し、急いで階段を駆け上がっていった。


(彼女は何かを知っているのか、それとも僕の微かな力の揺らぎを感じたのか? 生徒会長という立場が、彼女に何らかの情報をもたらしている?)


佐倉の接触と、焦げ付いた資料

放課後。図書館で歴史資料集を広げていると、僕の隣に佐倉澪が静かに腰を下ろした。


「神代。昨日のリボン、あれは偶然じゃない」


佐倉は正面から僕を射抜く。


「何の話だよ、リボンが解けたなんて、よくあることだろ」


「君が操作した。極めて微細な力で、リボンの結び目の分子構造を緩めた。〇・一ワットの力。私には見える」


彼は、僕の力の出力値まで正確に言い当てた。佐倉は、僕と同じ、あるいは僕の力を検知できる何らかの能力を持っている。


「君は何者だ? 超能力者か?」僕は低い声で問う。


「違う。私は、観測者ウォッチャーだ」


佐倉は自分の手に持っていた、僕が昨日触れた古書と同じ表紙のない本を僕の前に置いた。


「この本には、過去、君と同じような力を持ち、世界を『偶然』で操作しようとした者の記録が残っている。ノイズの正体は、この本に挟まれた焦げ付いた紙片だ」


彼は資料の間に挟まれた、指の形に焦げ付いた紙の切れ端を取り出した。それは、極度の念力使用によって、紙が瞬間的に燃焼した痕跡だった。


「その男は、自分を『神』と称し、世界を完璧な偶然で支配しようとした。だが、彼の力は暴走し、最後に彼が触れたこの本と、彼自身を焼き尽くした。これは、因果律を操作した代償だ」


佐倉は、僕の最も得意とする能力の危険性を、静かに警告してきたのだ。


「君の力はあまりにも大きい。そして、君は感情に流されやすい。和泉咲のリボンが解けたように、少しの心の揺らぎが、世界に大きな『不自然な偶然』を生み出す」


彼の瞳は真剣だった。佐倉は、僕の能力の暴走を監視し、防ぐために現れた。


「私は君の秘密を誰にも言わない。だが、君は私に協力しろ。この『焦げ付いた秘密』を、君の能力を使って解析する。さもないと、君も過去の男のように、代償を払うことになる」


最強の能力を隠すはずの僕に、協力者であり、同時に監視者である存在が現れた。しかも彼は、僕の力の秘密を完全に掌握している。


悠真の孤独な戦いは終わり、最も危険な共同作業が始まった。

神代悠真です。疲労困憊しています。


見ての通り、僕の周りは「普通の日常」どころじゃなくなってきました。


義妹の莉子は、家族の愛という名の監視網を敷いてくるし、生徒会長の月島さんは、何をどこまで知っているのか分からない。そして、佐倉。あの観測者ウォッチャーめ。


彼は僕の力を全て見抜いているのに、なぜか僕を告発しない。協力しろ、だと? 彼は僕が力を暴走させて、世界を壊さないように監視したいだけでしょう。


しかも、あの焦げ付いた紙片。因果律を操作した代償……。


僕は、和泉のリボンを解いただけなのに。あれが、僕の無意識の「いちゃらぶ」を望む心の現れだとしたら、最悪です。


僕はもう、佐倉を遠ざけながら、和泉と月島さん、そして莉子との関係を、**全て「普通の偶然」**として処理し続けなければならない。


次は、佐倉の指示で、あの焦げ付いた紙片に込められた過去の超能力者の思念を読み取ることになるでしょう。


僕は、力を使わずにこの事態を乗り越えたいのに。


ああ、早く高校を卒業したい。本当に。


神代悠真

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