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隠された最強の物語  作者: 沼口ちるの
本編

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序章:力と静寂

某KSさんが脳裏によぎること深くお詫び申し上げます

完璧な「凡人」の技術

僕の名前は神代悠真。どこにでもいる、ごく普通の高校二年生だ。


ただし、一つだけ普通ではない点がある。僕は、この世界で最強の超能力者だということだ。


僕の能力の最大出力は、地球の地軸を数センチずらすくらいなら、あくびのついでにできるほどだ。物理法則は、僕にとっては単なる「無視すべきもの」に過ぎない。


しかし、僕の日常は、常にこの途方もない力を隠すことに費やされている。


「神代くん、またぼーっとして。課題は大丈夫なの?」


美術担当の佐伯先生の小言が、僕の思考を現実に引き戻す。窓際、午後の薄い日差しを浴びながら、僕は慌てて頭を下げた。


「すみません。ちょっと考え事をしていました」


考え事――それはもちろん、「どうすればこの力のせいで、僕が人類の監視対象リストAのトップに載らないか」という極めて重要な問題についてだ。


僕の超能力は、主にテレキネシス(念力)とサイコメトリー(残留思念読み取り)、そして極めて稀な因果律操作(確率制御)の三つに分類される。しかし、本当に恐ろしいのは、その出力の高さと、精密な制御力だ。


例えば、今、僕の斜め前の席に座るクラスメイトの橘が、シャープペンシルの芯を折って舌打ちをした。


(ああ、折れたか。替え芯、探すの面倒くさいな)


その瞬間、僕は微細な念力を橘の筆箱に向けた。筆箱の底にある替え芯ケースのロックを、空気分子よりも細い振動で解除する。ケースを無音で数ミリ浮かせ、中から黒鉛の芯を一本だけ取り出す。


その芯を、橘が次にシャープペンシルのノックをする、コンマ数秒後のタイミングで、偶然彼の机の上に落ちているように見せかける。


ここまでの一連の操作は、〇・〇一秒で完了した。出力は、蚊の羽を浮かせる以下の微々たるものだ。


「お? あった」


橘は、机の上の芯を見つけ、まるで最初からそこにあったかのように自然に拾い上げた。


この「起こり得る偶然」の範囲内で力を制御する技術こそが、僕の生き残りのための全てだった。


予期せぬノイズ

放課後。静まり返った図書館で、僕は歴史の資料集を広げていた。


(この時代の戦争の生存確率は五パーセントだったと。戦況を考えると、僕の因果律操作を使えば九九パーセントに修正可能だが……)


力のシミュレーションをしていると、図書館の奥にある古びた書架から、微弱だが、不快なノイズが僕のサイコメトリーに飛び込んできた。


それは、過去の誰かの、強烈な「焦燥」と「力の奔流」の残滓だ。


僕は本を閉じ、立ち上がった。普通の人には、ただ古い紙と埃の匂いしかしない。だが、僕の能力は、この図書館の奥深くに、かつて僕と同じ、あるいはそれに近い能力を持った者がいたことを、明確に告げていた。


書架の隙間から、一冊の古いハードカバーを見つけた。表紙には何も書かれていない。


それを手に取った瞬間、ノイズは最大値に達した。それは警告だった。


同時に、僕の頭の中で、僕が設定した超能力使用のリミッターがけたたましい音を立てて鳴り響いた。


警告:周囲環境の変動を検知。最大許容出力を上回るエネルギー残留を確認。


僕は慌てて本を元の場所に戻した。力を隠すどころか、不用意に大きな力の残滓に触れてしまった。


この図書館に、僕の「普通の日常」を脅かす何かが隠されている。しかも、それは僕の存在に気づき始めているかもしれない。


僕は、誰もいない図書館の静寂の中で、冷や汗を拭った。


(まずは、このノイズの正体を突き止めなければならない。力を一切使わずに、完全に凡人として……)


転校生の観察

次の月曜日、二学期の始業式を終えた教室に、一人の転校生が現れた。


「皆、静かに。今日は新しいクラスメイトを紹介する。佐倉さくら れいくんだ」


佐倉は、教室の入り口に立った。均整の取れた顔立ちと、周囲の空気を吸い込むような静かな瞳。一見して、成績優秀な優等生といった印象だった。


佐倉は僕の隣の、空席だった席に決まった。


午後の授業中、僕は彼を警戒の目で見つめていた。僕の持つサイコメトリーは、人の表面的な感情や過去の思念を読み取るが、佐倉からは驚くほど何も読み取れなかった。まるで、彼の周囲に情報の壁があるようだ。


佐倉は時折、視線を僕の方に寄越す。それは、普通の人間が「隣の席のクラスメイト」を見る、当たり障りのない視線のはずだった。


しかし、僕は違和感を覚えた。


僕は今、無意識のうちに、ペン回しをしている。人差し指と親指の間でボールペンが回転する、本当に他愛のない、凡人らしい癖だ。だが、実はそのペン回しは、僕の思考を処理するための極めて高度な力の分散に役立っている。僕が周囲に漏らしてしまう微細な念力を、ボールペンの回転エネルギーに変換して消費しているのだ。


佐倉はそのペン回しを、まるで何かを探るように観察していた。


そして、不意に、佐倉の口元が微かに動いた。声にはなっていない。


(……残滓)


その一文字が、僕の脳内に直接響いたように感じた。佐倉が、僕の分散した力の微細な「残滓」に、気付いたのだ。


慌ててペン回しを止め、僕は資料集を開いた。心臓が早鐘を打つ。


(まさか。僕の完璧な凡人カモフラージュが、こんなあっさり破られるなんて)


僕の「最強を隠す戦い」は、静かに、そして突然、新たな局面を迎えた。

どうも、神代悠真です。


ここまで読んでくれてありがとうございます。たぶん、皆さんは僕が最強の超能力者だと聞いて、「世界を救え」とか「悪を倒せ」とか、派手な展開を期待したかもしれませんね。


でも、本当に難しいのは、そういうことじゃないんですよ。


世界を破壊するのは簡単です。地表の全ての岩石を数秒で粉砕できます。でも、そんなことをしたら、僕の日常は一瞬で終わる。


僕にとっての究極のミッションは、ただ静かに、平凡に高校を卒業することなんです。そのために、僕は日々、自分の力の九九・九九九パーセントを封印して生きている。


授業中に芯が折れたら、偶然替え芯が机の上に落ちているように見せかける。これが僕の、命がけの「力隠し」の技術です。


正直、図書館のノイズも、隣の席の佐倉のことも、勘弁してほしいと思っています。僕の理想は、誰も僕に気付かず、誰も僕の力を疑わず、朝起きて、学校に行って、帰ってきて、寝る。それだけです。


だけど、そうはいかないみたいですね。


あの佐倉という転校生。彼はきっと、僕が全力で隠してきた「僕ではない何か」を見抜いています。どうやって。どれくらい。何を目的としているのか。


力を一切使わずに、ただの凡人として、この危機を乗り越える方法を、これから必死に考えることになります。


どうか、僕のこの「普通の日常」を守るための静かな戦いを、見守っていてください。


神代悠真

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